「夢のような一週間」 ホールインワンも達成、クラブプロが魅せた“アメリカンドリーム”
<全米プロゴルフ選手権 最終日◇21日◇オークヒルCC(米ニューヨーク州)◇7394ヤード・パー70>
ニューヨーカーの心をわしづかみにしたマイケル・ブロック(米国)のシンデレラストーリーは、予選通過だけでは終わらなかった。最終日にローリー・マキロイ(北アイルランド)との2サム、15番パー3でのエース達成、来年大会の出場権獲得…。まさに“アメリカンドリーム”だった。
46歳のブロックは賞金で生活をするツアープロではなく、カリフォルニア州ロサンゼルス近郊のアロヨ・トバルコGCのヘッドプロ。PGA・オブ・アメリカ(全米プロゴルフ協会)所属の“クラブプロ”だ。今大会に出場した20人のクラブプロのうち、唯一の予選通過を決めたことで話題になった。
そしてジャスティン・ローズ(イングランド)と回ったムービングデーの3日目は「70」として、トータルイーブンパー・8位タイで最終日へ。上位争いに加わったことで注目に火が付き、一気に時の人となった。
そしてクラブプロ初のトップ10入りがかかった最終日は、マキロイとのプレー。ギャラリーのコールは世界トップランカーだけではなく、シンデレラガイにも向けられ、大声援を浴びながらコースへと飛び出した。
1番、7番とボギーが先行。そのままバーディをひとつも奪えないまま、トータル2オーバーに落として終盤を迎えようとしていだが、ブロックのストーリーはまだ終わっていなかった。
この日151ヤードに設定された15番パー3。7番アイアンを振り抜くと、見送った打球はグリーンに着弾することなく、そのままカップイン。見事な“ダンクエース”を記録した。
「ローリーが僕のほうに歩いてきて、ハグをしてくれた。そして『やったね』って言ってくれた。わたしを応援してくれた大勢の前で、ローリーがホールインワンしたことを教えてくれた。とてもクールな経験だよ」。コースから贈られた15番のフラッグを手にして、その忘れられない一瞬を振り返る。
続く16番をボギーとして迎えた最終18番でも魅せた。2打目がグリーン左サイドのギャラリーの中まで大きく曲がり、そこからなんとかグリーンオン。3.5メートルのパーパットを残した。ギャラリーがかたずをのんで見守るなか、これを沈めた。大歓声とともにトータル1オーバー・15位タイでホールアウト。これで、ケンタッキー州ヴァルハラGCで開催予定の2024年大会への出場権も獲得した。
「本当に夢のような一週間だった。ロチェスターの観客と一緒のメジャーの日曜日は、非現実的なものだった」。そして子どもが生まれたときでさえ見せなかったという涙がブロックの目にあふれた。「ゴルフ好きな人なら分かると思うけど、ゴルフのことで泣いちゃうんだよ。わたしがどれだけゴルフを愛しているかということが、これで分かってもらえただろう」。
夢の1週間を振り返り、「わたしの人生は変わったけど、いいほうにしか変わっていない。こんなに素晴らしい経験をさせてくれたPGAとオークヒルに感謝してもしきれない」。来週の米国男子ツアー「チャールズ・シュワブチャレンジ」にスポンサー推薦で出場することも急きょ決定。無名プロが魅せた数々の奇跡は、「全米プロゴルフ選手権」の伝説としてこれからも語り継がれるだろう。(文・笠井あかり)
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