
43歳にして満開「グローバーの花」【舩越園子コラム】
PGAツアーのプレーオフ・シリーズ第1戦「フェデックス・セントジュード選手権」の最終日。松山英樹が終盤に猛チャージを見せ、TPCサウスウィンドの大観衆を大いに沸かせた。
フェデックスカップ・ランキング57位で今大会を迎えた松山。翌週のプレーオフ第2戦「BMW選手権」へ進むためには、ランキングでトップ50入りすることが求められていた。
3日目終了時点では危うい状況だったが、最終日は15番からの3ホールでバーディ、イーグル、バーディの快進撃。この日、スコアを6つ伸ばした松山は、トータル9アンダー・16位タイで4日間を終え、フェデックスカップ・ランキングは47位へ上昇。プレーオフ第2戦への進出が決まり、同時に来季のシグネチャー・イベント(現「格上げ大会」)8試合への出場資格も獲得した。
第2戦でさらに上位入りしてランキングトップ30に食い込めば、最終戦の「ツアー選手権」に10年連続で進むことができる。
第2戦へ進出できるかどうかの瀬戸際から蘇った松山の執念は、実に見事だった。だが、それ以上に圧巻のプレーぶりを披露したのは、優勝したルーカス・グローバー(米国)だった。
前週にレギュラーシーズン最終戦の「ウィンダム選手権」を制し、2年ぶりの復活優勝を果たして通算5勝目を挙げたばかりのグローバーは、今週も好調を持続。
2日目に単独首位に立つと、3日目も首位を保ち、最終日はパトリック・キャントレー(米国)に並ばれてサドンデス・プレーオフへ突入したが、1ホール目をパーで収めたグローバーが勝利し、通算6勝目を2週連続優勝で飾った。
「僕は、すっかり年寄りだ」というグローバーは現在43歳。40歳以上の選手による2週連続優勝は2008年のビジェイ・シン(フィジー)以来の快挙となり、40歳以上の選手によるプレーオフ・シリーズの優勝は2018年のタイガー・ウッズ(米国)以来というビッグな成功となった。
何よりすごいのは、グローバーのフェデックスカップ・ランキングの動きだ。ウインダム選手権開幕前は112位だった彼のランキングは、同大会優勝後に49位へ急上昇し、今大会優勝によって4位へジャンプアップ。これで最終戦のツアー選手権進出も確定した。
グローバーは2009年「全米オープン」を制したメジャー・チャンピオンだが、愛妻がDVで逮捕されたり、自身は長年イップスに苦しんだりと、山あり谷ありの人生を歩んできた。
そんな彼を暗闇から救い出したのは、長年のマネージャー、マック・バーンハート氏だ。グローバーのイップスを直したい一心で、バーンハート氏は全米のあらゆるスポーツ界を奔走。メジャーリーグ(野球)の元ピッチャー、ジェイソン・クーンがアトランタ・ブレーブスのピッチャーのイップスを直したという話を聞きつけ、今年5月にグローバーにクーンを紹介した。
クーンの指導を受けたグローバーは、レギュラーパターをロングパターに持ち替え、グリップの仕方もスプリットハンドに変更。そのおかげでイップスを克服できたばかりでなく、「グリップの仕方を変えたことが、僕のゴルフ脳をいい感じに刺激してくれた」。
それが転機となってグローバーのゴルフは好調へ転じたのだが、幾多の苦難を乗り越えてきた彼は決して浮き足立つことなく、「こうしてPGAツアーで戦えていることに、ただただ感謝している。常にもっと練習しようと思いながらやっている」。
ウインダム選手権で優勝した直後でさえ、グローバーは「もっと練習する。もっと頑張る」と言った。そして今週も「ひたすら戦い続けるんだ、戦い続けるんだと自分に言い聞かせていた」と明かした。
最終日、14番で池に落とした一打は痛恨だったが、長いパットを沈めたボギーセーブは見事だった。16番(パー5)は熟考を重ねた上でピンにきっちり寄せた第3打はベテランのワザだった。フックをかけてスタイミーな木々をかわし、花道へ運んだ17番の第2打とアップ&ダウンのバーセーブには執念が感じられた。
72ホール目のバーディパットは残念ながらカップに届かなかったが、サドンデス・プレーオフ1ホール目の18番でフェアウェイとグリーンを堂々と捉え、危なげなくパーで収めたグローバーの落ち着いた戦いぶりには、“パティ・アイス”と称されるキャントレーの冷静さを打ち壊すほどの静かな威力が感じられた。
グローバーがこれほど強い選手であることに、これまで誰も気が付かなかったのか。それとも、グローバーが今まで以上に強い選手へ進化しているのか。
43歳にして「グローバーの花」は、今こそが満開となりつつある。
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)
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