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ゲレーロJr.に続け!清宮幸太郎の「大減量」を後押しするメジャー本塁打王の覚醒への軌跡<SLUGGER>

絶賛減量中の清宮(右)。昨年はゲレーロJr.(左)が19kgも落として大ブレイクにつなげたように、肉体改造の成果に期待したい。写真:田口有史
失意の4年目を経て、逆襲を誓う男のプロセスは、少なくとも正しい方向に進んでいるのではないか。日本ハムの未完の大器・清宮幸太郎のことである。

歴代最多の高校通算111本塁打を放ち、ドラフトで7球団が競合した逸材は2021年、一軍で出場することなくシーズンを終えた。“清宮世代”と呼ばれていた同学年の選手のうち、自身の外れ1位でヤクルトに入団した村上宗隆は2019年に新人王、昨年はMVPを受賞。さらに東京五輪でも活躍と、その背中は遠のくばかり。

ただ清宮も、少なくともプロ入り当初はまずまず順調だった。1年目から木製バットに適応し、二軍では本塁打王に1本差の17発、一軍でも7ホームランを放った。しかし、2年目以降は故障もあって停滞が続く。21年もファームでは19本塁打を放ち、イースタン・リーグの本塁打王となったが、裏を返せばそれだけファームでくすぶっていたことの証左でもある。打率.199では、上から呼ばれないのも致し方ないだろう。

迎えたこのオフ、清宮が大きな話題を集めたシーンがあった。新庄剛志新監督から、秋季キャンプで異例の「ダイエット指令」を下されたのだ。“ビッグ・ボス”いわく、「スタイルというか、俺、太っていることがなんか、人間的にだらしないというイメージがあるんですよ。スタイルを保っている人というのは、自分に負けずにしっかりした気持ちがあるんじゃないかなって思っている」。

【画像】新庄監督も歓喜! 清宮幸太郎の“激変”最新ショットがこれだ!「ちょっとデブじゃねぇ?」とのストレートな発言も含めて賛否両論あった中、数週間後に契約更改を迎えた清宮は「後出しみたいですけど、このオフに(身体を)絞っていこうと思っていた」と語り、肉体改造に前向きな姿勢を見せた。そして、実際に有言実行を果たしたようだ。

年が明けた1月11日、新庄監督はインスタグラムを更新し、柳田悠岐(ソフトバンク)との自主トレに参加した清宮の様子を公開。「柳田キャプテン有難う!! 見てもわかるようにかなり絞れてるの皆さんわかりますか!? うちの清宮くん!! 柳田君より成績が良くなったりして!!」と、清宮の“変身”を喜んだ。

昨シーズンは184cm、103kgとあったが、秋季キャンプの時点で5kgの減量に成功していたという。そして最新ショットを見る限りは、そこからさらに絞れているのが見て取れる。停滞していた現状を変えるために行動を起こしことには、まず称賛の声を送っていいはずだ。

もちろん、減量したからといって成績が向上するとは限らない。しかし、海の向こうのMLBでは昨年、ダイエットを経て大ブレイクを果たした若手選手がいた。“大谷翔平のライバル”として日本でも知名度が高まったブラディミー・ゲレーロJr.(ブルージェイズ)である。昨季は史上最年少22歳でオールスターMVPに輝き、大谷を抑えて48発を放ち本塁打王を獲得した天才打者は、20年オフに何と19kgもの減量を行ったのだ。
ゲレーロJr.がダイエットを敢行するに至ったのは自らの気づきだった。「ある日、ベッドから起きて鏡を見た時、急に思ったんだ。『いい加減にしなきゃ』って。僕は準備を怠っていた。仲間に謝らなきゃいけないと思った。ありがたいことに、僕が気持ちを伝えた時、みんなが快く受け入れてくれたんだ。そのことがモチベーションになったよ」とゲレーロJr.は振り返る。

実は、ゲレーロJr.と清宮のバックグラウンドは似ているところがある。殿堂入り選手の父を持つジュニアはマイナー時代から天才的な打棒を披露し、メジャー昇格前から「将来は三冠王を獲得できる」と過大なまでの期待を寄せられていた。まだ実績も残していなううちから知名度も抜群で、メジャー1年目にいきなり球宴HRダービーにも招待されたほど。

しかし1年目の15本塁打は周囲の期待からすれば、物足りない印象も与えた。2年目は60試合で9本塁打、OPS.791。1年目と同じように、決して悪くはないが期待外れと受け止めるファンは少なくなかった。

意を決したゲレーロJr.はトレーナーと二人三脚で肉体改造に取り組んだ。トレーニングに加えて、間食やお酒、揚げ物、スウィーツも自制。ゲレーロJr.は「一人では難しかったと思う」と振り返るように、周囲からのサポートもあった。祖母が毎日、練習前のジュースを用意し、夕食の量も管理してくれた。油を使わないように直火焼きの料理を作り、スプーンも小さいものに変えた。
こうして19kgものダイエットに成功したゲレーロJr.は、新たな自分の肉体に自信を深めた。「いろいろな面で素早くなった。特に下半身はしっかり特訓したんだ。打席では下半身がしっかりしてないと、ボールが待てないからね」。

清宮は秋季キャンプで減量指令が出た際、飛距離の低下を気にしていたが、ゲレーロJr.の場合はパワーダウンどころか、平均打球速度が前年から平均約4キロ以上も向上してMLB全体3位にランクされるなど、むしろ肉体改造の効果てきめんだった。1年先に凄すぎる成功者がいることは、清宮にとっても支えになってくれるはずである。

ゲレーロJr.が減量を決意して駆け込んだトレーナーは、過酷な道を歩む神童にこう語りかけたという。

「ファンから期待外れだと言われることを、君は恥ずかしく思うべきだ。だって、君はメジャー最高の有望株だろ! アスリートらしく寝て、食べて、トレーニングしよう。来年だけじゃなく、これからもずっと」

プロ5年目を迎える清宮がどう変わっていくのか。新庄監督が就任した日本ハムは、今や球界内外からの注目度が高まっている。そこに、“最強の有望株”が覚醒の時を迎えることができれば、プロ野球全体がさらに盛り上がることは間違いない。新生・清宮幸太郎に、心から期待したい。

文●新井裕貴(SLUGGER編集部)

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