
仙台育英が甲子園で初優勝を果たし、東北に初めて大優勝旗が渡った。遡ること33年前、仙台育英が決勝へと駒を進めたことがあった。当時のメンバーは何を思うのか。かつて決勝で相まみえた帝京のメンバーと当時を振り返る対談企画。あの時どうすれば仙台育英は勝てたのか。そして今年の栄えある優勝のキーマンは誰だったのか。大人になった高校球児たちが酒を酌み交わしながら語る企画の後編だ。
【前編】甲子園で仙台育英が決勝に進んだ33年前、当時の決勝メンバーが再会
受け継がれる「竹田先生」イズム
――当時の仙台育英はどんな指導法だったんですか?
村上:竹田先生にすべてを教わった。野球の技術だけじゃなくて、社会に出ても通用するような人間のあり方みたいなものまで教わったよ。靴は揃えて脱がないといけない、ゴミが落ちていたら拾ってキレイにする。そんな当たり前のことを習ったかな。だから、先輩から後輩への暴力もなかった。30年前の野球の指導現場ではまだ殴ったりっていうのが当たり前だった時代に暴力を徹底的に止めた。先輩は「さん」付けだし、明らかにサボっている先輩がいたら「やる気ないなら出ていってください」って言えたんだよ。
冨沢:当時じゃ考えられないくらいフラットな部活だよね。
村上:何度か出場停止の騒ぎはあったけど、フラットな組織が “仙台育英イズム”みたいなものだね。不思議なもんでさ、竹田先生が、俺に電話くれて「東北6県で最初に優勝旗を持ってくるのは須江監督だよ」って言ったんだよ。そしたら本当にそのとおりになった。きっと竹田先生には俺に見えてないものが見えていたのかもしれないなって思ったよ。
――竹田先生には本当に頭が上がらないんですね。
村上:そうそう。だって、俺は中学で仙台育英に入れなかったら寿司屋になろうと思ってたんだよ。だから卒業後の進路は「寿司屋一択」だったわけ。野球部のメンバーは大学や社会人なら竹田先生が多少は紹介してくれるから進路はすぐに見つかったんだけど、俺だけ寿司屋だから(笑)。一緒に竹田先生が築地まで行って寿司屋に頭下げて俺の修行先を見つけてくれたんだから。そりゃ感謝してるよ。
――その竹田先生が率いる仙台育英でも当時の帝京には勝てなかったんですね…。
冨沢:仙台育英とは違って、帝京の指導で教わったのは勝負へのこだわり。何をしてでも勝つんだ、みたいなことを教わった。実際にあの決勝は、紙一重だったと思う。
決勝戦は吉岡と大越の壮絶な投手戦となり、9回を終えても0−0だった。10回表に帝京が2点を入れ、そのまま帝京の勝ちとなった。
――逆に村上さんが、もう1回やって勝とうと思ったら、どうやったら勝てると思いますか?
村上:んー…。難しいなぁ…。やっぱり9回まで0−0で、9回裏に2アウトで3塁の場面で茂木がなぁ…。
冨沢:キーマン、茂木だったよな。2番の茂木だったよ。
村上:なんで初級打っちゃったんだっていうのはあるよね。セーフティスクイズっていう手もあったんじゃないかなって、茂木はバントうまいし、足速いし。たぶんあれ見逃して、そのあと2球3球あったら…。30年前のことを言っても仕方ないけどさ。いまだに冗談でも「あの時お前が打ってればなぁ」って言われるからね(笑)。
――今でも当時の話はするものなんですね。
村上:俺らにとっちゃやっぱり甲子園決勝は思い出深いからさ。そりゃよく考えてみてよ。球児とはいえ、まだ17か18の子供があんな大舞台で大歓声を浴びるんだからさ、そりゃよく覚えてるよ。あと、あんまり知られてないけど、当時の決勝の観客席には藤原紀香さんがいたんだよ。写真も残ってるんだよ。
冨沢:俺ら、思い出話ばっかりで今回の甲子園の話、全然してないね(笑)
(次のページ「今回の優勝のキーマンは誰だ?」へつづく)
今回の優勝のキーマンは誰だ?
――では話を戻して…笑。今回のキーマンはどの選手だったと思いますか?
冨沢:今回、育英が優勝したのは、満塁ホームランを打った岩崎(生弥)君だよな。ラッキーボーイ、宮城県予選はスタメンに入ってなかった。でも代打は一番良いところで、勝負どころで、良い形じゃないけど結果は出て、明秀日立に勝ったのも彼の力があって、そこからスタメンに加わったときに、育英の力が愛工大名電と比べて総力が上がったんじゃないですかね。野球って結構、そういうきっかけでチームのまわりの気持ちの、総力的に上がって、ホームランが出てないのに決勝であんなボール球をホームラン打ったみたいな。
村上:確かに。
冨沢:あの子が喘息の病気で試合に出れなかったっていうストーリーがあって。甲子園に連れていくんだみたいなみんなの気持ちがあって、あいつもリハビリしながら頑張って、その気持ちがあって、代打で出されて、もうあいつらのために打つんだみたいな気持ちがあって満塁ホームランが出る。優勝への伏線めいたストーリーはあったね。
――なるほど、優勝するチームにはどこかドラマのようなものがあるということですかね。
村上:確かに物語はあるかもね。でも今年に限らず、年々甲子園そのもののレベルはすごい上がってきてるな、とは思う。
冨沢:そうそう。個々のレベルの習熟度合いはすごい上がっているのは間違いない。中でも球種。ツーシームだの、シンカーだの、スライダーだの色々増えていて、それ自体はいいことかもしれないけど、後半に握力が無くなっちゃって、だから、今年の甲子園ってみんな高い球、抜ける球がすごい多くて、それを打たれて、ポテンって外野の前に落ちる球で1点、みたいなのが増えた印象。
冨沢:俺らの時代は、まっすぐ、カーブ、スライダー、フォークぐらいしかないから。低い球でゴロを打たせるみたいなのが主流だったかなぁ。
村上:でもやっぱり全体的なレベルはむちゃくちゃ上がってるよ。
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