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性格は「優等生」でも選手としては「ダイヤの原石」——「勝負の4年目」を迎える根尾昂に贈りたいイチローの金言<SLUGGER>

昨年5月に放ったプロ初本塁打は満塁弾。スター性はやはりピカイチだ。写真:産経新聞社
中日の根尾昂が「勝負の」4年目を迎える、ことになっているらしい。

確かに、周囲がそう煽りたくなる気持ちも分からないではない。プロ入り同期の小園海斗(広島)はすでに遊撃のレギュラーを獲得。さらに昨年は、ポジションこそ違うが1学年下の奥川(ヤクルト)や宮城大弥(オリックス)、佐々木朗希(ロッテ)も一軍でブレイクした。

ひるがえって根尾の2021年はどうだったか。初の開幕一軍入りを果たし、5月にはプロ初本塁打をグランドスラムで飾る離れ業を披露。あらためてスター性の高さを印象付けたが、その後は徐々に出場機会を失い、7月半ばに二軍落ち。終盤に再昇格したが、最終成績は78試合で打率.178、1本塁打、OPS(出塁率+長打率).482という厳しい結果に終わった。

秋季キャンプでは、立浪和義新監督の意向で本格的な外野転向が決定。2022年は真価を問われるシーズンになる——というのが、大方の見立てのようだ。
だが、根尾の場合、一軍での活躍を云々する前に、まずはファームでしっかり結果を残すことが先決なのではないだろうか。

根尾のプロ3年間の二軍成績をまとめると以下のような数字になる。

2019 108試合 打率.210/出塁率.266/長打率.298 OPS.564
2020  71試合 打率.238/出塁率.286/長打率.351 OPS.637
2021  34試合 打率.157/出塁率.281/長打率.204 OPS.485

最も数字が良い20年ですら打率は2割5分に満たず、OPSも物足りない水準だ。3年間通算では、打率.213/出塁率.275/長打率.304。この状態で、一軍でのブレイクを期待する方に無理があるのではないか。

例えば、小園はプロ2年目に二軍で打率.305(66試合)をマークし、一軍昇格の足掛かりをつかんだ。大阪桐蔭で根尾とともに甲子園春夏連覇を果たした藤原恭太(ロッテ)も、まだ一軍では確固たる結果は出ていないが、二軍成績は年々向上。昨季は40試合で打率.289/出塁率.407/長打率.423を記録し、ブレイクの土台はできつつある。 数々の優等生エピソードで知られる根尾だが、野球選手としては典型的な「身体能力先行/ダイヤ原石型」だ。外野守備での強肩はすでに一軍でも有数のレベルで、打撃でもしっかり芯で捉えた時の打球の勢いは目を見張るものがある。ただ、現段階ではいかんせんジャストミートできる確率が低く、相手投手に翻弄される場面が目立つ。

昨季まで二軍で指揮を執っていた仁村徹監督は根尾の打撃について「すべてにおいて自分の形を優先して、相手投手としっかり勝負できていない」といった趣旨のコメントを残している。実は「融通のきかなさ」については、大島洋平や高橋周平らチームメイトからも似た指摘が出ている。この点、「優等生」ならではの生真面目さが災いしているのかもしれない。

一方で、潜在能力の高さは誰もが認めるところだ。18年秋、ドラフト有望株の情報については他の追随を許さない『野球太郎』は、根尾について「一つひとつの能力は大谷(翔平)選手の方が長けているかもしれないが、走攻守、すべての能力で考えるとこれほど凄い選手はいないと思う」と激賞していた。仁村監督にしても、課題を指摘する一方で「ちょっと何かあれば、ゴーンと上へ行くから」と期待を寄せている。 あまり知られていないが、名門ヤンキースで20年近くにわたって正遊撃手を務めたあのデレク・ジーターも、高校からプロ入りして最初の数年は「ダイヤの原石」そのものだった。プロ2年目の1993年には、マイナーリーグ1A級での126試合で56個(!)ものエラーを喫している。

あまりのエラーの多さに、球団内部ではセンターへのコンバート案も浮上。ジーター自身も精神的にかなり参ってしまい、故郷に住む両親に毎晩のように電話をかけて「大学に進学しておけば良かった」とこぼしていたという。

だが、ジーターはコーチやチームメイトには決して泣き言をこぼさなかった。当時から野球への真摯な取り組みは誰もが認めるところで、日々練習に打ち込んで課題を克服し、最終的にはメジャー通算3465安打を積み上げ、史上屈指のショートストップに成長した。

10人の選手がいれば、10通りの成長パターンがある。同期生だからといって、同じ成長曲線を描くとは限らない。その点、ファンや球団関係者も、「小園はもうレギュラーを取っているのに……」という視点で根尾を見ない方がいいのではないか(そう思いたくなる気持ちは痛いほど分かるが)。 もっとも、いつまでも「原石」のままでいるわけにもいかない。二軍での通算打席はすでに900近くに達しており、そろそろ目に見える結果が求められる時期であることも確かだ。

その意味ではたしかに、根尾昂のプロ4年目は「勝負の年」なのかもしれない。だがそれは、一軍で華々しく活躍することではなく、その前の段階、つまり飛躍のための足場をしっかり固めるという文脈だろう。
仮に根尾が開幕二軍スタートになったとしても、とくに落胆する必要はない。一軍に残っても打席機会に恵まれなかったり、ただの「肩が強い好守の外野手」に収まってしまうよりは、腰を据えて打撃を鍛えた方が長い目で見て根尾にとっても、ひいてはドラゴンズにとっても有益だろう。

「小さなことを積み重ねることが、とんでもないところへ行くただ一つの道」。イチローが引退会見で語っていた言葉は、現在の根尾にも当てはまるはずだ。

文●久保田市郎(SLUGGER編集長)

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