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子供の頃から夢見た「一番欲しかったタイトル」【舩越園子コラム】

大好きな場所で勝利したフィッツパトリック(撮影:GettyImages)

マスターズ翌週に開催されたRBCヘリテージは、PGAツアーが今季から実施している賞金総額2000万ドルの「格上げ大会」の1つだ。
戦いの舞台は米国のゴルフのメッカ、ヒルトンヘッド・アイランド(サウス・カロライナ州)のハーバータウン・ゴルフリンクス。優勝争いの大詰めは、この地に特別な思い入れがある2人の選手の一騎打ちになった。

最終日を2位に1打差の単独首位で迎えたのはイングランド出身の28歳、マシュー・フィッツパトリックだった。6歳のころから毎年、家族旅行でヒルトンヘッドを訪れ、歴史の長いこの大会を観戦していたというフィッツパトリックは、当時からこの大会で勝利を収める自身の姿を思い描いていたという。

今週もフィッツパトリックのドライバーには、この地のシンボルである赤と白の灯台デザインのヘッドカバーが被せられていた。
そんなフィッツパトリックから2打差で最終日をスタートしたジョーダン・スピースは、昨年大会の覇者だ。先週のマスターズで4位タイに食い込み、好調の波を持続したままヒルトンヘッドに乗り込んだスピースは、この大会の連覇を目指し、最終日は出だしからバーディを重ねて単独首位へ浮上した。

しかし、15番、16番で連続バーディを奪ったフィッツパトリックに再び並ばれ、2人はサドンデス・プレーオフへ突入。勝利への熱い想いを胸に秘めた2人の一騎打ちは、文字通り、手に汗握る熱戦となった。

プレーオフ1ホール目の18番(パー4)は、2人とも着実にフェアウェイとグリーンを捉えたが、ピン4メートルにつけたスピースが圧倒的に有利だった。だが、バーディパットはカップに蹴られ、どちらもパー。

いつしか大観衆からは米国人のスピースを応援する「USA!USA!」コールが起こり、英国人のフィッツパトリックは四面楚歌の状況下、必死の形相で戦っていた。

2ホール目の17番(パー3)は、2人ともピンそば3メートル前後につけたが、どちらもバーディパットを沈めることができず、決着はプレーオフ3ホール目へ持ち越された。

そして、3ホール目の18番。フェアウェイからの第2打を打とうとしていたフィッツパトリックがわずかに首を傾げたとき、相棒キャディはすかさず「さっきと同じショットでいい」と言い切った。

ピンまで186ヤード。プレーオフ1ホール目では179ヤードを9番アイアンで打ち、「ピン上10メートル。ややオーバーめだった」ことが思い出され、フィッツパトリックは「少し迷っていた」。

しかし、キャディからの「さっきと同じショット」という自信たっぷりのアドバイスが彼の迷いを振り払い、フィッツパトリックが打ち出したボールは、グリーンをヒット後、ピン方向へ転がり寄り、ピンそば30センチに止まった。

その瞬間、大観衆は彼のスーパーショットに割れるような歓声と拍手を送った。スピースを応援し、「USA!」を連呼していたギャラリーが、英国人のフィッツパトリックの素晴らしいショットを讃え、沸き返ったあの場面は、国境を越えて人々の心を一つにするゴルフの力が生み出した名場面だった。

スピースの第2打はピンにはつかず、バーディトライはカップを越えて転がっていった。そして、フィッツパトリックの30センチのバーディーパットがウイニングパットとなった。

昨年の全米オープン優勝がフィッツパトリックの唯一の勝利だったが、ようやく手に入れた2勝目が、幼いころから慣れ親しんできたRBCヘリテージのタイトルだったことが、彼の喜びを倍増させていた。

「メジャー・タイトルを除けば、これは僕が一番欲しかったタイトルだった」

幼いころから20年超の長きにわたり、渇望してきたRBCヘリテージでの勝利は、迷いを振り切って打った「9番アイアンの勝利だった」。そして、四面楚歌の中、唯一の見方だった相棒キャディと2人で勝ち取った見事な勝利だった。

見どころ満載でストーリー性があふれた今年のRBCヘリテージは、「格上げ大会」にふさわしい、いい戦いだった。

文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)

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