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オーナーが戦力均衡税引き上げに強硬に反対…エンジェルスは勝つ気がないなら大谷とトラウトを即刻トレードするべきだ<SLUGGER>

戦力均衡税の引き上げに強硬に反対していると言われるオーナーのモレノ。大谷のFA流出は決定的か。(C)Getty Images
選手会と機構/オーナー側の労使交渉が決裂し、開幕延期が決定したMLB。最大の争点となっている戦力均衡税(ぜいたく税)の引き上げについて、一部球団のオーナーが課税ラインを頑なに拒んでいることが明らかになり、波紋を呼んでいる。

『ジ・アスレティック』によれば、ダイヤモンドバックス、レイズ、タイガース、そしてエンジェルスのオーナーが課税ラインの引き上げに強硬に反対しているのだという。

そもそも戦力均衡税とは、総年俸に一定の基準を設け、その基準を超えたチームにペナルティ、つまり「税金」を課す仕組み。現行の課税ラインは2億1000万ドルで、選手会はこれを2億3800万ドルまで引き上げることを要求している。これに対し、オーナー側は2億2000万ドルを主張。しかし、1000万ドルの引き上げは物価上昇幅なども考慮するとゼロ回答に等しく、労使交渉はこの点で暗礁に乗り上げている。『スラッガー』3月号で私は、大谷が23年オフ(ロックアウトが長引けば24年オフになる可能性もあるが)にFA権を取得した暁には、エンジェルスから旅立つべきだという趣旨の記事を書いた。打高投底のいびつな戦力状況、球界最悪クラスと言われるファーム組織の現状などを踏まえ、このままでは大谷が希望しているワールドシリーズ出場は到底望めないと考えたからだ。

そして今回、ますますその思いを強くした。オーナーのアート・モレノがワールドチャンピオンになることより、自身の懐事情を優先していることが明白になったからだ。

ダイヤモンドバックスやレッズのような中小規模マーケットの球団が戦力均衡税の引き上げに反対するのはまだ理解できる。しかしエンジェルスは、フランチャイズ名に堂々「ロサンゼルス」という名を冠し(実際にホームにしているのはLAから少し離れたアナハイムだが)、パンデミック前には毎年300万人を超える観客動員を記録していた人気球団だ。 実際、19年にはMVPを3度獲得したマイク・トラウトと12年4億2650万ドルという史上最高額契約を交わしている。同年オフには、FA市場で2億4500万ドルを当時、三塁手のアンソニー・レンドーンを7年契約で獲得した。だが、投手陣にはなぜか補強資金をあまり投じず、ここ6年連続で負け越している。

この問題がどのような形で解決するにせよ、エンジェルスが今後、戦力均衡税ラインを超過するような補強を行わないことだけは確かだろう。

これは2つのことを意味する。

1つは、大谷との契約延長交渉がかなり難航するだろうということ。すでにトラウト、レンドーンに4000万ドル近い年俸を支払い続けることが決まっている状況で、大谷とも同規模の契約を結ぶと、ただでさえいびつな戦力バランスがますますいびつになってしまう。
もう1つは、仮に大谷と再契約できても、3人の選手が総年俸の半分以上を占めるようなチームが勝つことはほぼ不可能ということだ。野球はずば抜けた才能を持つ一握りの選手だけで勝てるスポーツではない。捕手から中継ぎ投手まで、あらゆるポジション・役割に満遍なく人材を配置することが勝利の条件になる。 皮肉にも、そのことを他のどのチームよりも象徴しているのが近年のエンジェルスだ。16年と19年にトラウト、そして昨年は大谷がMVPを受賞したにもかかわらず、チームはその3年間いずれも負け越している。総年俸を大幅に上げないまま大谷と契約しても、同じ状況が続くだけだ。

今回の報道が事実なら、今後はトラウトの去就をめぐる騒動にも発展するのではないか。今のチーム状況でオーナーが「大型補強はしない」と明言することが何を意味するのか、トラウトは十分に理解しているはずだ。

大谷とトラウトがポストシーズンの舞台に立てないことは、エンジェルスファンのみならず世界中の野球ファンにとって大きな損失だ。無理を承知であえて書くが、勝つ気がないなら、エンジェルスは大谷とトラウトを即刻トレードしてほしい。

文●久保田市郎(SLUGGER編集長)

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