Abemaが全試合放送へ スマホでW杯放送はどう変わるか

写真:Etsuo Hara / Getty Images

(大会直前のため再掲載)

2022年3月15日に動画配信サービス「Abema(アベマ)」が11月に開幕するFIFAカタール・ワールドカップ(W杯)の放映権を獲得、全64試合を無料配信することを発表した。これまで地上波または衛星放送のテレビ中継が基本だったW杯の中継において、「Abema」の本格参入によって、「テレビとインターネット」という2つスタイルが共存する初のW杯を迎える。日本史上初のライブ配信がもたらすもの、またそれにより各方面にどのような影響が出てくるのか。その背景を紐解きながらこの事象について述べていきたい。(文・井本 佳孝)

近年主流になるつつある定額配信

1930年にウルグアイで第1回大会が開催されて以来、これまで21回開催されているW杯だが、日本で初めてテレビ中継されたのが1970年のこと。東京12チャンネル(現テレビ東京)が「三菱ダイヤモンド・サッカー」でにてメキシコ大会の模様を放送した。その後、NHKが1978年アルゼンチン大会から放映権を獲得し、1990年イタリア大会では全52試合を中継。1998年フランス大会に日本が初出場すると、日本サッカーの発展とともに、地上波+衛星放送によるW杯のサッカー中継が定着するようになった。

そんな中で近年のサッカー中継に変化を及ぼすようになったのが、スマートフォンの普及に伴うインターネット配信の存在だ。海外サッカーやJリーグなどを配信する「DAZN」、国内のカップ戦やドイツ・ブンデスリーガなどを配信する「スカパー!」、チャンピオンズリーグやリーガ・エスパニョーラを配信する「WOWOW」などが代表的だろう。スマホ、タブレット、テレビなど多様なデバイスで場所を選ばずに視聴が可能な、定額制(月額制)でユーザーが課金してコンテンツを楽しむサービスでサッカーファンが中継を楽しむ時代が到来したている。

その中でも「DAZN」は日本代表が戦ったカタールW杯のアジア最終予選を地上波と同時刻にライブ配信し、深夜を中心に行われたアウェイ戦をは独占で配信した。事前番組や豪華解説陣を招いての戦術の振り返りなど、従来の地上波中継とは一線を画したコアなサッカーファンをターゲットにしたコンテンツ配信や中継の手法を取り入れた。これまでの無料で地上波のテレビ中継を見るだけでなく、課金システムを用いたライブ配信という新たな選択肢が生まれ、サッカーを含めたスポーツ中継のあり方が多様化されてきているといえる。

放映権の高騰とともに新たな時代へ

“地上波+インターネット配信“という流れが生まれ始めていた中で3月に発表されたのが「Abema」によるカタールW杯全試合の無料配信である。今回のW杯でも引き続き地上波+衛星放送による中継プログラムが各社で組まれているものの、現在各スポーツ中継で主流になりるつつあるペイ・パー・ビュー(PPV)や定額制ではなく、全試合を無料で配信することは大きな意味をもつ。テレビ放送からインターネット放送へと新たな時代へ移行する第一歩となる可能性を含んでいる。

「DAZN」によるW杯アジア最終予選の中継は、放映権の高騰が理由という見方があったが、「Abema」が全試合の放映権を獲得した今回のW杯についても同様の考え方ができる。高額な放映権に伴い、地上波または衛星放送での中継というこれまでスタンダードとされてきたモデルを維持することが困難になり始めた。そこに多くの予算をかけられるインターネットメディアが参入してきたことにより、ネット配信が地上波中継の牙城を崩すとばかりに勢いを増しているのが現状であるといえる。

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