
コートに鳴り響くビート、アリーナを揺らす歓声、そして試合の名シーンとともに記憶される数々の楽曲。
NBAというリーグを語るとき、音楽は単なるBGMではない。元々音のないコートに音楽が生まれるというリーグの歴史や、その後ストリートやファッションにも影響を与えたカルチャー等々と深く結びつき、時代ごとの空気を映し出してきた重要な要素だ。
本シリーズ「音楽から見るNBA」では、ヒップホップをはじめとする音楽とNBAの関係を、歴史やカルチャーの視点から掘り下げてきた。本稿ではその総集編として、これまでの内容を振り返りながら、NBAを象徴する“名曲”とともにリーグの歩みを改めてたどっていく。
同企画vol.2:
アリーナDJの登場とNBAの"異端児"アレン・アイバーソン。NBAと音楽が共鳴した2000年代【-音楽から見るNBA vol.2-】
同企画vol.4:
NBAは“聴く”時代へ。ラッパーになる選手たちの系譜|Dame、Lonzo、Shaq【-音楽から見るNBA vol.4-】
NBAと音楽の40年。シリーズで読み解いてきた関係性
スポーツと音楽は、長いあいだ同じ空間を共有してきた。スタジアムで流れるBGMや試合のハイライトを彩る楽曲は、観客の熱狂を高める重要な要素の一つだ。しかし、その関係がここまで深く結びついたリーグは多くない。NBAは、その数少ない例外と言えるだろう。まして、バスケットボールという競技は元々白人の上流階級が「静かに」観戦する文化であり、音楽をかけるという現代とはかけ離れている観戦文化だったのだから、まさしくスポーツと音楽を掛け合わせたパイオニア的な競技と言って過言ではないだろう。
本シリーズ「音楽から見るNBA」のvol.1では、テレビ中継やアリーナ演出を起点に、NBAと音楽の関係がどのように発展してきたのかを整理した。続くvol.2では、ヒップホップカルチャーの広がりとともに、選手やリーグのイメージがどのように変化していったのかを取り上げている。
さらにvol.3・vol.4では、アーティストとNBAの関係や、音楽がリーグのブランド戦略として機能してきた側面にも目を向けた。音楽は単なる演出ではなく、NBAの世界観を形作る重要な要素として発展してきたのである。
こうして振り返ると、NBAと音楽の関係は単なるBGMの話ではない。リーグの歴史やカルチャーを理解するうえで欠かすことのできない要素であり、時代ごとのNBAの姿を映し出す「音」でもあるのだ。
では、その歴史の中でNBAを象徴する“音”とは何だったのか。次章では、NBAを彩ってきた名曲10選を紹介したい。
NBAを彩る名曲10
NBAの歴史には、プレーとともに記憶される“音”がある。
テレビ中継のテーマ曲、アリーナを揺らすアンセム、そしてスター選手たちとともに広がったヒップホップの楽曲。それらは単なるBGMではなく、リーグの時代を象徴する存在でもあった。
ここでは、NBAのカルチャーを語るうえで欠かせない楽曲を筆者の独断で10曲ピックアップし、それぞれがリーグの歴史の中でどのような意味を持ってきたのかを振り返っていく。
[1] kurtis blow「basketball」(1984)
ヒップホップ史上初めて本格的にバスケットボールをテーマにした楽曲。歌詞にはジュリアス・アービングやマジック・ジョンソンなど当時のスターが登場する。アリーナの演出やハイライト映像などでも使われてきた、NBAとヒップホップの関係を象徴する楽曲の一つであり、今もあらゆる会場で流れている代表曲だ。
バスケットボールという競技への愛をテーマにされた曲ということもあり。初期の代表的なスポーツ・アンセムとしても名高い。
[2] John Tesh「Roundball Rock」(1990)
アメリカの3大放送ネットワークの1つ「NBC Sports」のNBA中継テーマとして1990年代に使用された楽曲。この曲は作曲家でテレビ司会者のジョシュ・テッシュが制作したことでも話題になった。試合開始前やハイライト映像の定番として流れ、当時のファンにとっては“NBAの音”そのものとも言える存在となった。
現在でもNBA関連の特集映像などで象徴的に使用されることが多く、試合前には必ずと言って良いほど今も流れている曲だ。
[3] The Alan Parsons Project「Sirius」(1982)
シカゴ・ブルズが選手紹介の入場曲として使用したことでも有名。特にマイケル・ジョーダン時代のブルズ王朝を象徴する音楽として知られる。現在でもブルズのホームゲームでは伝統的に使用され、NBA史上もっとも有名な入場曲の一つとなっている。
また、この曲はイギリスのプログレッシブ・ロック・バンド「The Alan Parsons Project」によるものである。イギリスのバンドというインバウンドのアーティストをジョーダンが有名にしたとも言われており、また曲が良いと評価も高いために、バスケ以外でもさまざまな競技で使われているほどの広がりも見せている。
[4] Tag Team「Whoomp! (There It Is)」(1993)
1990年代のアリーナ文化を象徴するヒット曲。タイムアウトや観客参加型の演出で頻繁に使用され、NBAを含むアメリカのスポーツ会場で広く定着した。観客のコール&レスポンスを誘う楽曲として、現在でもアリーナ演出で使用されることがある。
また、アトランタ発のパーティー・アンセムとして世界的にヒットし、1990年代のクラブ文化とサウス系ヒップホップの象徴的楽曲の一つとなった。
[5] 2 Unlimited「Get Ready for This」(1991)
オランダのユーロダンスデュオ「2 Unlimited」の楽曲であり、1991年にデビュー・シングルとして発表され、ユーロダンスの黎明期を代表する作品。
NBAを含むスポーツ会場で定番となったダンスミュージックで、タイムアウトやプレー再開前など、観客のボルテージを上げる演出で多くのアリーナが使用している。1990年代以降のスポーツエンターテインメント演出を象徴する一曲と言える。
[6] Archie Eversole「We Ready」(2002)
アメリカのラッパーArchie Eversoleが2002年に発表し、アルバム『Ride Wit Me Dirty South Style』に収録されている楽曲。試合前のウォームアップやプレーオフの演出で使用されることが多い楽曲。シンプルなフックが観客の合唱を生みやすく、NBAを含む多くのスポーツイベントで定番曲となった。試合前の選手紹介などで流れることもある。
[7] kanye west「All of the Lights」(2010)
世界的に有名なラッパー兼プロデューサーであるkanye westの楽曲。この曲は豪華なゲストボーカル陣と壮大なアレンジメントで知られ、ヒップホップとポップを融合させた代表的作品。自身のアルバムアルバム『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』に収録されている。
NBAのプレーオフやハイライト映像などで使用されることがあり、重厚なサウンドが大舞台の演出と相性が良いことで、アリーナでもソーシャルメディアでもしばしば使われる曲だ。
[8] Drake「Forever」(2009)
カナダのラッパーDrakeが2009年に発表したヒップホップ楽曲で、Kanye West、Lil Wayne、Eminemが参加した豪華コラボレーションとして知られる。また、この曲はNBAのスーパースターであるレブロン・ジェームズの高校時代にフォーカスしたNBA公式ドキュメンタリー映画『More Than a Game』の主題歌であり、同映画のサウンドトラックに収録されている。
[9] Drake「Started From The Bottom」(2013)
「Forever」に続きドレイクの楽曲。NBA選手のウォームアップやハイライト映像で使用されることが多い楽曲。そもそもドレイクはトロント・ラプターズのグローバルアンバサダーを務めており、NBAとヒップホップの結びつきを象徴する人物の一人でもある。
この曲は2013年にリリースされたヒップホップ楽曲で、彼の3作目のスタジオアルバム『Nothing Was the Same』のリードシングル。自身の成功の軌跡を描いたこの曲は、ミニマルなトラップビートと反復的なフックで広く知られ、努力と自己証明の象徴として文化的に大きな影響を与えた。
[10] Kendrick Lamar「HUMBLE.」(2017)
アメリカのラッパーKendrick Lamarが2017年に発表した楽曲で、アルバム『DAMN.』に収録されている。社会的メッセージと自信に満ちたリリック、ミニマルなビートが融合した、ケンドリック・ラマー自身にとっても代表作のひとつとされている。この曲でグラミー賞も受賞した。
NBAのハイライト映像やプレーオフ関連のプロモーションで使用されることがあり、近年のリーグとヒップホップの結びつきを象徴する楽曲の一つとなっている。
NBAと音楽が作ったカルチャー
NBAは、単なるスポーツリーグではない。音楽、ファッション、ストリートカルチャーなど、さまざまな文化と交差しながら独自の世界観を築いてきたリーグでもある。
その象徴の一つが音楽だ。アリーナに流れる楽曲、テレビ中継を彩るテーマソング、ハイライト映像を盛り上げるヒップホップ。試合そのものとは直接関係がないはずの“音”は、いつしかNBAというエンターテインメントを構成する重要な要素となっていった。
実際、多くのアーティストがNBAをテーマに楽曲を制作し、また多くの選手が音楽カルチャーの影響を受けながら自己表現を行ってきた。アリーナで流れる一曲は、試合の空気を変えるだけでなく、その時代のNBAを象徴する“記憶の音”にもなる。
本シリーズでは、音楽という切り口からNBAを見つめ直してきた。そこから浮かび上がったのは、NBAがスポーツリーグであると同時に、文化を発信するプラットフォームでもあるという姿だ。バスケットボールのプレーだけでは語り尽くせないものが、NBAにはある。アリーナに響く音楽もまた、その物語の一部なのだ。
同企画vol.2:
アリーナDJの登場とNBAの"異端児"アレン・アイバーソン。NBAと音楽が共鳴した2000年代【-音楽から見るNBA vol.2-】
同企画vol.4:
NBAは“聴く”時代へ。ラッパーになる選手たちの系譜|Dame、Lonzo、Shaq【-音楽から見るNBA vol.4-】
【参考】
https://www.cnbc.com/2024/04/30/nbc-could-buy-back-roundball-rock-rights-if-it-gets-nba-games-john-tesh-says.html
Follow @ssn_supersports




