受け継がれる“ニックスの天敵”の意思。ミラーが「リーグに欠けているもの」を取り戻したヤングを称賛<DUNKSHOOT>
昨季のプレーオフ・ファーストラウンドで対戦したアトランタ・ホークスとニューヨーク・ニックスは、イースタン・カンファレンスにおいて新たなライバル関係となりつつある。
ホークスは4年ぶり、ニックスは8年ぶりのポストシーズンとなった昨季のシリーズは、4勝1敗で前者がニックスを撃破。とりわけ輝きを放ったのが、若きエース・トレイ・ヤングだ。
マディソンスクエア・ガーデン(MSG)で行なわれた初戦の試合終盤、決勝弾となるフローターを沈めると、3勝1敗で迎えた第5戦の残り約1分にもクロスオーバーからプルアップのディープスリーをヒット。とどめの一撃をお見舞いした直後、観客へ向かってシリーズ終了を告げるお辞儀をしたパフォーマンスも印象的で、平均29.2点、9.8アシストの大立ち回りを披露しニックスに引導を渡した。
そして、このヤングの活躍——クラッチショットを沈める勝負強さ、そしてニックスとMSGの天敵として躍り出た姿——を観て、レジー・ミラーを思い出した人もいるだろう。
インディアナ・ペイサーズ一筋、キャリア18シーズンで平均18.2点、3.0リバウンド、3.0アシストをマークしたミラー。201センチ・83キロという細身の体格ながら、アウェーゲームでブーイングを浴びても自らのショットでそれをかき消すほどの実力が備わっていた。
そのミラーとニックスの“因縁”としてまず思い出されるのが、MSGで行なわれた1994年のイースタン・カンファレンス・ファイナル第5戦。ミラーが第4クォーターだけで25得点(試合全体で39得点)の集中砲火を浴びせ、ニックスをねじ伏せた一戦だ。
さらに翌95年のカンファレンス・セミファイナル初戦では、残り18.7秒で6点ビハインドの劣勢から、3ポイント2本とフリースロー2本を決める“ミラータイム”が開演。世紀の大逆転劇を起こし、ニックスと、そのファンを奈落の底へと突き落とした。
11月27日(日本時間28日、日付は以下同)。そのミラーが米紙『New York Daily News』のインタビューに応じ、昨季ホークスとニックスが見せたプレーオフシリーズについてこう語っていた。
「あれは観ていて楽しかった。今、あの2チームは本物のライバルとなりつつある。それはトレイ・ヤングがいて、ホークスとニックスによるものだからさ」 先月発表されたNBAの75周年記念チームにも名を連ねたミラーは、ニックスの天敵となりつつあるヤングについて期待を寄せているようだ。
「私からすれば、あれこそ今のリーグになくなっていたものであり、欠けているものだったと思う。私は個人プレーも、スーパースターのことも大好きだ。そこは誤解しないでくれよ。でも、選手が“心底嫌う街”に降り立つことは、互いを新たなレベルへと引き上げることにつながるんだ。
(私がペイサーズにいた時に)どれほどニックスのことが嫌いだったか。(ロサンゼルス)レイカーズがサクラメント(キングス)を嫌っていたようなものさ。それが観ていて最高なんだ。だから私はトレイのことを称賛しているんだ」
その27日、ホークスとニックスは今季初対決。ニックスが敵地で99-90で勝利し、ホークスの連勝を7で止めた。だが、この試合でもヤングは5本の3ポイント成功を含むゲームハイの33得点を奪っており、試合後に「これはマラソンなんだ。……短距離走じゃないのさ!」とツイート。不敵な笑みを浮かべるヤングを思い浮かべた方も多くいたのではないか。
そしてホークスとニックスによる次戦は、MSGで開催されるクリスマスゲーム。ニックスのファンならば、天敵に対して盛大なブーイングを浴びせ続けるに違いない。
だが、楽しんでヒール役を演じるヤングは、ふたたびスコアリングショーを開演すべく、意気揚々と臨むはず。かつての天敵ミラーのように、憎たらしいまでの勝負強さを存分に発揮し、全世界のバスケットボールファンへ“クリスマスプレゼント”を贈るのではないだろうか。
文●秋山裕之(フリーライター)
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