初心者は1万円から バドミントンの道具選びについて

下川裕一,バドミントン

日本人選手の活躍も追い風に、競技人口が増えているというバドミントン。では実際に始めるにあたって、道具はどのように選んだらいいのか。まずは最初のカギとなるラケットについて、実業団チームの選手として16年のキャリアを重ね、現在は選手兼コーチを務める下川裕一さんに聞く。

初心者は、軽量でしなりやすいラケットがお薦め

下川裕一,バドミントン

――ラケットを買う場合、選ぶ基準のようなものはあるんでしょうか。

下川:バドミントンのラケットは、基本的に長さに関しては全部一緒の規格です。男女でも共通で、違いはありません。ラケット全体の重さやグリップの太さといった面で選択肢が用意されています。ラケットのヘッドのほうが重い、あるいは軽いようなものもあります。あとは、ラケットの硬さ、しなり具合も物によって違いますね。しなりが強いほうが、力がなくても飛びます。ただ反動が大きい分、ブレが出やすい欠点もあります。力のある上級者は、しならないラケットを選びますね。グリップについては、自分の手の大きさだったり、合う合わないで選ぶ感じです。

基本的に初心者であれば、全体が軽量かつヘッドも軽いもので、しなりやすいやわらかいものを選べばいいかと思います。少しの力で飛ぶようになっているので、使いやすいですからね。

――シャトルを打つ面に貼ってあるガットは、みんな同じなんですか?

下川:ガットは、専門店で貼ってもらうか自分で貼るかで設定します。緩く貼るか硬く貼るかで違いで出るんです。上級者になればなるほど硬く貼りがちです。ただ、硬く貼れば貼るほど、シャトルが当たった時に飛ぶ「ゾーン」がどんどん狭まってきて、少しでもズレるとヒットしません。初心者や力のない子どもは、まずは柔らかめに貼るのが一般的でしょう。

あとはガット自体の太さの違いもあります。太さや素材で耐久性や反発性の差はありますが、打球音の違いが顕著でしょう。一般的に細いガットだと、打球時に「キンキンキン」という感じの高くて良い音が出ます。ストロークの際の爽快感、「決まった」感じが気持ちいいということで、選ぶ人もいますね。

ラケットは1種類、自分の感覚が大事

下川裕一,バドミントン

――プロは何種類もラケットを使い分けるものなんですか?

下川:基本的には1種類を使います。同じラケットのスペアを用意しておきます。みんな練習ではたまに違うラケットを使うこともありますが、試合のときには基本的には1種類を使いますね。ラケットが変わると、プレイする感覚がだいぶ変わっちゃうんですよ。同じラケットで、ガットも同じテンション、グリップも同じ太さのものを使います。あとは、ちょっと他のラケットを使う競技と違うのが、グリップの部分ですね。みんなグリップ部分を巻き替えて使うんですが、テニスや野球のようにゴムみたいなものを巻くパターンと、「タオルグリップ」といってタオル地のグリップを巻くパターンがあります。どちらを選ぶかは、もう好みというかその人の使いやすさ次第ですね。

――タオル……ですか?

下川:はい、特に規定はないんです。どのように巻くか、も自由です。もちろんバドミントン用のものを使いますが。タオルの場合は滑りやすいので、野球のとき使うロジンのような滑り止めを併用します。ちなみに、タオルグリップのほうが巻いたときにどうしても太くなってしまうので、子どもはあんまり使わないですね。

タオルはあくまでタオルなので、洗っていくと硬くなってくるように、使っていくとどんどん感触が変わっていっちゃうんです。最初はふかふかしてるんですけど、だんだんゴワゴワしくてくるみたいなね。ですから、自分が使いやすいぐらいまで使ったら1回置いておいて、試合のときに取っておくということをする人もいますね。新品だから一番使いやすいというわけではなかったりするので。

プロは大量のスペアラケットを試合に持ち込む

下川裕一,バドミントン

――試合を見ていると、たまにラケット折れたりもしますよね。

下川:トップ選手だとスペアを10本くらい持ち込む人もいますね。僕も3本くらいだと試合はちょっと心許ない感じです。ラケット自体が折れることもありますが、ガットが切れちゃうことが結構あるんです。消耗して切れるんじゃなくて、思い切りの力でバチンと打つと、当たりどころによっては、新品で貼ったばかりのガットが一発で切れちゃうんですよ。ガットが緩ければある程度衝撃も吸収されると思いますが、上級者ほどガットを固く貼ることが多いので、ガットも切れやすいですね。試合中はどうしても力んじゃうので、端のほうにボールが勢いよく当たってしまって、ガットが切れるのと同時にラケットがバキバキっと折れたりすることもあります。あとは、ダブルスでラケット同士が接触して折れちゃうこともありますね。

――結構あっさり折れるものなんですね。

下川:使えるラケットがなくなると、どんなにリードしていても棄権扱いで負けになってしまいます。あまりそういうケースを見たことはないんですけどね。たとえば卓球の場合だとラケットはずっと使っていく、使い込んでいく道具ですが、バドミントンのラケットは文字通り「消耗品」ですね。壊れる前提で考えておかないといけない。ですから、タオルグリップの話にもありましたが、自分に合ったラケットを理解して、準備しておくことも大事ですね。

いま高いものだと1本3万円ぐらいするラケットもあります。初心者向けには1万円ちょっとからあります。ガット自体はだいたい1000円ぐらいで、貼り替えてもらうと貼り賃が2000円以上かかります。だからみんな、ガット貼り用の機械を使って自分で貼ったりしますね。ただやっぱり貼るのにも得手不得手があって、下手な人が貼るとラケットが折れることもあります。

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■プロフィール

下川裕一,バドミントン

下川裕一(しもかわ・ゆういち)
1981年生まれ。東京都出身。祖父の手ほどきで3歳からバドミントンを始める。淑徳巣鴨高等学校、淑徳大学を卒業後、旭工芸株式会社に入社。実業団選手として16年プレーし、昨年からはコーチ兼選手として活動している。