日産×篠塚さん 世界にインパクトを与えた“技術の共演”

機械がどんなに発達しても、それを作るのも動かすのも“人”

 
篠塚 とくに「匠」の人たちは、研ぎ澄まされた感覚が身についていると思います。指先の感覚や音を聞き分ける感性など。そういうことも経験を積んで、体に染み込んでるから“違い”が分かるのでしょう。

濱口 そうだと思います。野球の技術を体に覚え込ませるには、練習しかないのですか?

篠塚 もう練習しかありません。大事なのは練習の意識です。練習でバッティングピッチャーは同じところに「打ってください」というボールを投げてくれますが、試合では相手のピッチャーが打たさないように投げてきます。だからこそ、バッティングピッチャーの「打ってください」というボールを、あえてタイミングを変えて打ったり、詰まらせて打ったり、先で打ったり、泳いで打ったり、アウトコースのどのくらいまで外に届くか、といったことを確認しながらバッティング練習をしていました。

濱口 そうなんですね。この工場にもたくさんの機械があって取扱説明書のようなものがありますが、その通りにやっても求める精度が出るかというと出ないことが多いし、新しい設備を入れても、しっかりした精度が出るかというと出ないことの方が多い。その精度をいかにして出せるようにするかが、エンジニアの仕事でもあるし、それには多くの経験や高度なノウハウが要求されます。マシンがどんなに優れていても、結局は人が動かしているんです。機械を人が動かすし、機械を作るのも人。工場の作業者にはみんな「現場を動かしてるのはオレたちだ」という、自信と誇りがあります。それは若い頃から、5年、10年、15年と同じような作業を繰り返して体に染みついた感覚や技術があってこそ。

篠塚 野球の打撃でも、ティーバッティングで100%できて、フリーバッティングで100%できても、試合では3割ちょっとしか打てません。それなのに、ティーも2割できない、フリーも2割くらいだったら、試合では1割くらいしか打てないでしょう。

多種多様なクルマを同じ製造ラインに乗せて量産できる

濱口 日産には最も誇れるノウハウがあります。例えば「GT-R」という高性能のモデルがあり「アリア」のようなEVがありますが、様々なクルマを一本の製造ラインに乗せて量産する技術は、おそらくウチにしかないでしょう。日産の栃木工場へ行くと「GT-R」は「スカイライン」など他の車種と同じように、生産ラインに流れているのですから。

篠塚 多様なクルマを同じ生産ラインに乗せる量産システムも備えているのですね。

濱口 はい。そして、本日ご覧いただいたように「GT-R」は、横浜工場に数人しかいない「匠」による“手作り”で、機械による量産ではできないことをカバーしています。しかもスペックは、基準車の方が570馬力。今年、発表した「GT-R」は“24年モデル”になりますが、主に「空力性能の向上」を求めました。こんなに大きいクルマでハイスペックでありながら“日常の足”として使えるほど乗り心地が良い、という評価をいただいています。その“真逆”のような位置づけと言えるモデルが、100%EVの「アリア」でしょう。大きな特徴としては、フロントからリアにかけて「日本の伝統美」をあしらったデザインに。そして、4WDには「e-4ORCE」という電動4輪制御技術が備わり、先進の運転支援技術「プロパイロット2.0」(メーカーオプション)を搭載しています(詳細は前述)。

篠塚 これからは電気(自動車)の時代になるのでしょう。野球でもクルマ作りでも、技術の追求には終わりがないんですね。

問い合わせ先/日産自動車㈱ https://www.nissan.co.jp/ 
協力/鎌倉パブリックゴルフ場
衣装協力/テーラーメイドアパレル
取材・文/新井田聡
撮影/PMT

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