2023年W杯招致へ。日本女子サッカーをどう“魅せる”のか
2016年以降、W杯でのメダルから遠のいているサッカー日本女子代表・なでしこジャパン。2019年のフランスW杯でも、ベスト16にとどまった。再び女子サッカー界を盛り上げるためには、もう一段階上の起爆剤が求められているといえる。
2023年のFIFA女子W杯が日本で開催されれば、紛れもない起爆剤となるだろう。それだけに、今回の招致活動は日本女子サッカー界発展の鍵を握っている。
日本サッカー協会(以下、JFA)で日本招致委員会実行本部ヘッドクォーターダイレクターを務める江川純子(えがわ・じゅんこ)氏に、W杯招致への思いと戦略について聞いた。
(取材日:2020年4月30日 聞き手:市川紀珠)
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自国でなでしこ世界一へ。15年越しの思いを形に
ー今回の招致に至った経緯を教えてください。
きっかけは、第5回FIFA女子W杯が中国で開催された2007年まで遡ります。日本は1991年の第1回大会からすべての女子W杯に出場しています。なのに1995年に一度ベスト8になった以外は、2007年までグループステージで敗退し続けていたんです。
そういった状況を受けて、JFAとして女子サッカーにもっと力を入れていく必要がありました。「世界のなでしこになる。」というビジョンのもと、具体的に3つの目標を立てたものが今なお掲げている「なでしこvision」です。
このビジョンを達成するために、「サッカーを女性の身近なスポーツのひとつにする」という目標のなかで「W杯を日本で開催して成功させる」と掲げました。当時の理事会でもこの考え方に賛同していただき、招致することが正式に承認されました。
それが、今回ようやく形になりつつあります。これまで、例えば2019年大会は東京五輪との兼ね合いで招致を断念するなど様々なことがあり、満を持してこのタイミングだろう、と。
ー開催決定時期について、新型コロナウイルスの影響もあると思います。
そうですね。必要な材料は全て揃えて、2019年12月に開催提案書などの招致書類を提出しています。2020年6月25日に開催決定の判断が行なわれるので、あとは天命を待つのみです。
FIFAの大会は、どこの国にとっても大きな規範となる大会です。国際大会がどうあるべきかについては今さまざまなことが指摘されています。それらも踏まえた上で、従来のやり方にこだわらずにやっていくことが大切だと思っています。
ー招致に向けて、これまで国内ではどのような取り組みをされてきたのでしょうか?
ひとつは、なでしこジャパンの代表戦を中心にサッカーファミリーの理解を促すことですね。10月に行なわれた国際親善試合で乳がん啓発運動であるピンクリボン運動とも連動させてもらいました。(参照:なでしこは、ピンクリボンを支援する。社会の一員としてのサッカー選手)
その他にも、過去の優勝トロフィーや着用ユニフォームなどを展示する招致応援ブースを設置して、なでしこジャパンのこれまでの歩みを紹介しました。またサッカー男子、フットサルの代表戦などでも同様のブースを設け、ビーチサッカーを含め日本サッカーファミリーの各代表チームには試合後に招致のバナーを持って場内を一周していただいたりもしました。
ー招致に関して、企業との連携は考えられているのでしょうか?
招致に関しては、公平性が重視されています。なので、どの国も招致自体にスポンサーをつけることは禁止されているんです。金銭的なことがハードルとなって招致ができない、ということができるだけないようにFIFAにコントロールされています。
日本代表を日頃支えてくださっている企業の方々からは何か一緒にできたらといった、ありがたいご意見をいただいたこともありました。結果的に一体となる招致活動ができていると感じています。
「場所・人・経験」全てで示す日本の強み
ー現在、日本の他にブラジル、コロンビア、オーストラリア・ニュージーランドが開催国候補として名乗りを挙げています。特にライバルとなる国はあるのでしょうか?
オーストラリア・ニュージーランドの共催はライバルのひとつです。共催自体、2026年の男子W杯もそうですし、FIFAからの評価が高いのではと言われています。ニュージーランドのような国土が小さな国でも「自国でW杯を開催する」という夢が叶う。FIFAはこれもひとつのやり方だと提示しています。
さらに、ユースのFIFA大会は開催していても、大きなFIFAの国際大会を開催したことが2国ともなくて。地域として未経験であることと共催というシナリオは、FIFAが求めているものに上手くはまるかもしれません。ただFIFA女子W杯は世界最高峰の大会のひとつ。経験があり全てが揃っている国で開催するべきだと我々は訴えています。
他にも、ブラジルは2014年に男子W杯を開催した経験があるので手強いです。候補国の中で最も直近に開催経験があることになります。一方コロンビアはFIFA女子ランキングがそれほど高くない国のなかでも唯一ここまで残っているので、この大会に懸ける国の強い思いを感じます。
ーこれらの国々に対して、日本はどういった点で勝負していくのでしょうか?
日本の強みは、FIFAの国際大会に関して経験値が高いこと。2002年の日韓W杯、2012年のU20女子W杯、そしてクラブW杯は合計8回開催しています。
2012年のU20女子W杯では、当初はウズベキスタンが開催国だったんです。それが、設備不足などで返上になって。大会の約半年前に「日本ならできるのではないか」という打診をFIFAから受けて、日本での開催が決まりました。日本の運営能力の高さは十分証明できていると思います。
施設面では、新国立競技場や京都府立京都スタジアムといった最新のスタジアムに加えて、他の6つの提案スタジアムも非常に良く整備されています。競技の運営に関して、過不足ないものを提示できていると思っています。
さらに、ボランティアなどの人材面の基準も高いです。2019年のラグビーW杯や東京五輪に関わる方も多くいるので、経験豊富で熱意のある人材が揃っています。
ホスピタリティ面でのFIFAからの評価も高いですね。「日本に来ると、楽しくて大会があっという間に終わってしまう」と。
ー実際、FIFAの視察ではどういったところが見られているのでしょうか?
2月に視察が行われましたが、競技に使う施設やインフラ、宿泊、交通網の状況についても見られています。書類に記載されている時間通りに、会場間での移動が可能なのかも確認します。
8ヶ所スタジアムを提案している中で、どこも行政の方々を含めて「女子W杯を、自分たちの市でやるんだ」と、とても前向きに取り組んでいただけています。
視察では、市長自らスタジアムで出迎えてその素晴らしさを語ってくださるなど、開催へのモチベーションを存分に伝えることができたと感じています。
ー逆に、招致をする上での日本の課題はあるのでしょうか?
特に壁となるような大きな課題はないと考えています。
ただFIFA大会を開催する時には、セキュリティ面などで国政レベルでの協力が求められます。日本の場合は、ひとつの大会を迎えるために特別な法律を作ることはできません。
なので、日本が法律で定めている範囲でできることとFIFAが求めていることを比べた時に、多少のズレがあることは事実です。
でもこれまでの大会を通じて、問題なく運営できることは証明できています。やはり過去の開催経験が強みになっていますね。
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