東大ゴルフ部が実践する超効率的上達法

同じミスを繰り返すことを嫌う東大生。二度と繰り返さないために原因を多角的に分析する

関東学生リーグでDブロックだった東京大学運動会ゴルフ部が、わずか1年半でBブロックに昇格したことがあった。当時行われていたのは、東大生だからこそできた効率的練習法。2016年より同ゴルフ部のコーチを務め、その後監督に就任したプロコーチの井上透に、東大生ゴルファーの何がスゴイのかを聞いた。

「監督の仕事はガバナンス管理。会社の運営と同じです」
 
そう話すのは東大ゴルフ部の監督を務めるプロコーチ・井上透。彼が重視しているのは、細かい指導よりも部全体を強化する仕組みづくりだという。
 
「新入部員の8割は未経験で、経験者でも100を切れない者はざら。部を強くするには、まずゴルフを好きになってもらう。好きになれば練習時間を捻出する。時間を作れたら上達に必要な情報が欲しくなる。そして情報を得る環境を作るのが私の仕事です。管理職が新入社員を育てる感覚でしょうか」(井上・以下同)
 
では、東大生のスゴさはどこにあるのだろうか。部員の入部理由は「就職に有利だから運動会(部)の肩書で卒業したい」など、強豪校に比べて熱量は低い。しかし彼らは厳しい受験競争を勝ち抜いてきた経験がある。
 
「東大に合格したということは、基本的にみんな負けず嫌い。加えて、やりたいと思ったことを達成する力がとても高い。だからやりたいと思わせて、苦手の原因を知るための情報と練習環境を整えれば、あとはそれぞれが工夫して達成していきます」
 
井上によると、関東学生ゴルフ連盟でBブロックに昇格するには、70台後半でラウンドする力が必要だという。つまり部員たちはBブロックに昇格した当時、初心者からわずか2年ほどで80を切るレベルまで上達したことになる。果たしてどんな練習をしたのだろうか。
 
「何でもその道の一流となるには1万時間の練習が必要と言われます。1日3時間としても1年で約1000時間だから10年かかる。忙しい彼らにはそんな時間は捻出できない。だからこそ、いいスイングを目指すより自分のミスの分析と修正を繰り返す練習が効率的なのです」
 
プロゴルファーの多くは理論的には正しいとされる美しいスイングを追求しているが、必ずしも全員が活躍できるわけではない。逆に個性的なスイングの人と一緒にラウンドしていて、飛距離やスコアで負けた経験のある人もいるだろう。
 
「うまい人は自分がしやすいミスのパターンを正確に認識し、ミスが出たときに修正する力とミスを予測する力が高い。つまりそれが『ゴルフ力』につながります。皆さんもここに重点を置けば、スイングは今のままでも3~5打は縮められます」
 
井上はまず初級者が80台で回れるようにするために、例えば「ツマ先上がりはフックしやすい」など、さまざまな状況をチャート化しマニュアルを作った。
 
「彼らは頭脳明晰です。そのため、ひとつのマニュアルを与えると自分でいろいろな方向から多角的に分析し、同じミスを重ねないためにはどうすればいいかを導き出すのです」
 
以下に東大式上達法を8ヶ条にまとめてみた。なるほど、と思う項目もたくさんあるので、ぜひ参考にしてもらいたい。
 
(1) 最新のデータ計測器を駆使してスイング情報を集める
ここ数年、ショットの打ち出し角やスピン量などを瞬時に測定できる機器や、インパクトの瞬間のフェースの動きを撮影できるものなど、最新技術を取り入れた計測器が次々に登場している。学生はそれらを使って自らのスイングを客観視することで弱点克服に活用。その数値がどういう仕組みで導き出されているかを分析すれば、どうクラブが動いてどんな球が出ているのかを知ることができる。中には空力や揚力といった視点を用いて応用する学生もいる。
 
(2) すべてのショットを平均点以上にする
部員たちに求められるのはコンスタントにスコアを出すこと。そこで「ゴルフは大学入試の共通テストと同じ」と話している。ショットやアプローチ、パットなどあらゆる状況で平均点以上を目指さないと平均スコアのアップにつながらない。得意なクラブを徹底的に練習する、という考え方もあるが、例えばフェアウェイキープ率80%の人が90%を目指すより、成功率30%の苦手なショットを70%に上げるほうが簡単。だからこそ自分の弱点を知ることが大切なのだ。
 
(3) ラウンド中のスタッツを記録し、ミスの傾向を知る
学生には、スコアとパット数をスコアカードに書き込むだけでなく、ラウンド中にできるだけ詳細な記録を取るように伝えている。今はパソコンやスマホに連動できるさまざまなアプリがあるから、それを使えばフェアウェイキープ率、パーオン率、リカバリー率などのスタッツは簡単に算出できる。フェアウェイやグリーンのどちら側に外したのかなど、細かく記録することで自分のミスの傾向が見えてくる。
 
(4) 上達のための時間を捻出する
東大は授業の時間もたっぷりあり、ゴルフ代の捻出のためのアルバイトも忙しく、練習時間の確保が難しい。学生たちはそんな状況でも移動中にスマホでスイング動画を見たり、毎日素振りはしたり、1時間でも練習場やトレーニングに行く時間を確保している。「東大に合格する」という明確な目標に向かって勉強していた彼らは時間管理能力も高い。ゴルフの目標に向けて努力する時間を作り出すのも同じ感覚で取り組んでいる。
 
(5) 絶対量でしか上達できないことは、ひたすら繰り返す
参考書というと1冊を1年かけてゆっくり理解していくという感覚があるかもしれないが、東大生は受験までに1冊を繰り返し勉強し、問題を見た瞬間に反射的に解答できるようにしている。ゴルフも同じように絶対量でしか解決できない課題がある。例えばアプローチの距離感を養うには、とにかくたくさん球を打ち、動きを体に覚えこませることが必要。打ち放題などの1球の単価が安い練習場で量を重視した練習をしよう。
 
(6) 目標は近く、明確にして、モチベーションを保つ
東大ゴルフ部には、初心者は赤ティ、ハーフで50が切れたら白ティ、45が切れたら青ティからプレーできるという伝統があり、これが部員たちの練習のモチベーションの一つとなっている。「いつかシングルになりたい」「年を取ったらエージシュートしたい」など、期限もなく具体性もない目標ではなく、「来月のコンペで90を切って、あの店でステーキを食べる」など、高すぎず低すぎない目標と、期限を近くに明確にすることが大切。それが練習へのモチベーションにもなる。
 
(7) 一定レベルになったら、練習量より調整力
がむしゃらに練習すれば誰もが90くらいで回れるようになる。一定のレベルに達した後は、練習量よりも自分の動きでどうやってフェースの芯に当てていくか、という調整力が大切。ダフリやトップ、ヒールやトゥに当たっているのでなければ、たとえ球筋が思ったとおりでなくてもOK。スイング軌道とフェースの向きがある程度マッチしていれば、そこそこ真っすぐ球は飛ぶので、あとはスマホで動画撮影するなどして、打点の調整をする練習をしよう。
 
(8) ラウンド前日の打ち込みはNG。下手にならない練習を
ラウンド前日に普段の練習不足を補うかのように球を打ち続けている人がいる。打ち続けるうちにミスショットが出始め、下手になって翌日に不安を残しながら疲れて練習をやめる…。これでは逆効果。ラウンド前日は、クラブ軌道や打点、フェースの向きなどのチェックにとどめ、あとは下手にならない練習、つまりアプローチの距離感など、感覚を養う程度の練習にしておこう。

■井上透プロフィール
1973年生まれ、神奈川県出身。米国でゴルフ理論を学び、97年よりプロコーチとして活動。2011年に発表した「韓国におけるプロゴルファーの強化・育成に関する研究」が早稲田大学大学院の最優秀論文賞に。東京大学運動会ゴルフ部監督、国際ジュニアゴルフ育成協会理事長としても活躍。ちなみに現在の東大ゴルフ部はCブロックで、Bブロック再昇格を目指している

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