
怪我さえなければ……。NBAスターたちの悔やまれる瞬間【NBA講座vol.7】
カワイ・レナード(現ロサンゼルス・クリッパーズ)
デュラントが怪我をしてファイナルから離れることになった2019年のNBA FINALSで、ウォリアーズの3連覇を阻止した立役者が、カワイ・レナードである。
この年はまさしくレナードの年だった。PLAYOFFS EASTの準々決勝GAME.7での劇的ショットを決めたことをはじめ、FINALSではウォリアーズに勝利し当時所属していたトロント・ラプターズを初のNBA CHAMPIONに輝いた。レナード自身は2014年にサンアントニオ・スパーズでマイアミ・ヒートを相手に優勝して以来2回目の優勝であり、また2回目のFINALS MVPを獲得した年だった。当時マイアミ・ヒートはレブロンとウェイドとボッシュという「スリーキングス」が所属していて、勝てばスリーピート達成だったがレナードとラプターズに敗れた。この2019年と全く同じシチュエーションであるため、レナードはスリーピートを2回阻止したという記録も残る。
あまりに長い手足と史上最大とも言われる手の大きさが特徴であり、ニューバランスからレナード本人のシグニチャーモデル「KAWHI シリーズ」が販売されている人気な選手だが、デュラント以上に物静かな性格であまり感情を表に出さないことから「サイボーグ」や「ターミネーター」などと呼ばれることもある。
▲PLAYOFFS EASTの準々決勝GAME.7での劇的ショットを決めたレナード
2019年のオフにロサンゼルスに移籍した時点で右膝の手術を受けていたが、シーズン中はキャリア初のトリプルダブル達成やオールスターMVPに輝くなど順風満帆な移籍初年度を過ごした。この年は新型コロナウイルスの影響でシーズンの中断や無観客開催などを行って、最終的にクリッパーズはPLAYOFFSでデンバー・ナゲッツに敗れて敗退した。
順風満帆だった前シーズンとは異なり、2020-21シーズンは序盤に味方選手の肘が事故的に当たってしまい全8針を縫う怪我をしたり、プレーオフで右膝前十字靭帯を部分断裂の大怪我を負ってしまうなど悲劇に見舞われた。古傷の膝がついに爆発してしまったことで、その後の2シーズンも出場時間を慎重に管理してきたものの、2023-24シーズンはレギュラーシーズン終盤に右膝が腫れてしまう。プレーオフで強引に復帰するも本調子には程遠く、2試合に出場しただけで再び戦線離脱した。
今シーズンは、オフのパリ五輪代表に選ばれていたが膝の手術を行い2025年1月に久々に元気な姿を見せ、最終的にはPLAYOFFSまで出場した。1回戦でデンバー・ナゲッツに敗れてしまったものの、レナードのパフォーマンスは決して悪いものではなかった。
たまたまだが、レナードは今日6/29が誕生日で34歳になった。膝の怪我がなければもっとNBAを制圧していただろうと思われるだけに、来シーズン以降、再び彼が無双しているところを1人のファンとして見てみたい。
▲完全復活とも言えるパフォーマンスを披露したレナード。来シーズンに大きく期待
引退した選手部門
デリック・ローズ(プロ期間:2008〜2024年)
シカゴ出身であり、ドラフト1巡目1位でシカゴ・ブルズに指名されたローズは、ジョーダンの時代で止まっていたシカゴという街に、再びバスケットボールの熱狂を運んできた風雲児であった。
ローズのプレーはとにかく華があった。ジョーダンのように空中を舞い、空中を自在に動き回り、またドライブのキレやスピードも素晴らしくローズを止められる選手はそう多くなかった。新人王の受賞はもちろんだが、ローズはNBA3シーズン目である2010-2011年のシーズンMVPを、史上最年少となる22歳6カ月で受賞した。この記録は2025年現在も破られていない記録である。
ローズはルーキーイヤーから毎年チームをPLAYOFFSに導いていたがシーズンMVPを受賞した2010-11シーズンは、マイアミ・ヒートがスリーキングスを結成した年であり、PLAYOFFSのEASTの決勝戦でヒートに敗れた。ここまでが彼のピークだったかもしれない。
翌年のオフにはadidasと終身契約的なものを結ぶものの、度重なる怪我でローズは調子が上がらなかった。ただ、チームは非常に好調であったためPLAYOFFSは第1シードで出場。しかし、PLAYOFFSの1回戦でローズは左膝前十字靭帯断裂でシーズン終了となる。ローズが出られなくなったブルズは徐々に力を失っていき、第8シードの76ersに敗れてしまった。それにより、第1シードが第8シードに敗れるというNBA史上3例目の不名誉な記録を作ってしまう。
その後も右膝の半月板の断裂や足首の捻挫、さらに左膝の半月板の断裂など、とにかくプレーをしては怪我をする、というキャリアだったため「彼はもう終わりだ」と思われていた中で、2018-19シーズンに奇跡は起こる。
ミネソタ・ティンバーウルブズに所属し、シーズン序盤にユタ・ジャズとの試合で自身のキャリアハイとなる「50得点」を記録した。長く・度重なる怪我で思うようにプレーできなかったローズは、この日は昔のように身体能力だけに頼ることなく、すっかりベテランと言えるような味のあるプレーで輝いた。時折見せたルーキー時代のようなドライブも輝いたため、ローズは試合終了後のインタビューで大粒の涙を流した。これを見たファンも涙した。
CAREER-HIGH 50 PTS ✅
Game-Winning Block ✅
A Night to Remember ✅Derrick Rose lifts the @Timberwolves to victory at home with a historic, emotional performance! #AllEyesNorth #ThisIsWhyWePlay pic.twitter.com/DrysNGIyCy
— NBA (@NBA) November 1, 2018
ローズはこれを最後に、あくまでチームのメインスコアラーではなくロールプレイヤーとしての役割を全うしていくことになり、2024年までNBAで活躍を続けた。最後は大学時代を過ごしたメンフィスの「メンフィス・グリズリーズ」と契約をしてそのキャリアを終えることとなる。当然、シカゴ・ブルズは引退が発表されたその瞬間に、ローズがつけていた「1番」は永久欠番と決定した。ローズは膝の大怪我を経験するまで「ほとんどストレッチをしたことがなかった」というエピソードも持っているが、では、彼がもしストレッチを十二分にした状態でプレーを続けていたら、彼はどんなプレイヤーになって、何度MVPを受賞していたのであろう。そんな世界も見てみたかったものだ。
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