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まな娘を思いながら『今、焦ってます』のメモ “ママさんルーキー”が過ごした合格までの緊張の数ホール【プロテストで見たドラマ】

まな娘の咲凛(えみり)ちゃんとツーショット。母の強さも見せたプロテストだった(撮影:福田文平)

先週行われた日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)の最終プロテストでは、新たに21人のルーキーが誕生した。うれし泣き、悔し泣きが入り混じった会場で、特に印象に残った合格者を紹介する。

『今、焦ってます』。コースメモにそうやって、心の声をすべて書き出した。そしてキャディバッグにキーホールダーにしてつけてあるまな娘の写真を見ながら、「娘が待っていてくれることも励みにして、頑張りました」と、フッとひとつ息を吐く。これが22歳・神谷和奏(わかな)の合格まで残り数ホールの様子だ。

19歳で結婚・出産を経験。2歳の咲凛(えみり)ちゃんを育てながら、プロテスト合格を目指してきた。「ゴルフは二の次で、娘のことを一番に考えて」。母親の本能にさからうことなく、練習時間を減らしながら、ここまでたどり着いた。最近は娘を保育園に預けられるようになったため、平日は3時間ほどボールを打つ時間が確保できているが、ラウンドとなると「試合の時だけ」。土日は「(練習時間が)ゼロの時もあります」というなか、ゴルフコーチでもある夫の幸宏(ゆきひろ)さんとともに、効率のいい練習を模索してきた。

15位タイと合格圏内で3日目を終えたが、これまで4度跳ね返されてきたプロテストの壁は、そう簡単には乗り越えられない。特に終盤は重圧のなかでのプレーを強いられた。前半こそ2つ伸ばし“安全圏”にも近づいたが、最後のバックナインになると、体、そして心が言う事を聞かない。11番でボギーを叩くと、14番パー3では4パットのダブルボギーが来てしまう。あとがない状況に追い込まれ「初めて焦りの気持ちが出てきました」。こうして冒頭のようにメモに不安を書き出した。

さらに15番は1メートルにつけたもののパー。気持ちが折れても不思議ではない状況だが、母はやはり強い。「最終ホールはたぶん緊張してうまく打てないから、次で獲るしかない」。勝負所に設定した16番パー3で、6メートルのバーディパットをねじ込んだ。百戦錬磨のプロといえど簡単に入る距離ではない。もしここを外していれば1打及ばずに不合格だったことを考えると、まさに“値千金のクラッチパット”だった。この劇的な合格に、ラウンド後の取材中、涙を抑えることはできなかった。

1988年ツアー制度施行後では初となる“ママさんルーキー”が誕生した。空もすっかり赤くなり始めた頃、コース近くに滞在していた夫が連れてきた咲凛ちゃんを抱きかかえると、合格ボードの前で1枚の写真におさまることもできた。「今ママさんゴルファーが増えてきているので、その仲間に入れるように頑張りたいです。家族を持ってゴルフをすることで、誰かに勇気を与えられるような選手になりたい」。ここから目指す選手像も、他の選手とはやはり少し異なる。

「4日間さびしそうにしていたので、まずは『ありがとう』といって、あとはいっぱい遊びたいです!」。大一番を終えると、すぐにその表情はママのそれに戻る。翌日に行われた入会式では、トップ合格の清本美波と、2位で通過した馬場咲希、そして神谷の3人がテレビインタビューの対象になるなど、この4日間で一気に注目度も増した。家族に支えられながら、これからツアーでの生活が始まる。

神谷和奏(かみや・わかな) 2001年10月1日生まれ、千葉県富里市出身。165センチ ■ゴルフ歴/3歳〜 ■得意クラブ/特になし ■1W平均飛距離/240ヤード ■スポーツ歴/テニス ■プロテスト受験回数/5回

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