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【エンジェルスの失われた10年:前編】“2000年代最高の選手”の獲得が暗黒期の始まりだった<SLUGGER>

11年12月の入団会見に出席するプーホルス(右)とモレノ・オーナー(左)。球界最強打者の加入に黄金時代待ったなしと思われたが……。(C)Getty Images

「大谷翔平選手はホームランを放ちました。なおエンジェルスは……」。今年、何度このフレーズを耳にしたことだろう。100年に一度の二刀流選手と球界最高のプレーヤーがいながら、なぜエンジェルスは勝てないのか。“負の歴史”は10年前に始まっていた——。

※スラッガー2021年11月号より転載(時系列は9月16日時点)

メジャーリーグの頂点を決めるポストシーズンでは、これまでに数々の伝説の名場面が生まれてきた。ある意味ではそれも当然だ。大半のメジャーリーガーにとって、チャンピオンリングを手にすることこそが最大の目標なのだから。

デレク・ジーターやデビッド・オティーズの神がかり的なクラッチも、ジャック・モリス、ランディ・ジョンソン、カート・シリングの熱投も、昨年、ムーキー・ベッツ(ドジャース)が見せた走攻守にわたる信じられない活躍も、すべてはワールドシリーズで優勝したいという強い思いがあったからこそ生まれたものだ。

だが、大谷翔平(エンジェルス)は今年もその舞台に立つことなくシーズンを終えた。大谷だけではない。MVPを3度受賞し、球界最大のスーパースターとして君臨するマイク・トラウトは、メジャーで11年間プレーしながらポストシーズンでまだ3試合しか戦ったことがない。
MLB史上でも屈指の実力者と、歴史を塗り替えた二刀流選手を擁し、豊富な資金力もありながら、なぜエンジェルスはプレーオフにすら出場できないのか。FA補強の失敗、ファーム組織の停滞、球団内の機能不全……。チームの“失われた10年”を検証する。

2011年12月10日、エンジェル・スタジアムは熱気に満ちあふれていた。オフシーズンだというのに約4000人ものファンが球場に詰めかけ、一人の男の姿を一目見ようと待ち構えていた。男の名はアルバート・プーホルス。カーディナルスでメジャー1年目から10年連続打率3割&30本塁打&100打点を記録し、MVPに3度輝いた球界最強のスラッガーが10年2億5400万ドルという超破格の契約でエンジェルスに加入し、入団会見を行うことになっていたのだ。

プーホルスとの契約は、オーナーのアート・モレノからの強烈な意思表示でもあった。00年代のエンジェルスは、MLBきっての模範球団としてリスペクトを集めていた。00年に就任したマイク・ソーシア監督に率いられ、02年に球団創設42年目にして初のワールドチャンピオンに輝くと、04年からの6年間で5度の地区優勝。戦略眼に秀でたソーシア監督の下、打ってはコンタクトヒッティングを重視。ビッグネームの選手はそう多くなかったが、1~9番まで抜け目のない打線を作り上げ、強力な投手陣と堅固な守備陣をバックに勝利を重ねた。マイナー組織も充実し、球団史上最高の全盛期を謳歌していた。

そんなチームに稀代のスラッガーが加入したのだから、ファンが歓喜したのも無理はなかった。プーホルスと同時に、レンジャーズのエース左腕だったCJ・ウィルソンとも5年7750万ドルで契約。ずっとドジャースの陰に隠れていた〝衛星球団〞エンジェルスを真の強豪に押し上げる——この大型補強には、モレノのそんな思いが込められていた。

だが、入団会見では、プーホルスの年齢を懸念する質問が出た。この時すでに31歳。契約が終わる頃には41歳となる。この時、ジェリー・ディポートGM(当時)が語った言葉は、後から振り返れば何とも皮肉なものだった。

「“超人”から“偉大な選手”になることを、果たして『衰え』と呼ぶだろうか。私はアルバート・プーホルスの偉大な日々が終わったとは思わない。そうでなければ、我々は今日こうしてここに座っていないだろう」
しかし、プーホルスはエンジェルスで一度も「超人的」なシーズンを送ることはなかった。もっと言えば、「偉大な」シーズンもなかった。移籍1年目こそOPS.906をマークしたが、それでも自己ワースト。2年目を最後に.800を上回ることすらなく、10年契約の半分も経たないうちに不良債権化が確定した。

プーホルスとの契約から1年後、エンジェルスはまたも超大物FA選手を獲得して球界を驚かせる。10年にMVPに輝いたレンジャーズの主砲ジョシュ・ハミルトンと5年1億2500万ドルで契約したのだ。ドラッグ中毒を克服してMVPにまで上り詰めたハミルトンのスターバリューは莫大だったが、結果としてはプーホルスに勝るとも劣らない大失敗に終わった。

契約1年目こそ151試合に出場したものの、打率.250、21本塁打と期待外れの成績。2年目は古傷のヒザの故障に悩まされて長期欠場すると、その年のオフ、断ったはずのドラッグに再び手を出していたことが発覚。球団は残り3年、約8000万ドルのサラリーの大半を負担してまでレンジャーズへ厄介払いした。

プーホルスとハミルトン獲得に費やした金額は総額3億7900万ドル。これに対し、2人がエンジェルスで残したWARは15.4にすぎず、1WAR当たりの金額は何と2400万ドル以上に達する。
2つの大型不良債権契約は、11年にメジャーデビューを果たしたトラウトの超人的な活躍をかき消してしまった。14年、チームはリーグ最高勝率を記録して地区優勝を果たすが、地区シリーズで格下のロイヤルズに0勝3敗で敗退。この年を最後にエンジェルスはプレーオフから遠ざかり、16年からは5年連続負け越し。18年の大谷加入も、少なくともチームの成功にはつながっていない。

プーホルスとハミルトンの“負の影響”はMLBレベルにとどまらない。2人を獲得した代償として、12、13年はドラフト1位指名権を喪失。その影響もあり、ファーム組織は一気に弱体化してしまった。そのことも、今日に至るまで有形無形のダメージを与えている。

エンジェルスはその後も懲りずに大物打者の補強を繰り返した。17年オフには、その年の終盤にトレードで獲得したジャスティン・アップトンと5年1億600万ドルで再契約。契約1年目こそ及第点の活躍だったアップトンだが、その後3年間のWARはいずれもマイナスで、プーホルスやハミルトンと同じく不良債権化した。19年オフには、三塁手のアンソニー・レンドーンと7年2億4500万ドルで契約。こちらはまだ結論を出すには早いものの2年目の今季は故障で精彩を欠き、早くも暗雲が立ち込めている。

補強そのものが悪いわけではない。だが、エンジェルスの場合、あまりにも安直で長期的な視野に欠けた補強が何度も繰り返された。結果、本当にてこ入れが必要なエリア、すなわち投手陣の補強はおざなりにされ続けた。

※中編に続く

文●久保田市郎(SLUGGER編集部)

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