駆け引きのシングルス・スピードのダブルス バドミントンの試合の見どころを解説

下川裕一,バドミントン

バドミントンの見どころ、ド派手なスマッシュ意外にも実はいろいろある。シングルスなのか、ダブルスなのか、それともミックスなのかで注目すべきポイントも変わってくるようだ。

実業団チームの選手として16年のキャリアを重ね、現在は選手兼コーチを務める下川裕一さんに聞く。

ラリーの応酬に歓喜するダブルス、駆け引きを味わうシングルス

下川裕一,バドミントン

――シングルスとダブルスで、見どころもかなり違ってきそうですね。

下川:シングルスは、球のつなぎあいや落とす位置の駆け引きとかが結構おもしろいですし、ダブルスは、至近距離で打ちあうような速い球の応酬がすごく見ごたえがあります。普通の一般の人が見るんだったら、球のスピードの速いダブルスのほうが、目まぐるしい攻防やラリーのテンポがあって面白いと感じやすいかもしれません。シングルスは、コート上の駆け引きの部分が結構なウエイトを占めるので、一般の人には分かりにくいところがあるかもしれません。ただ、シングルスの場合は、選手の個性がダブルスよりも大きいんです。速いタイプもいるし、遅いタイプも出てくるので、“組み合わせの妙”はダブルスにないポイントでしょう。速い選手同士の対決もあれば、遅い選手同士がぶつかることもある。

――プレースタイルの差が大きく出てくるというところがおもしろい?

下川:そもそもバドミントンは、できることできないこと、得意なこと不得意なことで差が出やすいスポーツです。相手に合わせてとか、自分の弱いところを消して強いところを見せるみたい試合運びをすることもありますし、自分の得意なプレーのほうに試合の組み立てを持っていくこともあります。スマッシュをうしろからボコボコ打って点数を取るタイプもいますし、逆につないでつないで、我慢して我慢して、ミスしないようにして勝つスタイルのプレーヤーもいます。自分の持ち味を相手にどうぶつけるか、そのあたりの駆け引きも含めて見られるようになると、俄然シングルスは面白くなると思いますね。ダブルスは、プレースタイルの差はある程度あるんですけど、基本的には速いプレイが魅力でしょう。

独特の難しさがあるミックス

下川裕一,バドミントン

――ミックスの選手は、もともとダブルスをやっているケースが多いんですか?

下川:そうですね。戦略としては、いかにスマッシュを打つか、そしていかに相手にスマッシュを打たせないか、というのがポイントになります。でも、そこでまた難しいのが、女性と男性で筋力などの面で差が出てくるところですね。基本的には、球を相手のコートに低く落とす役を女性が担うので、あまり動かないんですよ。なので、逆に男性は動けるダブルスの人じゃないとミックスが成立しにくいんですね。シングルに近いような動きでダブルスができる男性がミックスをやるケースが多いです。

――男性が攻め、女性が守るようなイメージですね。

下川:球を相手コートの前に落として、それを相手に上げさせてスマッシュに持ち込むのがダブルスの基本戦術です。球を落として上げさせるのがうまいプレーヤーと、打つのが強いプレーヤーで組んだりします。ミックスもそれに近くて、女性が落として上げさせて男性に打たせる作戦を基本的にはとります。女性は男性にスマッシュを打たせたいので、上げないで、なるべく落とす。とにかくネット前に落とそうとします。

――実質、女性がトスを上げる役で、男性がアタックするってことですね。

下川:そうです。ダブルスでも、球の強いほうに打たせたいので、球の弱いほうが球を落として強いほうに打たせるという形をとりたがるのと同じですね。そういう球を作れる女性じゃないと、ミックスは厳しいんです。

動きが特殊なだけに、ケガもつきまとう

下川裕一,バドミントン

――種目で共通の見どころはありますか。

下川:近年競技の精度も上がってきて、転びながら球を取るっていうプレーが多くなってきています。絶対届かないように見える、普通に手を伸ばしても、どうやって伸ばしても届かない距離の球に対して、近年は中高生でも、膝をついたり、パッと転ぶというか、倒れて拾うようになってきているんです。今は転びながら取るのも技術なので。転びながら取った上で、何食わぬ顔で立ち上がる。それもバタバタ転んで起き上がってじゃなくて、一連の流れで、そのままパッとスタンディングに戻れちゃう技術があります。そういうのを見ると、「おおっ!」となると思いますよ。

――シャトルランを繰り返すような動きの連続があるだけでなく、そんなアクロバティックな所作も出てくるとなると、ケガをするケースも多そうですね。

下川:多いのは、アキレス腱、膝、手首、足首あたりを痛めるケースですね。「付き物」といってもいいくらい、これらはすごく多いです。バドミントンは結構独特な動き方をするだけに、体の手足の関節付近、ジョイント部分を痛めやすいのかもしれません。ただ走るとか跳ぶとかではなくて、ラケット1本持ってスタートとストップを繰り返すわけです。加えて、結構絶妙な広さのコートがクセモノ。大きく足をしっかりと伸ばせば、シャトルを拾える距離なんですけど、それがちょうど絶妙な広さなので、基本的な動き方がしっかりできていないと、なかなかそこまで動けず体に無理をさせてしまうんです。だから素人や初心者がやるぶんにはあまりケガしないんですけど、ある程度できるようになってくるとケガが増えてくる傾向にあると感じます。

来月(8月)には、世界バドミントン選手権大会が東京で開かれます。記事を読んでいただいた方には、ぜひバドミントンを見ていただいて、より魅力を感じて頂けたらと思います。

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■プロフィール

下川裕一,バドミントン

下川裕一(しもかわ・ゆういち)
1981年生まれ。東京都出身。祖父の手ほどきで3歳からバドミントンを始める。淑徳巣鴨高等学校、淑徳大学を卒業後、旭工芸株式会社に入社。実業団選手として16年プレーし、昨年からはコーチ兼選手として活動している。