
海の向こうアメリカでは、野球やバスケットボールの人気を凌ぐ国民的スポーツ、アメリカンフットボール。
その魅力に打たれ、青春を捧げる学生フットボーラーがいる。
2025年11月、神戸のユニバー記念競技場に姿を見せた彼は、全日本大学アメリカンフットボール選手権大会、通称・甲子園ボウルの準々決勝に臨もうとしていた。
高津佐隼世(こうつさ じゅんせい)、22歳。法政大学アメリカンフットボール部の4年生。

「負けたら自分の学生アメフトも終わってしまうので、甲子園に行って、日本一になることだけを目標にしています」
(※かつては阪神甲子園球場で開催される決勝戦のみを[甲子園ボウル]と呼んだ)
対するは昨年、決勝の舞台で敗れている立命館大学。相手にとって不足なし。
アメリカンフットボールに情熱を燃やし続ける、高津佐準世。学生最後の戦いに挑む、その背中を追う。
時は、甲子園ボウルを間近に控えたある日に遡る。
法政大学、川崎総合グラウンドに大きな声を響かせるのは、アメフト部、通称[法政オレンジ]の面々。

その中で、実戦を想定したストップ&ゴーのダッシュを繰り返す、高津佐の姿。最後の調整に余念がない。
ここで少し、アメリカンフットボールの基本的なルールについて触れておこう。
フィールドに立つのは、1チーム11人。互いの陣地を奪い合い、その得点を競う。
野球のように攻守が明確に分かれ、オフェンスは4回の攻撃権で10ヤード以上の前進を目指す。これに成功すれば、さらに4回の攻撃権が与えられ、失敗すれば攻撃権が相手に移るというわけだ。
オフェンスのプレーヤーはランやパスを駆使して前進を繰り返し、ボールを相手のエンドゾーンへ運べばタッチダウン。6点を獲得する。
また、チームの中で、選手がオフェンス専門とディフェンス専門に完全分業されるのは、アメリカンフットボールならではの特徴といえるだろう。
高津佐が担うのは、オフェンスチームのワイドレシーバーというポジション。
オフェンスの司令塔・クォーターバックが投じたボールを、相手ディフェンスとの駆け引きの中でキャッチし、攻撃を成功させるのが仕事だ。
彼は、このワイドレシーバーのスペシャリストとして、数えきれないほど勝負のカギを握るパスをキャッチし、チームの勝利に貢献してきた。

この日の練習では、高津佐へのパスが攻撃の要になっているのが見てとれる。オフェンスチームのエース、そういっても過言ではないだろう。
高津佐とアメフトの出会いは、7つ離れた兄、隼矢(しゅんや)がきっかけだった。
「兄貴がプレーする姿がカッコよくて、最初はフラッグフットボールから始めました。本格的には高校からです」
後に法政オレンジでもプレーした兄のポジションは、ワイドレシーバー。弟に与えた影響は大きい。その兄は現在も、実業団チームでプレーしている。
「兄貴は魅せるプレーが得意で、華があるんですよ。それに負けないようにしたいです」
高津佐は、全国の強豪・佼成学園に進むと、兄の後を追うようにワイドレシーバーとして躍動。全国大会決勝、通称クリスマスボウルの舞台に立った。
「アメフトの面白さは、一対一のかけ引きや、戦術などの頭を使うことにあると思います。激しいスポーツに見えて、実は奥が深いっていうのが楽しいんですよね」
兄と同じ法政オレンジで、日本一に――学生最後の大舞台を前に、調整のはずの練習が熱を帯びていく。
ふと、その熱く強い思いの源が気になった。高津佐にそれを聞くと、当たり前のように答えてくれる。
「勝利は僕のためだけのものじゃないのは当然で、選手たちだけのものでもないんです」
では誰のもの? 実は、法政オレンジには170名もの部員が在籍しているが、その中には[学生スタッフ]と呼ばれる、選手ではない部員が多く含まれているのだ。
彼らの存在なくして、チームの勝利も、高津佐の夢も実現することはないのだという。
練習後、アメフト部施設のマネージャー室を訪ねると、そこでは25名の学生スタッフが忙しく働いていた。
マネージャーの一人、3年生の久富理子が、その役割を教えてくれる。
「(マネージャー業務は)マネジメントとマーケティングの大きく2つに分かれていて、マーケティングというのがいわゆる会社でいう[広報]。(運営の)お金を集める活動や集客活動を通して、チームを中から盛り上げています」
同じく3年生マネージャー・宮島凛の役割は、物販。
「主にチームグッズを担当していて、これも今年作ったんですよ」
自分が着る、法政オレンジのロゴ入りトレーナーをアピールしてくる。
「たくさんの人に試合を楽しんでもらうためのものでもあるので、やりがいがあります」
次に訪ねたのは、チーム戦術や練習内容に関わるSA室。SAとはスチューデント アシスタントの略だと、3年生の岡田健佑が教えてくれた。
「他のスタッフに比べて、SAは戦術面でチームに関われるので、アメフトの深いところで4年間を過ごせるんです」
彼は大学に入ってからアメフトを知り、学び、今では選手たちからの信頼も絶大だ。
そんな様子に目を細めるのは、法政オレンジ・矢澤正治監督。
「できるだけ(学生に)任せるけれど、責任は私がとる。そういうことですね」
そして、ケア室。選手のヒザにテーピングを施していたのは、4年生トレーナーの村田悠華(ゆか)。彼女は専門知識ゼロから学び始め、今では栄養面までケアしているという。
傍らでは1年生トレーナーの山口紗依が、選手の脳震盪の有無をチェックしていた。
こうして日々、選手の活躍を支え、チームの勝利を支える学生スタッフたち。
矢澤監督は、法政オレンジそのものが、170名の全部員が主役の[成長の場]だと断言する。
「社会で活躍できる人材の育成が、部の圧倒的な目的です。アメリカンフットボールという競技を通じて、それを達成する。間違いなく、勝つよりも重要なものが目的です」
マーケティング担当マネージャーの木戸碧人、そして金子哲宏がモニターに映る画像に目を凝らしている。立命館との戦いに向けた、SNS用の動画を作成しているのだ。
試合当日ギリギリまで作業した力作は、アマチュアの域を超え、一個の作品として輝きを放つ。それは選手を鼓舞するだけではなく、観戦への期待を膨らませるに十分だった。
それぞれが、それぞれの仕事をまっとうすることで成長を遂げる、法政オレンジ。彼らの願いはひとつ。最重要ではないといわれても[チームの勝利]に懸けている。
全日本大学アメリカンフットボール選手権大会、準々決勝当日。
神戸総合運動公園ユニバー記念競技場の控え室では、法政オレンジがチーム一丸で戦いの準備を進めている。
高津佐は一人、静かにその時を待つ。準々決勝の立命館パンサーズ戦。彼にとっては、特別な相手だ。
「去年は(甲子園ボウル)決勝で負けていますし、高校時代のクリスマスボウル(全国大会決勝)は2度、立命館の附属高校に負けているんですよ」
因縁の相手にリベンジを果たす、最後のチャンス。マネージャーの川﨑心が評する『アメフト大好きがにじみ出ている人』の朗らかな姿は、この時ばかりは封印されていた。
法政オレンジのキックで、熱き戦いが火蓋を切った。

タッチダウンを奪い合い、互いに持てる力を出し尽くす。
だが、勝負の女神が微笑みかけたのは……、立命館パンサーズ。
次第に点差が開いていく中で、高津佐は幾度も難しい角度や長い距離のパスをキャッチしながら、必死に突破口を探る。
そして試合終盤。一本の決定的なパスが、高津佐へと伸びる。
彼の指からボールがこぼれ落ち、学生最後の戦いは、終わりを告げた……。
立命館パンサーズ42、法政オレンジ22。
試合後、高津佐は人目も憚らず号泣する。自分はもちろん、全員の夢を頂点に押し上げることができなかった。だが、それはきっと、明日の糧になる。
「一日一日を大切にやって来たので、それがあるからこそ、学生アメフトに悔いはありませんし、学生アメフトを通して学んだことが宝物になっています」
控え室でのラストミーティング。高津佐が全員の前に立つ。
「今年のメンバーは一緒にやっていて楽しくて……。俺はそれがあったから、本当に楽しい学生フットボールができたと思っています」
思いは一緒。高津佐の代弁に、青春をアメリカンフットボールに懸け、成長を遂げた、みんなの目が潤む。
全員と固い握手を交わした高津佐は、卒業後も実業団でプレーを続ける。
「フットボールでも、人としても、もっと上を目指していきたいです」
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