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日本のスポーツ観戦が元通りになる日は来るのか?木曽崇(国際カジノ研究所) 

新型コロナウィルスの感染拡大防止を目的とした観客数の制限や移動の制限などはスポーツの世界にも大きな影響をもたらしている。

スタジアムやアリーナの中にとどまらず、周辺地域での観光消費を生み出すことが期待されるが、コロナ禍によって大きく落ち込んでいるのが実情だ。

果たして、日本のスポーツ産業はどうすれば復活するのか。カジノの専門研究者であり、レジャー産業の第一人者である木曽崇氏にうかがった。

東京オリパラは2週間の“打ち上げ花火”

──木曽さんはツイッターで「東京オリンピックはスポーツツーリズムの敗北だった」と発言されています。その言葉の真意は?

木曽崇(以下、木曽) 五輪招致が決まった後、スポーツツーリズムという言葉が広がりましたが、全ては「五輪を軸にどうするか」論議されていました。

しかし新型コロナウイルスが蔓延し、ほとんどの試合が無観客開催となって、海外からの入国も制限されたことで、国内外の観光は発生していません。結果的に、“五輪のため”のスポーツツーリズムは、実現しませんでした。ずっと言い続けてきましたが、今回のような大型イベントの招致ありきでスポーツツーリズムの議論を進めることは間違いです。

──五輪のような、“打ち上げ花火”的なイベントを軸に考えることは危険だと?

木曽 瞬間最大風速型の大型イベント誘致では、根源的な観光振興になりません。今回の五輪は、わずか2週間のために新しい競技場ができて、大きなホテルが開発されるなど、様々なハード面が準備されました。

しかし不動産の投資回収は、五輪が通常通りに開催されたとしても、たった2週間では足りません。最大風速の時期が終わって通常営業になった際に、投資をどう回収するんだと。

さらに今回は、コロナの影響で厳しい状況になっています。“レガシー”という言葉がありますが、実際に新設した競技場をどの程度稼働させればよいのか、何年ぐらいで回収できるのか? うまく回る施設は多くなく、おそらく東京辰巳国際水泳場くらいでしょう。

五輪のような大型イベントを短いスパンで誘致し続けられるならいいですが、それは現実的ではありません。だからこそ、大型イベントありきで観光振興をしようとする動きを否定し続けています。

スタジアム内外の“観光”が必要

──改めてスポーツツーリズムという言葉の定義について教えてください。

木曽 スポーツに伴う観光消費のことです。大きく『する型』と『見る型』に分けることができます。

『する型』とは、スポーツに参加することでお金が消費されるもの。スキューバーダイビングやスノーボード、スキー、ゴルフなどです。日本の観光コンテンツにおいても、消費金額が大きいものとして高く評価されています。

『見る型』とは、スポーツ観戦でお金の消費が発生することをいいます。チケット代だけでは、それほど大きな金額にならないため、周辺地域での消費も含まれますが、そこが広がっていないことは大きな課題です。

『見る型』のコンテンツは、さらに『聖地型』と『対戦型』の2つに分かれます。

『聖地型』は、スポーツファンが全員で同じところを観光するものです。例えば、モータースポーツにおける鈴鹿サーキット。レーシングにおける聖地としてだけでなく、レースがない日でもイベントが行なわれ、自分でレースをすることもできる。ファンはレースがない日でも鈴鹿を訪れます。

ゴルフにも、「憧れのコースでプレーしたい」という需要があります。観光軸で考えると、鈴鹿サーキットやゴルフ場のように、恒常的に誘客できるものにスポーツを昇華させる必要があります。

もう1つは、『対戦型』。サッカー、野球、バスケットボールなどのプロリーグが代表的です。この対戦型は、構造上の問題を抱えています。

──対戦型の構造問題とは?

木曽 お客様=サポーターを送客するのは、アウェイチームです。しかし彼らにとっては、現地でお金を落とすことは重要ではないため、お客様を送りっぱなしになってしまいます。

消費してほしいホーム側のチームは、地元の情報を持っていますが、アウェイから来たサポーターにアクセスするルートがありません。お客様を送り出す側と、消費してほしい側が別主体のため、観光振興が成り立たないのです。

──スケールは小さいかもしれませんが、サッカーにはアウェイのサポーターがスタジアムグルメを楽しみに行くという文化はあります。

木曽 それもスポーツツーリズムの1つですし、もっと育てる必要があります。スタジアムグルメを運営しているのはホーム側であり、アウェイサポーターにアピールできる唯一の場となっています。そこから、スタジアム外に向かっての観光波及が必要です。

まず、観光ではお客様に来てもらわなければいけません。対戦型のスポーツは最初のハードルはクリアしています。しかし、ホーム側がアウェイ側にアクセスするルートをつくらなければ、せっかく訪れたお客さんを取り逃がしてしまいます。

──この構造問題を解決するために必要なことは?

木曽 IT技術だと思っています。消費行動によりホーム側だけに恩恵があるのではなく、アウェイ側にとってもアフィリエイト的な恩恵がある仕組みを作る。それは、技術を使えば乗り越えられる課題だと思っています。

「アウェイで観光してください」だけでは観光消費は広がりません。ホーム側のチームは、ウェブサイトに観光情報をリンクさせるなどはしていますが、アウェイ側には十分に伝わっていません。

ホーム側とアウェイ側で、“Win-Winの関係”になるような仕組みが必要です。ただ……。

──ただ?

木曽 サッカーは試合数が多くありません。ホームゲームは1年間で10〜20試合程度しかない。サッカーだけのためにIT技術を用いた仕組みを作っても、利益は出ないでしょう。

本体であるJリーグがチームのためにシステムを作り、ホームとアウェイがお互いに送客しあう。そして、送客することで生まれた利益からキックバックをもらう仕組みが必要になります。

もしくはサッカーだけでなく野球やバスケットなど、同じような構造問題を抱えるスポーツ競技と一緒になって、1つの仕組みを作ることも考えられます。

野球は幸いにも試合数が多く、週末連戦の文化があって、観光消費が起きやすいスポーツです。すでに仕組みとしてうまくできているので、野球を中心に開発してサッカーでも応用するのが現実的でしょう。サッカーだけでは、仕組みができにくいと思います。

──野球は両リーグで12チームしかなく、ほとんどが大都市を拠点にしています。一方でサッカーは全国に57チームあり、サッカーのほうが全国での消費が起こりやすいのでは?

木曽 その通りです。サッカーのほうが、小さな市町村において大きな役割を果たしています。しかし、何かしらの仕組みやインフラを作るときは、サッカーのような“小さな主体”がたくさんあるようなスポーツでは難しい。

この構造問題は、対戦型のスポーツ競技全てに共通するものだからこそ、野球のような“大きな主体”がリードして、共通でお金を出してみんなでシェアするべきです。

しかしながら、大きなインフラを作ろうという動きにはなっていません。誰かが音頭をとって意識的にやらないと「大きなインフラをみんなで作ろう」という動きは加速しません。

──ホーム側はどうやって観光消費を生み出せばよいのでしょうか?

木曽 ここまではアウェイ側の話ばかりをしてきましたが、観光の世界には、“日帰り観光”という概念があります。日帰り観光の定義は、80キロ以上の移動を伴う、もしくは8時間以上の外出を伴う消費です。

現行では、スポーツ観戦は日帰り観光の枠には入っていません。試合を見て帰るだけだと、基本的に8時間以上を外で過ごすことはないからです。どうやってスポーツ観戦の前後で消費を発生させるか、そのための環境設備が、何よりも先決だと思っています。

──海外での事例があれば教えてください。

木曽 バルセロナのカンプ・ノウのように聖地型が多いです。試合がない日でも世界中から多くの人が訪れており、そうなると話は変わってきます。一方で対戦型だと、試合中しか最大誘客できない構図になりがちで、観光振興としての本質の話になりにくいですね。

──先ほどの日帰り観光に近いですが、アメリカはスタジアムの周りで1日がかりのイベントを楽しむことができます。家族でイベントを楽しみ、そのなかの1つにスポーツ観戦があるイメージです。

木曽 まさに、日本もそういう環境を育てていくことが大事になります。

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