【新天地を求めたものたち】電撃移籍で“絶対王者”の一員になったすみだの生え抜きエース・清水和也の決意。「1年半後のW杯で活躍して『ベスト8』の壁を越えるために」
昨シーズン、スペインから4年ぶりにフウガドールすみだへ復帰した清水和也。リーグ戦では通算20ゴールを決め、得点王とベストファイブを受賞し、ストライカーとして違いを示した。
シーズンを締めくくる全日本フットサル選手権大会決勝では決勝弾を挙げ、チームのタイトル獲得に大きく貢献するとともに、MVPを受賞。“Fリーグ絶対王者”名古屋オーシャンズへの移籍が発表されたのは、日本一に輝いた翌日のことだった。
清水はなぜ、高校生の頃から過ごしたクラブを離れ、戦いの場を移したのか。
インタビュー・文=舞野隼大
※インタビューは2023年4月21日に実施しました
兄に相談したことで非常にクリアになった
──まずは、名古屋オーシャンズへ移籍を決意した背景を教えてください。
時系列で話をしていくと、去年の10月にAFCアジアカップで優勝したあたりから、その先のワールドカップに向けて「自分が最大限成長するために、どのような道すじをたどるのがベストか」と考えるようになり、「新しい環境にチャレンジすることが自分のためになる」という判断に至りました。最初は海外への移籍を模索していて、いくつかのチームとコンタクトを取りましたが、契約がまとまらず、その時に名古屋さんから声をかけていただきました。
──成長を求める一方で、フウガドールすみだは清水選手にとって特別なクラブのはずです。そこを離れる葛藤は相当なものだったのでは?
そうですね……。高校生の時から育ててもらって、自分にとってかけがえのないクラブです。フウガがなければ今の自分のストーリーはまた違っていたと思います。(チームを離れることに対して)批判の声はなかったですけど、寂しがってくださる声、ポジティブな声かけなど、いろいろな声がありました。移籍を決めたからには成長した姿を見せて「自分自身の決断は間違っていなかった」と証明しなければいけないです。
──オファーを受けて、移籍の相談を最初にしたのは誰でしたか?
最初は、兄の誠也に相談をしました。家族として、一人のチームメイトとして、ライバルとして、真剣に話を聞いてくれました。自分だけで決めようとすると、やはりいろいろなことを考えてしまいます。兄に相談したことで非常にクリアになって、思いを決めることができました。家族が一番支えになりました。
──家族として、チームメイトとして意見をもらえる誠也選手の存在は大きそうですね。
そうですね。スペインに行く際もいろいろなところでサポートしてくれました。兄は兄弟としての視点と選手としての視点を持って接してくれるので、節目、節目で非常に助けられていますし、兄が移籍を考える時も同じように支えたいと思っています。
すみだ戦は遠慮なく真っ向勝負したい
──すみだでプレーしているイメージが強いので、まだ名古屋のエンブレムを胸につけている姿は見慣れないですね。
国内の移籍は初めてなので、新鮮な気持ちです。フットサル選手をやっていると、名古屋のようなチームが持っている“勝者のメンタリティ”と、そこに食ってかかる“チャレンジャーの精神”の二極に分かれるのかなと思っています。自分は、代表で名古屋の選手と関わって「こういうメンタリティもあるんだな」という程度でしかわかっていませんでした。名古屋というチームに移籍して、どんな化学変化を起こせるか自分でも非常に楽しみですね。そのなかでチームから求められていることは、すみだにいた時と変わらず、点を取ってチームに貢献すること。そのために自分らしさを出すことが最も大事だと思いますし、歴史あるチームの一員になったことで、このクラブの名を汚してはいけないと思っています。“名古屋オーシャンズの清水和也”として、チームに貢献することが自分の使命だと思っていますので、ここでのチャレンジが楽しみです。
──チームに貢献するためにも、まずは厳しいチーム内の競争に勝つ必要があります。
そこまで知らない選手もいないので、合流してすぐでもやりやすい部分があります。セッションを重ねるごとに自分らしさが出てくると思います。我々の目標はリーグやアジアでチャンピオンになることなので、非常に競争も激しいと思います。そこを勝ち取っていけるよう、1回1回のセッションがとても大事になります。
──名古屋に移籍してきたばかりの選手は、強度の高さに驚くことが多いです。日本代表やスペインでプレーしてきた清水選手はいかがですか?
合流初日は、代表活動から帰ってきたばかりなので体は動きましたが、この先どんな変化があるのか楽しみですね。みんな口を揃えて「キツい」と言いますけど、それを体感してみたかった思いもあったので。
──強度以外に、環境もかなり充実しています。このチームに来て感じたすごさはどこにありましたか?
海外を見ても、こうした自前の施設を持っているクラブは多くないです。用意してもらっているこの環境は世界でもトップクラスで、選手にとって成長できる要素が揃っています。その上で一人ひとりがプロフェッショナルですし、自分自身のパフォーマンスを上げるためにみんなが取り組んでいるところにすごさを感じます。
──スペインのエルポソ・ムルシアFS、コルドバ・パトリモニはどんな環境でしたか?
両チームは市内で提携しているホームアリーナを使ってトレーニングしていました。ジムは一般の人との共用でしたし、名古屋のような環境はバルセロナといったトップクラスのチームしかないと思います。
──リーグ戦を進めていけば当然、すみだと試合する機会があります。やはり古巣との試合は開幕前から意識してしまいますか?
そうですね。墨田区総合体育館は自分にとってのホームアリーナでしたし、数多くの思い出があります。非常に複雑な気持ちになるんじゃないかと、今から想像しています。フウガの選手、スタッフ陣、サポーターも、普段の清水和也を見れることに期待していると思います。変な感情を持ち込んでしまえば失礼だと思いますので、決断したからには遠慮なく真っ向勝負していきたいです。自分が成長した姿を見せることは、今フウガにいる選手たちだけでなく、自分自身に携わってくれた先輩方への恩返しになると思っています。自分のマックスをそこに当てたいですし、非常に楽しみな一戦になると思います。
──すみだのサポーターとしては新天地で成長を願う気持ちと、高校生の時から在籍していたチームから完全に離れてしまう寂しさもあると思います。
フットサルというスポーツのいいところは、ファンの人たちとの近い関係性ですし、SNSを含めたくさんの声が届いていました。選手権を優勝した翌日に移籍を発表し、申し訳ない気持ちがありました。ただ、スポーツ選手である以上、高みを目指すことは切っても切り離せません。そういった意味では、どんな形でもいいので自分自身にいろいろな感情を持ってもらえることはすごく幸せなこと。すみだで応援してくださった方には、「心の片隅でもいいので忘れないでほしいです」と伝えました。そして、オーシャンズのファンの方には自分をどんどん応援してほしいです。自分たちは後押ししてもらえる方がいるからこそ、選手としてやっていける部分がありますので、いろいろな感情を提供できることは非常にいいことだと思っています。
──27歳という選手として心身ともに脂の乗った時に名古屋に移籍してきました。この先はこのクラブや代表で結果を出し続けることなのか、世界のビッグクラブでプレーすることなのか。目標を教えてください。
先のことは自分自身、なにが起きるかわかりません。スペインに行った時も、思い描いていたストーリーとはちょっと違いました。それでも幸せな時間を過ごすことができましたし、なにが起こるかわからないなかでも、自分自身がこのスポーツのなかでどんどん大きくなっていけるようにしていきたいです。成長に関しては、一番大事にしているポイントです。
この移籍の決断をしたのは、日本代表選手としてW杯で活躍して「ベスト8」という壁を越えるためです。「残り1年半という短い期間で成長するには、ここしかない」という決意を持って来ました。チームとして結果を残さなければいけないですし、まずは厳しい競争に勝って試合に出なければいけないので、日々の練習から自分を最大限出していかなければいけない。みなさんにはぜひ期待してもらいたいですし、新天地でも自分らしさを持って暴れたいです。
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