NBAドラフトの仕組みとは?高卒でNBAに入れないって本当?ドラフトで大豊作と言われた年は?【NBA講座vol.8】

日本時間の6月26日(木)に、NBAドラフトが行われた。
NBAドラフトとは、アメリカの大学生などを中心に世界中から「未来のスター候補」がエントリーをし、夢のNBA選手になる夢をつかむための第一歩である。
先日の2025 NBAドラフトでは、全体1位指名権を持っていたダラス・マーベリックスが、今回のドラフトで大本命と言われていた「クーパー・フラッグ(デューク大学・18歳)」を指名して大きな話題となった。

ただ、ダラス・マーベリックスは昨年WEST 10位でそこまで弱くなかった。
ドラフトは未来のスーパースターを取れる場所なのだから、通常であれば「全体1位指名」は「昨年成績が一番良くなかったチーム」が持つべきではないか、と思うかもしれない。
今回はその辺りのドラフト制度について、細かく紹介していく。

前回記事:
怪我さえなければ……。NBAスターたちの悔やまれる瞬間【NBA講座vol.7】

NBAドラフトとは

まずNBAドラフトとは、日本でいうところのプロ野球のドラフトとイメージはほぼ一緒である。
毎年6月から7月頃に開催され、NBAチームが新たなスターを獲得するための仕組みで、プロ注目の大学生や高校生、または海外リーグで活躍している若手が毎年エントリーする。

選手がドラフトにエントリーするためには、以下2つだけルールがある。
1:ドラフト年の12/31までに、年齢が満19歳以上
2:高校卒業から1年以上経過

この時点で違和感があるかもしれないが、NBAは高校卒業してすぐにNBA入りすることはできない。2005年までは高卒からNBA直行が認められていたものの、2006年からは禁止となり現在もそのルールが続いている。

理由は非常に明確で、成功と失敗の差が極端であったこと。レブロン・ジェームズやコービー・ブライアント、ケビン・ガーネットといった高卒でもレジェンダリーな活躍をした選手が多い一方で、肉体的にも精神的にも若く、育成に時間がかかることや途中でダメになってしまう選手も多かった。
チームにとっては「未知数でリスクが高い投資」と見られることが多くなってしまったため、またメディアからも問題視されたことで「高卒NBA直行禁止」という現在のルールとなっている。


2025年のNBAドラフトで全体1位指名を受けたクーパー・フラッグの大学時代のハイライト

NBAドラフトの基本的な構造

NBAドラフトは、当然ながらNBAに所属する全30チームが指名権を持って参加をする。指名権は基本的に2つ。
まず30チームの中で順番を決めて、1チーム1名、選手をピックアップしていく形でドラフトは進む。「1巡目」というのは、30チームの指名が一通り終わる(一巡する)ことを意味しており、エントリーした選手側とすれば「TOP 30の選手に入れる」という非常に名誉あることだ。まして「TOP 10」に入れることができたならば、一生誇りに思えることでもある。NBAドラフトは「2巡目」まで行うため、各チーム2名の若手選手を獲得できる仕組みである。合計で60名が指名されるNBAドラフトは、当然ながら60名の中に入れなければ、その年にNBA入りすることは、ほぼできない。

例として今年の2025年ドラフトで言えば、以下の通りである。
1位:クーパー・フラッグ(ダラス・マーベリックス)
2位:ディラン・ハーパー(サンアントニオ・スパーズ)
3位:V・J エッジコム(フィラデルフィア・76ers)
4位:コン・カニップル(シャーロット・ホーネッツ)
5位:エース・ベイリー(ユタ・ジャズ)

今年の場合、1位のダラス・マーベリックスは正直何も考えずに自分たちが一番欲しい選手を指名できるが、順番が後になればなるほど、自分たちより前に指名権を持っているチームが誰を選ぶかを予想した上で、自分たちに必要な選手をピックアップしておかなければならない。

例えば、今年6位指名権を持っていたのは「ワシントン・ウィザーズ」というチームであるのだが、例えばウィザーズがその1つ前にユタ・ジャズが指名した「エース・ベイリー」を欲しがっていた場合は、ベイリーを取られてしまったために次の候補者を選択しないといけない。
ただし、それでもどうしても「ベイリーが欲しい!」といった場合は、ドラフト当日にトレードを持ちかけることもある。ウィザーズがジャズに対して「ベイリーが欲しいんだが、ウチのドラフト1位と、誰々選手でトレードしないか?」と持ちかけてジャズが「OK!」と言えば、ドラフトでコールアップされたにも関わらず、数時間後に「ジャズからウィザーズにトレードされたから、あなたの一年目はユタではなくワシントンになった」と、エージェントから伝えられる。このように、ドラフト当日もビジネスとしては動いている。


2019年のNBAドラフトで全体9位でワシントン・ウィザーズから指名された八村塁。日本人がNBAドラフトで呼ばれたのは史上初のことだった

ドラフトの指名順について

冒頭で軽く触れたが、NBAのドラフトは昨年の順位が低かった順番に指名権が与えられるわけではない。NBA30チーム中、30位の成績だったチームが1巡目1位の指名権が取れるわけではない、という意味である。

具体的に、以下の方法で指名順を決めている。

・下位14チーム(抽選)
PLAYOFFSに進出できなかった14チームが、ドラフト上位指名権をかけた「抽選」を実施。この「抽選」は、成績が悪いチームほど「全体1位指名権」を獲得できる確率が高く、成績のワースト3に入ってしまった3チームは「14%」で獲得できる。

・PLAYOFFS進出した16チーム
この16チームは、シンプルに「レギュラーシーズンの勝率」が、低い順から決まっていく。これは抽選など何もなく、シンプルに勝率によって自動的に順番が決まってしまう。

ちなみに2つほど小話を。

今年全体1位でスーパースターのクーパー・フラッグを獲得できたダラス・マーベリックスは、昨シーズンWEST10位で順位的には「もう少し頑張ればPLAYOFFSに出られた」くらいのポジションだった。
そんな彼らは当然ワーストチームではなく、全体1位の指名権を獲得できる確率はたったの「1.8%」であった。それでもこの1.8%という驚異的な数字でも1位指名権を獲得したヒキの強さは、「マブスの完全勝利」とNBA関連の各メディアを大きく騒がせた。

抽選会でマブスが全体1位(1.8%)を取った瞬間

もう1つは、このドラフト指名権そのものがトレードの材料として使われるということ。
例えば、今年優勝したサンダーはその典型例である。

サンダーは2019年に、当時所属していたスーパースターの「ポール・ジョージ」を放出する代わりに、今年MVPを獲得したシェイと未来の1巡目指名権を大量に獲得した。

▼当時のトレード内容
OKC → LAC:ポール・ジョージ
LAC → OKC:シェイ・ギルジャス・アレクサンダーと、1巡目指名権5本(2022年、2023年など)

※OKC=オクラホマシティ・サンダー
※LAC=ロサンゼルス・クリッパーズ

この結果、クリッパーズは優勝を目指すためにポール・ジョージを獲得したものの度重なる怪我でその夢は叶わず。一方のサンダーは、トレードで獲得したシェイがスーパースターに成長し、またクリッパーズから獲得した指名権で、相棒のJ-Dubこと「ジェイレン・ウィリアムズ」と、屋台骨を支えたビッグマンの「チェット・ホルムグレン」を獲得した。

目の前のスーパースターを獲得するために、未来の指名権をトレードに出すことは”NBAあるある”だが、今年優勝したサンダーは数年前からこの「指名権大量獲得作戦」をとっていたことで、優勝して最高のメンバーを揃えている現状にも関わらず、これからの7年間で「17本」の指名権を持っている。そのため、優勝してもスターを獲得できる可能性を持っているし、必要であれば指名権をトレードに出すこともできる。GMの手腕が見せた結果であるが、今のサンダーを見てしまうと指名権の大切さを実感する。

当時のトレードが正しかったのかを再考する趣旨の投稿

 

ドラフトで大豊作だった年は?

最後に、これまでのNBAドラフトで「大豊作」と呼ばれ、多くのスターが排出された年を紹介していきたい。きっとあなたも1人くらいは名前を聞いたことがあるはずだ。

▪️1984年
この年は「史上最高」という声が非常に多い。わかりやすいところでは「マイケル・ジョーダン」が指名された年である。ちなみにジョーダンは全体3位。全体1位は”ドリーム・シェイク”という素晴らしいフットワークでゴール下を無双した「アキーム・オラジュワン」だった。他にも、今はNBA解説としても活躍し、現役時代は”空飛ぶ冷蔵庫”とも呼ばれた「チャールズ・バークレー」が全体5位、ジョーダンと何度もNBA FINALSで戦った名ポイントガードの「ジョン・ストックトン」が全体16位でユタ・ジャズに指名された。
オラジュワン、ジョーダン、バークレー、ストックトンの4人は、その後「NBAの偉大な50人」にも選ばれた。当然この4名は殿堂入りしている。

▪️1996年
1984年と同じくらい大豊作と言われているのが1996年。全体1位には、183cmの小さな巨人「アレン・アイバーソン」がフィラデルフィア・76ersから指名される。アイバーソンはその後のNBAにファッションでも旋風を巻き起こした。当時ダボダボした服・着こなしを流行らせたパイオニアはアイバーソンで、アメリカだけではなく世界中でその着こなしが大流行した(日本ではBボーイなどと称されていた)。
アイバーソン以外にも、高校卒業後から鳴り物入りでNBAに入り一時代を築き上げた「コービー・ブライアント」が全体13位で指名された。コービーはシャーロット・ホーネッツから指名を受けたが、ドラフト当日にレイカーズへトレードされたため、ホーネッツはこの件を「一生悔やむべきこと」とも発言している。他、カナダ人で初のシーズンMVPを受賞したスティーブ・ナッシュがサンズに全体15位で指名された。

▪️2003年
2000年以降で一番の大豊作だったと言われているのが2003年。2025-26シーズンでNBA23年目を迎える生きるレジェンド:レブロン・ジェームズが、高卒で地元のクリーブランド・キャバリアーズに全体1位で指名された。また、3位には当時レブロンとずっと比較されていたスーパースターの「カーメロ・アンソニー」がデンバー・ナゲッツから指名。他にも、サウスポーで器用な211cmの「クリス・ボッシュ」をトロント・ラプターズが全体4位で指名され、マイアミ・ヒートで何度も優勝を経験した「ドウェイン・ウェイド」が全体5位で指名された。

一方、この年に「全体2位」の指名権を持っていたデトロイト・ピストンズは、海外リーグで活躍していた213cmのビッグマン「ダーコ・ミリチッチ」を全体2位で指名。しかし、ミリチッチはNBAに全く適応することができずに、その後も何チームかを渡り歩いたがまともに活躍できなかった。スーパースターのカーメロ、ボッシュ、ウェイドよりも指名順が高かったことで「史上最悪のドラフト2位」などと罵られることもあった。
一方で、ピストンズはこの年のドラフトでとんでもない失敗をするものの、この年のNBAでは優勝を勝ち取っている。もしカーメロやウェイドなどを獲得していたら、もしかしたら優勝はできなかったかもしれない。この年のピストンズは特に「スーパースターなし」で「チームバスケット」で優勝した年だったからだ。

この年優勝したピストンズは、ドラフト1位の選手はもちろんおらず、全員目立った存在ではなかった。お世辞にもスターと言える選手はいなかった。次回の記事では、そのような「ドラフト外や下位指名でNBA入りしたけれど、NBAで活躍した選手」について紹介していく。