
バスケットボールに限らず、多くのプロスポーツには「オールスター」という祭典が必ずと言って良いほど存在する。それぞれのリーグにおいてオールスターを開催する目的は異なるが、その多くは超一流の「スーパースター」が集まって試合をしたり、得意分野におけるパフォーマンスをしたり、またフェスのように会場周辺も巻き込んでお祭りをするなどが多い。よって、これによる優劣はそもそも存在しない。そこにいる人たちが楽しんでもらうことが全てである。
ただ、この考え方は一般論であり、競技の中に突っ込んだ話になると大きく話は変わってくる。今回はバスケットボールにおいて、「オールスター」がどのような立ち位置で扱われ、どのような反響があるのかを突っ込みたい。他のリーグで実践しているオールスターの形についても少し触れながら。
そもそもバスケのオールスターとは何か。“祭典”という名のブランド装置
まず前提として「オールスター」がどのように始まっていったかの経緯について紹介したい。
NBA:オールスターはリーグブランドを再構築するための商業戦略
NBAのオールスターゲームは、1951年(1950-51シーズン)に初開催された。発案の背景には、当時のNBAが抱えていた深刻な課題があった。
リーグは1946年創設と歴史が浅く、観客動員も安定していなかった。さらに1951年にはカレッジバスケットボール界で大規模な八百長スキャンダルが発覚し、バスケットボールそのものの信頼が揺らいでいた。この状況を受け、NBA広報責任者ハスケル・コーエンと、ボストン・セルティックスのオーナーであったウォルター・ブラウンが提案したのが、「スター選手を一堂に集めたイベント」の開催だった。
狙いは明確で「リーグのイメージ回復」「スター選手のブランド化」「メディア露出の拡大」「観客動員の強化(実質テストのようなもの)」であり、最初から“商業的なリーグ活性化策”として始まった。しかも第1回は約1万人以上動員で大成功と呼べるものであったために、翌年以降も継続開催へすることになった。NBAのオールスターは、競技の祭典ではなく「リーグブランドの再生装置」として、NBAの信頼回復と人気拡大に向けて誕生したものである。
Bリーグ:
Bリーグ以前、日本のバスケットボールといえば、実業団リーグとして運営がされていた。オールスター的なイベントが本格化したのはJBL(日本バスケットボールリーグ)時代であり、1970年代後半から80年代頃である。
実業団リーグが開催するオールスターのため、目的としては「企業チームのPR」「日本代表候補の強化試合的な意味合い」「バスケの普及イベント」だった。「企業広報の延長」や「競技振興」に近い存在と言えるだろう。また、bjリーグがあった時代、bjは完全にエンタメ志向でダンクコンテストなどのパフォーマンス重視の「ショー」を意識した設計。最終的に現在のBリーグになってからは、「ファン投票による人気選手の明確化」や「体験価値の拡張」が目的で、重視されているのは「競技の純粋強度」よりも市場拡張と体験価値である。
NBAはスターを使ってブランドを作っていくことを目的とし、日本は当初競技普及や企業PRを重視したが、近年はエンタメ色を強化している、ということと言えるだろう。
そもそも起源の思想が違うが、同じバスケットボールという競技の中にいると、どうしてもそれを比較した意見も出てきてしまうもの。次章からは、それぞれのリーグにおけるオールスターを、取り組みや試合などから考える見せ方について深掘りしていく。
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2027年はアリゾナのフェニックスで開催されるNBAオールスター
考え方①:NBAオールスターが“本気”に回帰した理由
かつては200点ゲームが頻発し、守備の強度が極端に低い“ショー重視”の内容が問題視されていたNBA。これはNBA選手の「怪我」を危惧した結果として起こったことだが、しかしリーグはここ数年、意図的に競技性を回復させる改革を行っている。
まず、2023〜2024年にかけて、オールスターの視聴率低迷が米メディアで大きく報じられた。特に2024年の試合は「史上最高得点(211-186)」を記録した一方で、守備の強度不足が批判の対象となった。リーグにとってオールスターは単なる余興ではなく、グローバル放映されるブランドイベント。競技の質が疑問視されることは、そのままリーグ価値の毀損につながると、この時に色濃く認識された。
その前の2020年から「Elam Ending(目標得点制)」を導入し、試合終盤の緊張感を高めた。これは亡くなったコービー・ブライアントへの敬意も込められた制度改革であり、形式的ショーから“勝負”へ戻す象徴的施策だったが、結果的にこのような形になってしまったことで、NBAはより緊張感を増すために、今年は「USA vs ワールド」フォーマットを導入。アメリカ人選手による2チームと、国際選手で構成される1チーム(ワールドチーム)の「計3チームによるリーグ戦」を初めて実施した。1試合の時間はたった10分。A vs B、B vs C、A vs Cの総当たり戦をした後、成績上位2チームが決勝に進むというフォーマットだったが、これが当たりだった。とにかく10分に全てを注がなくてはいけないため、選手たちは全力でプレーした。これによって、かつてのオールスターと称された「スターたちのスーパープレーが見られる興行」として改めて位置付けられた。
最も、これは「ワールド」の存在が大きい。「ワールド」はアメリカ以外のスーパースターたちで構成されたチームだったが、彼らはそもそも「アメリカに勝ちたい」という気持ちが強い。それが軸にあったことで、いきなり強度の高い試合が行われた。この「ワールド」がなければ、もしかするとこれまで通りのオールスターだったかもしれない。また、オールスターが“本気”に回帰しているのは、リーグ主導だけではなく、選手自身がブランド価値を理解しているからでもある。例えばレブロン・ジェームズやヤニス・アデトクンボらは、メディア取材で守備強度向上の必要性を語っていたことが、その裏付けと言えるだろう。
近年NBAが注力しているグローバル施策は海外の人気を集めるだけではなく、再びアメリカにおけるNBAの価値を高めてくれていると言えるだろう。
Victor Wembanyama at NBA All-Star 2026:
🌍 33 PTS
🌍 8 REB
🌍 3 BLK
🌍 10-13 FGM
🌍 20 MIN pic.twitter.com/6rGzKZIvBb— NBA (@NBA) February 16, 2026
今回のオールスターの強度を決めるような活躍をした、226cmのヴィクター・ウェンバヤマ(ワールド)
考え方②:なぜ日本(Bリーグ)のオールスターはエンタメ寄りなのか
Bリーグのオールスターは、NBAのような「競技強度回復」ではなく、一貫して“体験価値拡張”に軸足を置いている。それは偶然ではなく、リーグの成り立ちと成長戦略そのものに理由がある。
そもそも、Bリーグは2016年に誕生した新しいリーグであり、まず必要なのは競技レベルの証明よりも、市場の拡張と認知の拡大だった。Bリーグ公式は、オールスターを「年に1度のバスケットボールの祭典」と位置付け、”地域創生”と”革新性”をコンセプトに掲げている。これはオールスターの場所を「真剣勝負」ではなく「街とバスケをつなぐ装置」として設計していると言えるだろう。
Bリーグのオールスターは毎年開催地を変え、自治体と連携しながら実施される。これは単なる会場選定ではなく、地域経済・観光との連動を前提にした設計である。公式発表でも、地域との共創・街づくりへの波及が明確に語られており、イベント全体としても競技の序列提示ではなく「地域ブランディング」を狙い、加えてオールスターは開催内容(試合、スキルチャレンジ、ダンクコンテスト、3Pコンテスト)に加えてファン参加型の企画実施、音楽ライブなど、街を巻き込んだ総合イベント化が進む。
日本のプロスポーツ市場では、NBAのような圧倒的なスター経済圏がまだ形成されていないため「スターの序列化」よりも「ファン層の拡張」を優先するという結果である。Bリーグ公式資料でも、競技力の向上よりも観客動員やファンベース拡大が重要なKPIとして掲げられている。
今日のために、篠山竜青選手が特訓を重ねて臨んだオールスターの大舞台🎤
と思ったらマイクが・・・😂@shinoyama7 @brave_thunders@Josh_Hawkinson @naoto158 @grande_mikey99#Bリーグオールスター#りそなグループ #Bリーグ pic.twitter.com/SvWUBakudv— B.LEAGUE(Bリーグ) (@B_LEAGUE) January 18, 2026
選手自らがコンテンツとなり盛り上げた今年のBリーグオールスターの様子
考え方③:他競技に見るオールスターの多様化
オールスターの“あり方”はスポーツごとに大きく異なっている。単なるスター集結ゲームとして企画された歴史的原型はあるものの、各リーグはファン動員・視聴・ブランド価値向上のために多様なフォーマットを模索している。以下、代表的な例を見ていこう。
大規模メディアイベント化:MLBオールスター
米国のMLBオールスターゲームは、リーグの主要オールスターイベントとして最も長い歴史を持ち、中継視聴でも他競技と比べて高い数値を維持している。2025年大会は平均約7.2 百万人の視聴を集め、同週のホームラン競争(Home Run Derby)も独立した人気番組として成立するなど、野球界の“総合メディアイベント”として認識されている。
このイベントでは本戦だけでなく「ホームラン競争」「若手選抜試合」「セレブリティ・ソフトボール」「オールスター投票」などといった週を通じた体験型コンテンツが組み込まれ、視聴者・スポンサー双方にとって価値の高いプラットフォームとなっている。
競技性と意義の再定義:NFLプロボウル
NFLプロボウルは、かつてはシーズン終了後の伝統的なオールスターゲームとして行われたが、近年競技の魅力や安全性の問題から競技性が低く扱われるようになった。また2028年のロサンゼルスオリンピックにて、「フラッグフットボール(タックルではなく腰につけた紐を取るタイプのアメフト)」が採用されたことを受けて、2023年以降は当初のタックルフットボール形式からフラッグフットボールへ移行し、プロボウルそのものを再ブランド化している。
リーグ主導の狙いは、スター選手への怪我リスク軽減や、世界的に成長するフラッグフットボール競技のプロモーションでもあるなど、ファンエンゲージメント拡張を狙った形式変容といえる。
競技ルールやフォーマットの大胆な変更:NHL(アイスホッケー)
北米アイスホッケーのNHLは、従来のオールスターゲームが視聴率低迷や関心低下に直面したことで、2025年以降一部リーグイベントを中止し、より魅力ある国際大会などに置き換える試みをしている。
例えば、4 Nations Face-Offのように国・地域別対抗戦形式を採用し、ファンが競技本来の緊張感やナショナルアイデンティティを体験できるイベントにシフトしている。こうした動きは、単なるリーグ・オールスターではなく“競技そのものの魅力強化”を意図した多様な舵取りとして評価される。
このように、他競技のオールスターイベントの変遷を見てみると、近年は「媒体消費の変化に対応するための視聴体験強化」「競技性と安全性のバランス調整」「国際化/地域化による付加価値創出」といった要素が各リーグで重視されていることが分かる。
全面的なショー化を進めるのではなく、競技の価値とファン心理の両方に響く形式へアップデートしているとも言える。
We need Rajon Rondo as QB1 for 2028 Flag Football Olympics 🇺🇸
(🎥: @Frankie_Vision) pic.twitter.com/9jXGkCvfT5
— Complex Sports (@ComplexSports) February 21, 2026
元NBAスターのレイジョン・ロンドがLA五輪にてフラッグフットボールのQBを狙っているという噂も
NBAと日本の比較
バスケットボールという競技そのものを愛する人にとって、Bリーグのオールスターはやや物足りなく映ることがある。特にNBAを見慣れているファンからすれば、「競技力で勝負する場」というよりも「ファン向けのエンターテインメントコンテンツ」と感じられるかもしれない。それはNBAファンに限らない。Bリーグを応援している人の中にも、選手が真剣勝負の中で輝く姿を求める層にとっては、やや消化不良に感じられる可能性はあるだろう。
しかし、ここで見落としてはならないのは、そもそも設計思想が異なるという点だ。重要なのは、エンタメか競技か、どちらが正しいかではない。問題は、オールスターを「何のための装置」と定義しているかである。
NBAは一度ショー化が進みすぎた反動として、競技の尊厳を取り戻す方向へと舵を切った。他競技もまた、視聴体験の変化や安全性、国際性といった要素を踏まえながらフォーマットを変化させ続けている。
オールスターは固定されたイベントではない。それは、リーグの思想を映す鏡である。各リーグのオールスターが今後どのように進化していくのか。それは単なるイベント設計の問題ではなく、プロスポーツそのものをどう設計していくのかという問いに直結する。前提となる思想を理解したうえで見れば、それぞれの挑戦はより立体的に、そして興味深く映るはずだ。
【参考】
https://www.nba.com/news/archive-75-nba-all-star-history
https://thedigestweb.com/basketball/detail/id%3D10083
https://www.reuters.com/sports/new-nba-all-star-game-format-draws-highest-ratings-15-years--flm-2026-02-17/
https://www.bleague.jp/all-stargame2026/about/
https://apnews.com/article/super-bowl-pro-bowl-nfl-goodell-f9e6a761d1432ca9818e05f965feb700
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