マスターズ前週の「アナザー・ストーリー」【舩越園子コラム】

誇らしげな笑顔を見せるコナーズ(撮影:GettyImages)

マスターズ前週に開催されたバレロ・テキサス・オープンは、オーガスタ・ナショナルへの切符を手に入れるラストチャンスだった。

この2年、不調にあえぎ、マスターズに出場できていないリッキー・ファウラーは、最終日に6つスコアを伸ばしたものの10位タイに終わり、オーガスタ行きは今年も叶わなかった。

過去15回マスターズ出場を果たしたベテラン選手ながら、昨年はついに出場を逃したマット・クーチャーは、最終日に4つスコアを伸ばし、若者たちに交じって優勝争いを演じたが、3位タイに終わり、2年連続でオーガスタ行きを逃した。

最終日を2位に1打差の単独首位で迎えた30歳の米国人選手、パトリック・ロジャーズは、スタンフォード大学時代にタイガー・ウッズの記録に並ぶカレッジゴルフ通算11勝をマーク。鳴り物入りでPGAツアー入りした選手だが、これまで一度も優勝したことがなく、オーガスタ・ナショナルの土を踏んだこともない。

優勝争いには何度も絡み、2位に甘んじたこと3回。今回こそはツアー初優勝を挙げ、そしてマスターズへのラストチケットを手に入れようと必死だったが、そんな彼の切なる願いは逆に最終日の彼のゴルフを乱し、ロジャーズは5位に終わった。

ロジャーズ同様、今大会でPGAツアー初優勝とマスターズ初出場を目指していた26歳の米国人ルーキー、サム・スティーブンスの最終日の追撃は見事だった。

笑顔さえのぞかせながら優勝ににじり寄ったスティーブンスは、新人らしからぬ余裕さえ漂わせていたが、大詰めの場面では、やはり重圧を感じてしまったのだろう。

72ホール目のパー5。第2打を左に曲げず、グリーンを捉えていたら結果は違っていたのかもしれないし、うまく寄せたあとの短いバーディパットを沈めていたらプレーオフに持ち込めたのかもしれない。だが、初優勝には1打及ばず、マスターズ初出場もお預けになった。

多くの選手が「マスターズ」「オーガスタ・ナショナル」に心を揺らしながら戦っていた中で、最終日を首位に1打差の2位で迎えた31歳のカナダ人、コリー・コナーズは、すでに今年のマスターズ出場資格を手に入れていたという意味ではノープレッシャーだったのかもしれない。しかし、彼には別の重圧が重くのしかかっていた。

2019年のバレロ・テキサス・オープンにマンデー予選を突破して出場したコナーズは、見事、初優勝を挙げ、オーガスタ・ナショナルへの最後の切符を手に入れた。マンデー予選からの優勝はPGAツアー史上9年ぶりの快挙として大きな注目を集め、「これぞ、アメリカンドリーム」と賞賛された。

しかし、あれ以来、コナーズは優勝争いから遠ざかり、なかなか2勝目を挙げられずに苦しんできた。

「初優勝はまぐれ勝ちも起こりうる。2勝目こそが本当の実力の証」というフレーズを耳にするたびに、コナーズはその言葉が自分に投げかけられていると感じ、「プレッシャーにさいなまれてきた」という。

だが、今大会では、その重圧を跳ね飛ばし、好プレーを披露した。とりわけ最終日は小技が冴え渡り、4バーディを奪って首位に浮上。72ホール目はグリーン左奥のバンカーからの第3打がピンに寄らず、ヒヤリとさせられたが、今週一度も3パットせず、この日は一度もボギーを叩いていなかったコナーズは、最終ホールでもその流れを保ち、2パットのパーで締め括って悲願の通算2勝目を達成した。

「コースは難しいコンディションだった。決してイージーな戦いではなかったけど、うまくコントロールすることができた。4年ぶりの優勝を挙げたなんて、まだ信じられない」と、興奮冷めやらぬ様子で喜びを語っていた。

今大会で優勝してオーガスタへの最後の切符を手に入れるというドラマチックな展開は今年は見られなかったが、4年前にそのドラマを誰よりも劇的に演じたコナーズが、同じ地で再び勝利した今年の展開は、別の意味でとてもドラマチックなアナザー・ストーリーだった。

文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)

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