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栃木SCは、ソーシャルメディアで切り開く。えとみほインタビュー【前編】
例えば社内のやり取りをSlackに統一(現在はHangoutChat)したり、求人にWantedlyを導入したり、入力フォームにformrunを活用したり……FAXが現役という現場もまだまだ多い中、同クラブはSaaSを活用した業務改善に取り組んできた。
こうした取り組みは、コロナ禍を経てさらに加速した感がある。とりわけ最大の懸案事項である収益面においても、大いに参考になる事例がありそうだ。
入社以来、同クラブのデジタル化を推進してきた“えとみほ”こと江藤美帆氏(同クラブ取締役)に、栃木SCの現状について伺った。
(取材日:2020年10月6日 聞き手:澤山モッツァレラ)
TikTok運用で得た「衝撃の結果」
—コロナ禍以降、どのJクラブも半ば強制的にオンライン化を強いられています。栃木SCさんはいち早くデジタル化を進めてきたクラブですが、コロナ以降どのような変化があったのでしょうか。
江藤美帆(以下、えとみほ):やはり、広報活動が変わりましたね。チラシを配ったりポスタ—を貼ったりができないので、SNSでの発信が増えました。
—コロナ以降、投稿のエンゲージメントも増えている印象です。受け手側も、これまでSNSを使用しなかった層が使い始めているのでしょうか?
えとみほ:それはあるかもしれません。今までは試合会場でイベント告知をすることが多かったんですが、会場に来られない方も多かったんですね。うちのクラブだと、ファンクラブに入ったりシーズンパスを購入する方の約2割は県外在住です。
加えて、コロナの影響で移動できなくなった方々や、イベントへの参加が制限されている医療従事者の方々には、試合会場での告知がそもそも届きません。そういう方々に、ホームページやSNS、メールマガジン等での告知が読まれるようになったのではと思います。
—とりわけ流入が多いのは、どのチャネルからですか?
えとみほ:TikTokですね。かなり手応えを感じています。衝撃的だったのは、プレゼントキャンペーンをやったときのこと。あえて他のメディアでは出さないで、TikTok限定でチケットプレゼントをやったんですね。
TikTokからフォームに入力して応募をしてもらった結果、10代の中高生の割合が非常に高いことがわかりました。しかもそのうちの半数近くが、栃木SCの試合を見たことがない人たちだったんです。
—すごいですね。
えとみほ:今までSNSってなんだかんだ新規にリーチしないので、あまり注力する気になれなかったんです。けれど、TikTokはうちが弱い若年層の新規、サッカー少年などの子たちにリーチできるSNSだと思って力を入れていますね。
—驚きですね。Jリーグの大きな課題である新規獲得が、TikTokによって解決できる可能性があるとは……!
えとみほ:驚きです。Twitterとかインスタにいるのは、主に既存ファンの方々です。TikTokの場合アルゴリズムで「おすすめ」の動画が出てくる仕組みなので、既存のファン(フォロワー)じゃない人にも露出できる。加えて、ユーザー層が圧倒的に若いことも魅力です。
—TikTokは、いつ頃から運用開始されたんでしょうか?
えとみほ:2020年7月ぐらいからです。明本考浩と柳育崇にBTSを踊ってもらったりしていますが(笑)、これからもいろんなものを出していくつもりです。
@tochigisc_official体張ってます。#明本考浩 #柳育崇 #栃木SC #BTS♬ Dynamite – BTS
選手が「敗戦後に」SNSを発信できる理由
—いくつか拝見していますが、ソーシャルメディア上の活動で多くの選手から協力を得ているのですね。
えとみほ:そうです。コロナ明けに、クラブの現状についての説明会をしたんですね。
「オフラインの活動ができないので、ファンの皆さんに選手のキャラクターを伝える機会が少ない。そうなると、応援してもらうことが難しくなる。SNSで、皆さんのキャラクターや人柄の部分を出していきたい」と。
特にYoutubeやTikTokなど動画メディアは活用していきたいので、協力をお願いしました。過密スケジュールで大変なんですけど、どうにか理解してもらって現在に至ります。
—僕は栃木SCサポーターではないのですが、選手の発信はかなり目に入ってきます。
えとみほ:ありがとうございます。選手には、「自分のメディアを持って発信することは、とても大事ですよ」と伝えています。
—ソーシャルメディアのプロであるえとみほさんの講習を受けられるのは、贅沢な環境ですね。その効果もあるのでしょうか、V・ファーレン戦に敗れた後のエスクデロ競飛王選手の発信は印象的でした。
今の気持ちです。#栃木SC#9番#家族#familia pic.twitter.com/jiNdoMMbwA
— エスクデロ 競飛王 (@chacarita151) October 4, 2020
ーこういう形で、敗戦後に選手が発信をするのは選手によっては抵抗があるのではと思います。えとみほさんからお願いしたわけではないんですよね?
えとみほ:そうですね、特にお願いはしていないです。発信のほとんどは、自然に任せています。
昨年はJ3降格危機もあり、発信がやりづらい部分もありました。今年は降格がなく、戦い方がハッキリしたこともあって、ファン・サポーターの皆さんに選手の頑張りが伝わっていると思います。
結果、「負けてしまったけど、次も応援してください」という発信が受け入れられやすくなっているのかなと感じます。
—選手に、何らかの制限は設けていますか?
えとみほ:「DMは絶対返さないでね」「いいねは平等に」でしょうか。特定の人ばかりやり取りすると「なんであの人だけ?」となって、揉め事の原因になるんですね。
—伺っていると、アイドルのSNS運用と近しいですね。
えとみほ:そうですね、ファンの人たちは本当によく見ているので。例えば選手のイラストや写真をアップしてくれる人たちは本当にありがたいんですが、そこで喜んだ選手がついDMに返事したり、偏っていいね!をするとトラブルの原因になる可能性もあります。そこは気をつけてね、とお願いしています。
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