「星」という名のもとに輝く人、星翔太。私は彼ら兄弟の親になりたい。|しょうこの心情系人物コラム
14日にはグループステージ初戦でフットサルアンゴラ代表と対戦し、8-4で勝利。試合終了間際、GK関口優志が投げたロングボールをゴール前で受けた星が、チームの8点目をマークした。日本フットサル史上初のワールドカップ初戦勝利に加え、この8点目が、同グループで得失点が並んだ強豪・スペイン代表を総得点で上回り首位に位置する決定打となった。
大会の開催地・リトアニアで取材する私にとって、思い入れのある選手でもある彼に焦点をあてる。
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フットサルの現状を変えたい。その思いの根幹となった人
「狂犬」という異名を持つ星だが、同時にクレバーな印象を持つ人も多いのではないだろうか。私が彼に対して最初に抱いたイメージがクレバーな部分だったので、狂犬の側面があまりピンときていなかった。今でもピンときていないかもしれない。
私が仕事としてフットサルに関わったきっかけはこれまでも各所で記しているが、バルドラール浦安の小宮山友祐監督が幼なじみだったことから始まっている。当時、小宮山は選手として浦安に所属しており、私も取材の対応や撮影など、なにかと浦安市総合体育館(現在のバルドラール浦安アリーナ)に行くことが多かった。もちろん、多くの試合も見た。当時は星も浦安に所属していたので、必然的に彼のプレーや人となりも知ることとなる。
詳細は伏せるが、私がまだフットサルと関わりをもって日の浅い、ある日のある会場でのこと。私はプレスルームの前で、人を待っていた。そこに星が通りがかり、私の近くにいた人と話を始めた。大会や試合のレギュレーションの話だった。その内容が、断片的に耳に入ってきた。星は、「このレギュレーションではチームや選手の負担が大きいのでは」というようなことを訴えていたのだが、その話を受けた相手は真剣に取り合っているようには見えなかった。少なくとも私には。実現可能がどうかはさておき、耳すら傾けないその光景は、フットサルの停滞を表しているように見えたのだ。しつこいが、少なくとも私には。さらに断りを入れておくと、その人はもうFリーグに関わっていない。だから書いている。
競技の魅力やポテンシャルは早い段階から感じていたので、なぜその魅力がいまいち伝わり切らないのかを知りたいと思っていた。その一端を見たような気がした。そして、変えたいと思ったのだ。薄っすらと思っていたことが確信に変わったので、この日のことはよく覚えている。その後、活動範囲が広がるにつれ、いろいろな監督や選手やクラブスタッフの思いに触れて「やっぱり変えたい」という思いは深まるのだが、その根幹は間違いなく星にある。
この話は、今年の2月から4月にかけて一緒にclubhouseをしていたときに連絡した流れで本人に伝えた。星は「まさか聞かれていたとは」と笑いつつも、何度かそういった話を掛け合ってきたなかで、あのときに「このままではいけない」と方法論を考えるきっかけになったと教えてくれた。
私が星の「狂犬」にピンとこないのは、先にこういった側面を知っていたからかもしれない。どちらかというと、笑っている顔のほうが印象に残っているのだ。試合には選手の誰しもが真剣に臨んでいるだろうし、プレースタイルや体幹の強さや叱咤する姿から怖い印象を受けるのかもしれないが、取材に対する受け答えはていねいで、その言葉からは競技や、プレーヤーとしての自分だけではなく、フットサル界の現状と未来について普段からとてもよく考えていることがうかがえる。そして、よく笑っている。浦安と名古屋オーシャンズが対戦したとき、翔太と弟の龍太の両方からそれぞれ話を聞いた。「顔はそっくりではないし体格も違うけど、声はすごく似ている」と伝えたときも笑っていたし、「髪切りました?」「自分でやったら切りすぎて」なんて話も笑いながらしていた。
今大会に向けて、カメラとレンズを買い足した。W杯のメディアパスはカメラマンとして申請していないが、トレーニングや街並みを収めるためだ。国内最終合宿最終日、15メートルほど離れた場所で、星と皆本晃が笑顔でこちらを見ていた。コロナ禍での合宿取材は選手との距離を十分に保ち、インタビューはオンラインで行われるため、直接会話をすることもない。しかし、私ともう1人、その場にいたカメラマンは、写真を撮るチャンスだとカメラを構えた。そのときの写真がこれだ。
私の腕がよくないので写真自体の質は低いが、とてもいい写真だと思っている。合宿やリトアニアに来てからのトレーニングでも撮影をしたが、今でもこの写真が一番のお気に入りだ。この2人、アンゴラ戦の最後に星がゴールを決めた後にも笑顔で抱き合っていた。
星と皆本の関係も好きだが、やはり兄弟のことにも触れたい。それぞれがトップリーグで活躍する選手で、さらには2018/2019シーズンからは同じチームに所属している。それだけでなく、フットサル日本代表にも兄弟で選出された。アンゴラ戦で一緒にピッチに立ち、兄の翔太のアシストで弟の龍太がゴールを決めた。いつも突拍子もないことを言っている私の発言なので軽く流してほしいのだが、私は星兄弟の親になりたい。2人で晴れ舞台に立つ姿も、2人の連係で決めたゴールもきっと、天国のお父さまも見ていたはずだ。お母さまはどんな気持ちだっただろうか。
試合翌日のオンラインインタビューでは、日本代表を率いるブルーノ・ガルシア監督が「兄弟で出場する初のW杯であり、しかもゴールを決めたことは、我々に心情的な刺激を与えるファクターの一つだった。兄弟そろってのゴールは次につながるポジティブな感情面のブーストをかけてくれる要因だったと思う。星家にとっては生涯、そして代々続くメモリーになるのではないか」と話した。
そもそも「星」という名字がもう、いいじゃないか。星という名のもとに、このW杯で思う存分に輝くことを期待している。
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