ゴールデン・グラブ賞投票結果の“違和感”。京田の過小評価、常連組への優遇。そして非公開投票の限界<SLUGGER>
12月2日に「第50回三井ゴールデン・グラブ賞」が発表され、以下の選手たちが名誉にあずかった。毎年、喧々諤々の議論を呼ぶアウォード投票だが、今年は特にセ・リーグの方でなかなかどうして“不思議”な結果となった。その争点をいくつかまとめてみたい。
1:京田の評価はいつ上がるのか
セ・リーグの遊撃部門は、坂本勇人(巨人)が2位の中野拓夢(阪神)に7倍以上の差をつける222票の圧倒的支持を得て3年連続5度目の受賞を果たした。遊撃手最少の4失策にとどめた坂本は、データサイト『Delta』が発表している守備指標UZR(各ポジションの平均と比較し、どれだけ多くの失点を防いだかを示す)でもリーグ2位の5.0をマークしており、まずはもっともな受賞に思える。
ただ、その坂本を抑えてトップだったのが、中日の遊撃手・京田陽太だった(5.3)。卓越したステップワークとグラブさばきを誇る京田は初受賞の可能性も考えられたが、得票数わずか29票で3位に終わった。一方、2位の中野はルーキーながら盗塁王に輝いた俊足を生かしたアクロバティックな守備が売り物だが、失策数は遊撃手ダントツ12球団ワーストの17。京田の7失策よりもずっと多く、UZRは意外にもマイナスだった。
今年に関しては、坂本と京田のUZRの差はわずかなもの。そもそも、単純にUZRだけで受賞者を決めるべきではない。しかし、2019年の投票でも、UZRで大差をつけただけでなく、公式記録の守備率や刺殺、失策数でも坂本を凌駕していた京田は大差で涙を呑んだ。そして、今年は3位にまで“転落”。皮肉な話だが、かつて本人も語っていたように、打撃で目立たない限りはゴールデン・グラブ獲得は難しいのかもしれない。
2:捕手の選出は“優勝補正”が影響した?
京田の例を持ち出すもなく、ゴールデン・グラブと打撃成績は大いに関係している。過去の受賞者を見ても、打撃成績を加味して判断していると思わざるを得ないものが散見されてきた。
そこで改めて、ゴールデン・グラブ賞の「選出基準」を確認したい。公式サイトにはこう書いてある。
「卓越した守備によりチームに貢献し、プロの技術を発揮したプレーを基準として選出された『守備のベストナイン』を表彰するもの」
やはり、投票者は何よりもまず、選手の「守備力」を評価することが求められるというわけだ。その観点から考えると、セ・リーグの捕手はやや首をかしげたくなるものだった。
●盗塁阻止率
1位:大城卓三(巨) .447
2位:木下拓哉(中) .426
3位:梅野隆太郎(神) .288
4位:中村悠平(ヤ) .255
●失策
1位:大城卓三(巨) 1
2位:木下拓哉(中) 2
2位:中村悠平(ヤ) 2
4位:梅野隆太郎(神) 6
●捕逸
1位:大城卓三(巨) 2
1位:木下拓哉(中) 2
1位:中村悠平(ヤ) 2
4位:梅野隆太郎(神) 3
原辰徳監督に名指しで守備を批判されることも多い大城だが、意外(?)にも公式記録となっている守備成績は上々。確かに捕手守備は評価が難しく、日本でも浸透してきたフレーミング(際どいゾーンに投じられた球をストライクとコールさせる技術)なども本来は勘案すべき事項であり、こちらは梅野隆太郎(阪神)がトップというデータもある。
それだけに、ある意味では「投票者の腕の見せ所」とも言えるポジションと言えるが、ゴールデン・グラブに輝いたのは“優勝捕手”の中村悠平(ヤクルト)だった。しかも、UZRリーグ1位、あらゆる指標で圧倒している木下拓哉(中日)のほぼ倍の票を得ている。
阻止率.255と振るわなかった中村が大差で受賞できたのは、定義の言葉を借りれば「チームに貢献した」部分がかなり影響したのではないか。もっとも、それは「守備のベストナイン」という点に反する気もするが……。
3:菊池の“高すぎる”壁
同じ優勝チームの選手でも、恩恵を得られなかったのは山田哲人(ヤクルト)だ。セ・リーグ二塁手のゴールデン・グラブには菊池涼介(広島)が歴代最多9度目の戴冠。もっとも、こちらも明確に菊池が上と言えるほどの差があったのか疑問だ。
まず、UZRでは山田の7.2に対して菊池は0.2にとどまり、旧来型の指標でも山田は菊池を上回っていた。
●守備率
山田.992>菊池.991
●併殺
山田83>菊池75
●補殺
山田373>345
●守備イニング
山田1140回>菊池1088.2
また、イニング数は少ないものの、投票3位に終わった吉川尚輝(巨人)はダイナミックな守備を武器にUZRトップに立っており、もう少し票が多くても(35票)良かったように思う。
菊池自身も天然芝のマツダスタジアムを本拠にしながら、今年も華麗なビッグプレーを連発していたのは事実。ただ、今年ではなく過去の印象が上乗せされて「菊池はすごい、菊池で決まり」と半ば思考停止のように投票している者がいるのではないかとも同時に感じざるを得ない。
【動画】“忍者”・菊池涼介のスーパープレー! GGも納得?4:衰えが明らかな大島だが……。まさかの“あの選手”も得票
セ・リーグ外野部門も、なかなか驚きの結果となった。強肩の鈴木誠也(広島)、広い守備範囲を守る近本光司(阪神)は納得だったが、4年連続9回目の受賞となった大島洋平(中日)はさすがに今年は厳しいと思った方も多いのではないか。
11月に36歳を迎えた大島は、さすがに守備範囲が狭まっている印象があり、肩の弱さも気がかりな状況が続いている。実際、UZRは4年連続でマイナスに沈んでおり、今季はセ・リーグのセンターでワーストだったが、“信頼感”ゆえか無事に連続受賞を決めた格好だ。
もっとも、賞レースに影響はなかったとはいえ大島以上に違和感を覚えたのが、佐野恵太(DeNA/4票)やサンズ、佐藤輝明(ともに阪神/1票)らへの投票だ。確かに彼らは打撃で目立つ活躍を見せた。しかし、こと守備に関してはお世辞にも名手とは言えないはず。それでもなお、彼らが「守備のベストナイン」にふさわしいと考える人がいたわけで、ぜひともその理由を聞いてみたいものである。
ゴールデン・グラブをはじめとしたNPBのアウォード投票は、「どの記者が」「誰に」投票したのかは公開されていない。それゆえ、明らかにおかしい得票となった選手がファンに批判される形になりかねないのだ。最近は自ら誰に投票したのかを明かす記者も出てきているが、メジャーリーグでは発表と同時に記者の投票内容がすべて公開されていることを鑑みれば、雲泥の差がある。
では、メジャーの投票者たちが“完璧”な投票をしているかと言われれば、もちろんそんなことはない。それでも、「なぜ●●を△△より上の順位にしたのか?」とSNSなどで質問されれば、ほぼすべての記者が投票理由を説明する。
それに納得できるかどうかは別として、そこに議論の場が生まれる。アウォード投票を通して、ファンたちも見識を深めていくことが、野球文化の醸成につながっていくのだ。
しかし、日本ではこれができない。繰り返しになるが、誰が、どんな理由で、どの選手に投票したのかが分からないからだ。ここまでデータ、特にUZRを使った話も多く出てきた。中には「UZRなんか信用ならん!」という声もあるだろう。もちろん、UZRだけを基準に決めることが正しいとも思えない。
同時に、どんな人間でも全球団の全試合、全プレーを見ることなどできない。データは、そうした面を補完すると同時に、誰もが持つ主観や先入観も補正してくれる。投票者には、「自分の目」という主観的な視点と、データなどの「客観的」な視点でうまくバランスを取ることが求められる。
数字ではない“何か”を評価した、でもいい。もしそうなら、その“何か”をファンにも伝えてほしい。それが学びにもつながるはずだ。だが、日本球界の現状では、その機会がないことが悲しい。
文●新井裕貴(SLUGGER編集部)
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