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日本のスポーツ観戦が元通りになる日は来るのか?木曽崇(国際カジノ研究所) 

ボールパーク化の流れで観戦以外のお金が生み出される

──アメリカのような仕組みは日本でも導入されていますか?

木曽 いわゆる“ボールパーク”と呼ばれる概念です。日本だと横浜DeNAベイスターズが、最初の成功例です。横浜スタジアムの運営権を取得したことによって、試合以外での自由度が格段に上がります。収益構造を変えるためにどうするかは、チームや運営会社が考えなければいけません。ベイスターズはチームが勝たなくてもお金を稼げる仕組みを作っています。

──北海道日本ハムファイターズも札幌ドームを離れて、“ボールパーク構想”を掲げて新たな球場を建設中です。

木曽 札幌市とファイターズの間で起きた、不幸な出来事だと思います。球団として、収益源を増やしたい。そのために、スタジアムのコントロールが欲しいという流れは当たり前のことです。一方で行政からすると、スタジアム運営が民営になると、自分たちでコントロールできなくなってしまう。

お互いに意見がぶつかって、最終的にファイターズが出ていった。おそらく、札幌市はファイターズが出ていくことになるとは思っていなかったでしょう。

──先に挙げた横浜DeNAベイスターズや、福岡ソフトバンクホークス、東北楽天ゴールデンイーグルスなどがボールパーク化を進めて成功しています。

木曽 そのきっかけがベイスターズです。各球団はスタジアム買収を始め、国と自治体、スポーツ競技団体が一緒になって、ボールパークをどう管理するかの研究をしています。

スポーツツーリズムの活性化にはワクチンパスポートが必要

──コロナ禍の今は、スタジアム観戦の機会が減少しています。これは消費の面で大打撃です。打開策となるのは何でしょうか?

木曽 『ワクチンパスポート』です。スポーツだけではなく、国内の施設型レジャー産業も含めてです。施設型レジャー産業は、入場制限がかけられ、密にならないためのガラガラの稼働で利益が出るほどは甘くない。

「密を避けてやりましょう」という状況がこのまま続けられるわけはなく、唯一の出口はワクチンパスポートしかない。早く国内利用を整備して、接種者は今までと同じように行動できるようにするべきです。

諸外国の状況から、ワクチン摂取率が高くなっても、集団免疫が機能することはないことは明らか。つまりは“ウィズコロナ”の期間が、しばらく続く前提で数年間は考えなければいけない。

ワクチンパスポートを整備して、接種者だけで施設稼働ができるような仕組みや環境を早急に作って欲しい。それがレジャー産業の当事者の正直な気持ちです。政府はやっと重い腰を上げましたが、加速してもらいたいです。

──ワクチンパスポートを導入することで非接種者に不利益があるのではないかとも言われています。

木曽 よく聞く意見ではありますが、逆に聞きたいです。コロナ禍になってから1年半、「マスクしていない人は入店お断り」という施設はどれくらいありましたか?

──かなりあったと思います

木曽 どこの商業施設でも、マスクをしてください、手の消毒もしてくださいと言われてきました。それとワクチンパスポートの何が違うんですか、と。商業者側は、取引・契約の自由があり、どういう人をお客様として扱うかを選択できます。感染症が蔓延している状況で、お客様を守るための必要な手段として、ワクチン接種の有無で線引きすることは自然です。

ワクチンが打てない人がいるといいますが、マスクについてもつけられない人はいます。でも、マスクをつけられない人たちの権利はこれまでそれほど議論にはなっていません。ワクチンパスポートが先行している国は、ワクチン接種の有無による施設への入場可否は、人権侵害にならないという前提で社会を回しています。

──日本にコロナ前の光景が戻ってくることはあるのでしょうか?

木曽 ワクチンパスポートが運用されれば、スポーツ産業だけでなく飲食店や音楽イベント、リゾート観光など、あらゆるレジャー産業が活性化します。

今は、リスクの高い人と低い人の区分けができていないので、一律で制限をかけている状況です。しかし、一定程度ワクチン接種が進めば、そこを区分けして元の状態に戻していくことができる。

海外の運用では、ワクチンパスポートをQRコードなどでスマホに表示して、商業施設やスタジアムの入場時に読み込ませるという運用はすでに始まっています。日本で本格的に運用が始まるのは年明けと言われていますが、状況は徐々に改善していくのではないかと思います。

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■プロフィール
木曽崇(きそ・たかし)

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部首席卒業(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの会計監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。2014年9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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■クレジット
取材・編集:北健一郎(Smart Sports News編集長)
写真:浦正弘

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