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“スポーツランドみやざき”の戦略。テゲバジャーロの創設者と行政が目指す地域活性

宮崎県はプロスポーツチームがシーズン前にキャンプ地として訪れることで有名だが 、行政主導で“スポーツランドみやざき”と銘打ち、受入環境の充実とスポーツを契機とした地域活性を目指して動いている。現在、ラグビー日本代表や横浜Fマリノスなどがキャンプで利用するスポーツ施設併設の宿泊施設「フェニックス・シーガイア・リゾート」の一画に新たな屋外型トレーニングセンターを建設中で、2023年4月の供用開始を目指している。

宮崎県が”スポーツ”を軸に目指す地域活性化と、スポーツ×地域創生の可能性とは。

宮崎県の観光推進課・スポーツランド推進室室長の中尾慶一郎氏と、明治安田生命J3リーグに所属するテゲバジャーロ宮崎の創設者であり、現在は宮崎県サッカー協会に籍を置く柳田和洋氏に話を聞いた。

地元・宮崎に「おらが町」のクラブを発足

—まず、県がスポーツ振興に力を入れはじめたきっかけを教えていただけますか?

中尾:1996年から行政と民間が一体となった組織がつくられ、”スポーツランドみやざき”というテーマを掲げて活動しています。もともと宮崎は新婚旅行先として、待っていてもお客さんが来てくれる地域でしたが、旅行先に沖縄が選ばれるようになり、観光客が減ってしまいました。これはまずいと、宿泊業関係の皆さんがスポーツ誘致に力を入れようと声をあげたのがきっかけです。

—宮崎県といえば、プロ野球やJリーグのキャンプ地という印象があります。最初に誘致したのはいつなのでしょうか?

中尾:読売巨人軍のキャンプが最初です。一時期はグアムやハワイなど海外へ行くチームも増えましたが、今は国内が主流になっていますね。

空港からのアクセスや気候が理由で、多くのチームにキャンプ地として選んでいただいています。宮崎は南国のイメージがありますが、意外と冬は寒く、シーズン前の調整には最適な気候です。「温かい地域で調整をしてシーズン開幕を迎えると、怪我が増える」と球団関係者の方がおっしゃっていました。

また2004年からは『フェニックスリーグ』を開催しています。NPB球団が宮崎に集まって、若手選手を中心に試合を行います。現在1軍で活躍している選手の多くが、宮崎での試合経験があります。独自の練習環境もアピールしています。


—柳田さんは生まれも育ちも宮崎ですよね。宮崎のスポーツ文化について、どのように感じていますか?

柳田:宮崎は野球文化が根強い地域です。私が幼い頃からテレビでは唯一巨人の試合が流れており、みんな見ていました。宮崎県民はみんな巨人ファンでしたね。

—そんな中、柳田さんはサッカーに携わってきましたよね。

柳田:高校時代は選手権出場とも縁のないチームでプレーしていましたが、大学は東海リーグ1部のチームに進学することができました。そして大学2年生のときにJリーグが開幕して、大学の同級生が地元のチームの話をしているのを見て「おらが町のクラブがあるのっていいな」と思ったんです。そして、宮崎にプロクラブを作りたいと思い、帰ってきました。テゲバジャーロ宮崎を立ち上げ、Jリーグ昇格を達成したタイミングで退職しましたが、スポーツで宮崎を盛り上げたいという思いは消えず、宮崎県サッカー協会で仕事をしています。

—地方では優秀な選手が県外に出ていってしまう印象があります。

柳田:そうですね。進学にあわせて県外のクラブへ移ってしまう子は多いです。そのような選手をどうやって県内に残すかは、協会も課題として認識しています。

—スポーツ振興に力を入れるのは、そうした選手を地元に残す意図もあるのでしょうか?

柳田:2017年に監督を務めていた石﨑信弘さん(現カターレ富山監督)から「なんで宮崎は他県のチームで盛り上がっているんだ」と言われました。Jリーグでの指導経験が豊富な石﨑さんにとって、地域に根付いたチームがあるのは当たり前。キャンプの時期だけでなく、一年を通してスポーツとの接点をつくるチームの存在が必要だと再認識させられました。

中尾:間近で一流選手のプレーを見れることは、子どもたちにとっても大きな刺激になります。先日おこなわれた東京オリンピックでも、事前合宿として海外のアスリートを受け入れましたが、コロナの影響で練習を公開できなかったのは残念でしたね。

過去には、WBCの事前合宿でイチローさんが来たり、ラグビーW杯で五郎丸さんが来たり。サッカー日韓W杯でドイツとスウェーデンが来たときもインパクトがありました。

—キャンプ地はどういった理由で選定されるのですか?

中尾:うわさが広がる形が多いです。日韓W杯のときは、もともとオランダの合宿が行われるはずでした。しかし、ヨーロッパ予選で負けてしまい本戦に進めなかったんです。そこで、ドイツとスウェーデンが「オランダが興味を持っている宮崎はどんな場所だろう」と。一度に2カ国を受け入れた都市は宮崎だけです。

また宮崎はサーフィンにも力を入れており、2019年には『ISA ワールドサーフィンゲームス』が開催されました。オリンピック予選となる大会で、全世界から多くの選手が集まりました。日本ではないような雰囲気でしたね。

3月にフェニックス・シーガイア・リゾートのグラウンドで行なわれた大学サッカーの大会

試合観戦をきっかけに、宮崎の魅力を感じてほしい

—テゲバジャーロ宮崎発足の影響についても伺いたいと思います。チームが結果を残し、カテゴリーがあがることで、来場するサポーターの数も増えますよね。鹿島アントラーズやサガン鳥栖は、ホームタウン自体はそこまで大きくありませんが、アウェイチームの来訪で経済効果ははかり知れません。

柳田:一年を通じてアウェイサポーターが来てくれるのは大きいですね。サガン鳥栖がJ1に昇格し、浦和レッズと対戦したときのスタジアムの様子には驚きました。人口がそこまで多くない地域に、これだけの人が集まるのはすごいなと。

スポーツをきっかけに、宮崎の魅力発信に繋げていきたいです。“豊かな風土”に“食”など、充実したコンテンツがあるのにアピールしないのは、もったいない。アウェイサポーターにとって二番目の土地でありたいと思っています。「来年のアウェイはどこに行こうか」となったときに選んでもらえるのが理想です。

中尾:試合観戦をきっかけに、いろんな観光地や宮崎の食も楽しんでいただきたいです。アウェイサポーター向けにチームがガイドマップを作っています。宮崎の魅力を感じていただきたいですね。近年はスポーツツーリズムにも力を入れているので、サーフィンを体験したり、日南海岸をサイクリングしたりするのもオススメです。

—中尾さんもキャンプの盛り上がりを見ていて、地元のチームがないことにもどかしさもあったのではないでしょうか。テゲバジャーロ宮崎の発足の影響をどう感じていますか?

中尾:地元にチームができたのは非常に大きな変化でした。一年を通して全国からアウェイサポーターが来てくれるので、地域活性化に繋がります。

また地元への愛着も強まります。スポーツをする、見るだけでなく、“支える”という側面から関わる人が増えました。ホームタウンである宮崎市と新富町、西都市の方はとくに応援してくれています。先日おこなわれた試合の観客は1400人。前年の平均が1200人なので、少しずつ増えています。

2021年に『ユニリーバスタジアム新富』が完成したことも増員を後押ししています。以前は特定のホームがなく、県内の競技場を転々としていました。ようやくホームスタジアムが完成し、サッカー専用スタジアムなのでお客さんとピッチの距離が近くなったのも大きな理由だと考えています。

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