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自己ワースト4連続予選落ち、4度のスイング改造… そして稲見萌寧が切り開いた“新しい未来”【2023年涙のワケ】

優勝インタビューで涙を流す稲見萌寧(撮影:鈴木祥)

国内男女ツアーは2023年のシーズンが終了。男子は中島啓太が賞金王を戴冠し、女子は山下美夢有が2年連続で女王の座についた。そのなかでは、今年も“初優勝”、“復活V”などの見出しが踊り、印象的なシーンの数々が人々の心を打った。そこで選手たちが流した『涙』にスポットライトを当て、シーズンを振り返ってみよう。

シーズン終盤、11月での今季初優勝は、大きな意味を持つものになった。日本で唯一開催される米国女子ツアー「TOTOジャパンクラシック」で稲見萌寧が優勝。グリーンわきでの優勝インタビューでは声を震わせ、自然と涙が頬を伝った。

「今年は苦しい時期のほうが多かったので、ここで優勝できてよかった。今年のオフからスイング改造を4回ほどやりまして、前半は予選落ちもけっこう多かったですし、なかなか優勝争いにもいけなかった。チャンスが来て、ものにできてよかったと思います」

開幕戦2位でシーズンをスタートさせたが、そこから苦しい時間が続いた。「ヤマハレディースオープン葛城」は自己ワーストの104位で終わり、そこからこちらも自己ワーストとなる4試合連続予選落ち(途中1試合で棄権)も経験した。その原因のひとつになったのがスイング改造。オフから6月までに4回も変えた。

思うようにうまくいかず、自他ともに認める“練習の虫”の心の中にはジレンマがあった。「練習しても意味がないんじゃないかと思ったり、練習しないとうまくならないし、葛藤があった」。それでも、努力は裏切らない。「新しく取り入れるとかチェンジすることは、わたしにとっては練習したくなる要素。そこからまた、練習をやりたくなった」と、現在コーチを務める柳橋章徳氏の指導を受けたことで「これならいけるな」と、徐々にピースがハマり始めた。

圧倒的な強さで20-21年シーズンの賞金女王に輝いたが、昨年8月「ニトリレディス」以来、勝利から遠ざかっていたことにも不安はいっぱいだった。「いいスタートは切れたけど、そのあと(4~6月)ゴルフも自分の体調も崩した。不調が続いて、6月からは予選落ちがないけど優勝争いに食い込めなかった。モヤモヤした状態で、このまま終わりたくないと思っていた」。

秋口には「こだわりが強い」というクラブにも新たな試みをした。女王を戴冠したテーラーメイドのアイアンから、小学生のころに使用していたミズノにスイッチ。「実績をつくって、これで替えるのは勇気がいる。替えただけで驚きの声をもらった」と笑うが、それもショットメーカーに自信をもたらす新たな相棒になった。

1打リードで迎えた最終18番では、池越えのグリーン右サイドにピンが切られている状況で、フェードの球筋を描いてピンに向かっていった。稲見らしいショットが戻ってきた、そう感じさせるような力強い決定打で締めた。1年3カ月ぶり、そしてシーズン終了のカウントダウンが始まるなかやっとつかんだ今季初優勝。「しゃべろうと思っても声が出なくて。毎年1勝を目標にしていて、今年は勝てないんじゃないかという気持ちが強かった。安心感で涙がこみ上げてきました」とその瞬間をかみしめた。

この勝利により、来季の米ツアー出場権を獲得した。直後の会見では「チームと話し合いたい。フィフティ・フィフティ(50-50)」と明確な答えは出さなかったが、のちに行使することを決定。苦しい時間を過ごし、試行錯誤を重ねた先には、「新しい未来」が待っていた。(文・笠井あかり)

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