チェルシーの厳しい状況に「ファンまでが罰せられるべきではない」との不満も。新オーナー候補は「政府の経営参画は阻止すべき」
ロシアのウクライナ侵攻に伴い、サッカー界にも大きな影響が各所に表われてきたが、ロシア資本が多く入り込んでいるイギリス・ロンドンのクラブで、深刻な状況に陥っているのが、世界王者のチェルシーだ。
2003年にオーナーに就任してから、巨額を投資してメガクラブの財政を支えてきたロマン・アブラモビッチ氏の資産が英国政府によって凍結され、ディレクターとしての資格も停止。そして同氏が利益を得ることを阻止するために、クラブも銀行口座やクレジットカードが一時凍結され、複数スポンサーから契約解除を通達された他、試合の一般チケットやグッズ販売(クラブショップは閉鎖)、さらには戦力補強、現所属選手との契約延長(新契約)も不可能となってしまっている。
特別措置としてクラブ運営継続のためのライセンスは与えられるも、試合の開催や遠征にも危ぶまれる状況で、政府も救済措置に乗り出そうとしているが、先行きの見えない中で選手、スタッフ、そしてファンも不安を隠せないでおり、トーマス・トゥヘル監督は「こんな状況では、全員が信頼と信念を持ち続けることが重要だ」と訴え、キャプテンのセサール・アスピリクエタは「外で起きていることは忘れる必要がある」と、プレーに集中する姿勢を示した。
ラジオ局『talkSPORT』はチェルシーの熱烈なファンの反応を紹介。その中で、ファン歴62年でジョン・ボイル、ロン・ハリス、レイ・ウィルキンスといったレジェンドとも仲が良かったという老人が、ウクライナ情勢、クラブとロシアとの関係を鑑み、「ブルーズ」との関係を絶ち、EFL2部(実質4部)のサットン・ユナイテッドに乗り換えたことを明かしている。
一方、あるファンは「アブラモビッチとウラジーミル・プーチン・ロシア大統領との関係を考えれば、今回の件は正しい決断だった」としながらも、「それによってファンまでが罰せられるべきではない」とも主張。さらに、「それだけでなく、クラブ、そしてクラブで働いて生計を立てている人々を罰したくない」と付け加え、「選手にも影響が及んでほしくはないが、将来的にはそうなる危険性がある」と懸念し、「これらの規制がいずれ緩和され、チェルシーが元に戻ることを望んでいる」と語った。
他にも同メディアは、「我々は、正しい行ないの結果に耐えなければならない」「ここからクラブや我々は、長い下り坂を辿ることになるだろう」という別のファンの声も紹介。ロシアへの抗議とそれを表わす行動の正当性を認めながら、同時にチェルシーにとっては厳しい未来が待ち受けていることを覚悟しているようだ。
そんな中、前オーナーのロシア人からチェルシーの経営権を引き継ごうと、これまでにも国内外の多くの人物が名乗りを上げている。その中で注目を浴びているのが、2010年に前オーナーが作った多額の負債によって危機に陥ったリバプールを立て直すために、ニューイングランド・スポーツ・ベンチャーズ=NESV(現在の親会社であるフェンウェイ・スポーツ・グループ=FSGの前身)への売却を取りまとめ、現在の繁栄の基盤を築いた、同クラブの元会長マーティン・ブロートン卿である。
航空会社「ブリティッシュ・エアウェイズ」の元会長で、現在、買収に向けて準備を進めているというチェルシーの大ファンとしても知られる74歳の英国人実業家は、『Sky News』のインタビューで、チェルシーからスポンサーが次々に離れている状況について「アブラモビッチによってブランドが汚されたと考えるのではなく、ウクライナの犠牲者を支援することでブランドを強化することを考えた方がいい」と提言する。
また、「ファンとの感情的な絆を強める方法についても考える必要がある」とも主張する彼は、「何より、英国政府がクラブの経営に参画するのを阻止しなければならない。さもなければ、少なくとも5億ポンド(770億円)はあるというクラブの価値が破壊されることになる。これはつまり、戦争の犠牲者へ渡る金が5億ポンド少なくなることを意味する」とも語った。
思わぬ形で、大きな嵐に飲み込まれてしまったチェルシーがこの先、どのような道を辿るのか。今後も注意深く見守る必要がある。
構成●THE DIGEST編集部
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