アジア人で女性DJという”マイノリティ”だからできることとは?高井智華が、アメリカで自分の理想を描くまで【後編】

『NBA ALL-STAR』

「オールスター」の言葉通り、選ばれし人しか参加ができない大会である。
ドリブルやパスが得意な人、ダンクで魅せる人、また、当然ながら競技力の高い選手たちによる試合など、様々なコンテンツで彩られる。このオールスターは日本時間2月13日(金)〜15日(日)の3日間にかけて行われるが、通常の試合とはまた一味違った楽しみ方で、ある種の”ショー”のようにバスケ観戦を楽しめるのが特徴である。

ちなみにあなたは、このオールスターは、選手以外も”オールスター”であることをご存じだろうか。ダンサーもMCもDJも全て、シーズンで素晴らしいパフォーマンスをしている人だけが選抜され、この場所でパフォーマンスを披露できる。

『高井智華(CHIKA TAKAI)』

なぜ彼女は2回もオールスターに選出されたのか。そしてなぜ今も輝き続けられるのか。そのルーツやアメリカのリアルを聞く。後編では、オールスターの裏側や彼女が描く未来について。

前回記事:
ビビりで英語力ゼロだった私でも、”2度目”のオールスターに。今度はDJとしてNBA ALL-STARに向かう高井智華のリアル【前編】

NBA ALL-STARへの選出方法とは?

__紆余曲折、アメリカでも色々な苦労があったとは思いますが、それでも今度はDJとしてオールスターの舞台に立つ。これってオーディションとかで決まるんですか?「オールスターでDJやりたい人?」って聞かれて、手を挙げたらできるわけじゃないですよね。

高井:NBAに対して、全チームがプレゼンするんですよ。「ウチにはこんなタレントがいますよ」って。DJであれば、NBAの1チーム当たり(チームによっても異なるが)大体5人くらいいて、私もその中の1人としてホークスがNBAにプレゼンしてくれたって形です。そしてその全チームの候補者からNBAが選出する形でした。だから、その中から選んでもらって本当にビックリしました。でも凄くやりたかったことだったので、嬉しい気持ちも強いです。

__ホークスから「こういう理由で選ばれたんだよ」みたいなフィードバックはあったんですか?

高井:いや、特になかったですね。でもこれは私の予想ですけど、今NBA自体がどんどんインターナショナルになっていますよね。NBA JAPANも勢いを増してきていることですし。もちろん、ジャパンの話だけではなく、実際に韓国のボーイズグループの『CORTIS』が今回ALL-STARでもパフォーマンスすることが決まっていたり、NBAのセレブリティ・インフルエンサープログラム「Friends of the NBA」が、アジアを中心にNBAを更に盛り上げようと動いていたり。アメリカ国内だけではなく国外・海外に響くようにってやっている流れの中で、仰っていただいたように私みたいな踊りながらDJをやる特徴的(?)なスタイルとか、女性DJとかっていうのも選出理由にはあると思います。スポーツも音楽も、DJとして生きている人は男性がメインなので、女性DJなんて本当に数人しかいませんから。

__じゃあ高井さんはNBAにとって非常に貴重な人材なわけですね。

高井:私としては、やっぱりオールスターという舞台に選んでもらうことによって「女性だから」とか「アジア系のマイノリティ」だからとかっていう、ステレオタイプ(先入観)を壊したいって思っているんです。それこそ最近移民に関しても問題になっていますが、移民だからと言って諦めてしまうのは凄く勿体無いなって思うんです。「可能性は無限大にあるんだよ」っていうことを、私のようなマイノリティが大きな舞台に立つことによって届けられるのは、本当に嬉しいことなんです。

だから、ありがたい機会をいただいたなって思っていて。マイノリティだから選んでもらえたとは思っていませんが、発信できる場に立つことができて、多くの人たちに勇気とか希望とかを受け取ってもらえたらなって思うんです。

ホークスのホームアリーナでDJするシーン

アメリカで成熟していった、自分の考え方

__「人に勇気を与えたい」とか「何か影響力のある人間になりたい」って思い始めたのは、いつ頃からなんですか?最初は「パフォーマンスしたい」が全てだったのかなと思ったりして。

高井:あんまり考えたことはなかったですけど、確かに最初の方は、自分の中でパフォーマンスすることの楽しみとか満足感があったと思うんです。だけど、私がパフォーマンスをした時の周りの反応、笑顔になってくれる人や、心を動かされている様子を見ているうちに、自分が与えているインパクトを目にしていくうちに、「これは自分だけのことではないな」って思っていったんですよね。

あとは、本当に自分でも想像していなかった場所に今いることを凄く実感していて。この場所にいられるのは自分の力だけではないって強く思っているんです。支えてくれる人、応援してくれる人、待っていてくれる人とか。だから今回のオールスター就任も、私だけの成功ではなくて、周りの人たちも含めた成功だと思っているんです。

__素敵ですね。おそらく、高井さんはそれらを言葉にして本当に周りに伝えているから、そうなっているんだと思います。

高井:やっぱり応援してくれる人がいるから「もっと上に行かなきゃ」ではないですけど、成長したいって思うんです。私がもっと大きなステージでパフォーマンスしたら、もっと喜んでくれて、元気になってくれるんじゃないかなとか。「CHIKAみたいになりたい」って思って、言ってくれる方がいるだけで、そう思わせてくれる。だからアトランタ・ホークスのホームゲームだけでは止まれなくて、これからもいろんな場所で挑戦したいなって思うんです。

ホークスのホームゲーム以外でもさまざまな場所で活動を続ける

女性実業家としての側面

__元々ビビりだった人とは思えませんね(笑)。本当にビビりだったら、大舞台に立つことさえ緊張して怖くなってしまうでしょうから。

高井:今でもビビることはありますけど、自分の道を見返した時に「ビビって諦めなくてよかった」と実感することのほうが多いんです。あの時、留学を3ヶ月にしなくてよかったな、とか。ちゃんとした理由があって「3ヶ月」なら別の話ですが、私がただのビビりだから「とりあえず3ヶ月にする」っていう選択は、本当にしなくてよかったなって思うんです。だから思い切って飛び込んだ方が後悔しないなって思って、今も迷ったときは選択をしていますね。

__挑戦の話でいえば、実業家としての側面もありますよね。

高井:今は『Experiential Global』という会社をやっています。日本とアメリカのどちらにもあるんですが、これは日本でできる経験をアメリカに、アメリカでできる経験を日本に持ちこむっていうことを、例えばイベントを通して実施する、といった内容です。例えば、私のDJもその1つです。アメリカの音楽を日本でやるとか。他にも、NBA JAPANと手を組んで、NBAのカルチャーを日本に持ってきてイベントをやろうとしていたりですとか。

あとアメリカではNPO法人『Global Experience』として、女性に特化したプロジェクトで、留学をはじめ海外で活躍したい女性や若い子たちのフォローアップをしています。ネットワークを広げたい子達に、インターンシップの機会を提供したり、企業ツアーの提供をしたりとかをしていますね。例えば「アメリカで、スポーツ業界で働いてみたい」って思っている人がいたとしたら、アメリカのスポーツ業界のいろんな話をしてあげたり、考え方とかリアルなところを伝えてあげられたりとか。2014年からアメリカに住んでいるので、そういうところで具体的に何か助けてあげられたら良いなと思って、NPOを立ち上げたんです。今このNPOは日本人向けですけど、アメリカから日本っていう領域とか、音楽やスポーツ業界以外のフィールドでもできないかって、今動いているところですね。

__とても素敵で素晴らしい話だからこそ、一見すると順風満帆にも見えるんですが、逆境とかはなかったんですか?

高井:ステレオタイプには思われやすいですよ。本当に良くも悪くもアジア人の女性ってだけで目立つので。やることやっていれば良い意味で目立つと思うのですが、悪い意味で目立つのは、女性DJっていう外側だけを見て「本当にあなたがDJで大丈夫なの?オーディエンス楽しませられるの?」みたいなことはよくあります。本当に言われたことはないですけど、やっぱり感じるじゃないですか。

そういう視線を感じても、全然気にしないです。自信があるので(笑)。あとは良くも悪くも、アジア人ってアメリカだとニュートラルなんですよ。極端な例ですけど、肌の色や人種といった属性で「こういうトラックかけそうだな」とか、そう思われることはないです。ただアジア人の女性のDJってだけ。だからある意味、どんな場所でもどんな客層にもヒットしやすくて、ウケやすいって言うのは、私がDJをやってから気づいたことですね。挑戦していなかったら、気づきもしなかったと思う。

自身の経験を女性や次世代へ繋ぐための活動も全力で取り組む

アジア人女性初のオールスターDJが描く未来

__高井さんはきっと、NBAのオールスターDJをやることがゴールではないですよね?今後の目標についても聞かせてください。

高井:今やっていることに加えて、日本にもっともっと力を入れていきたいって言うのもあります。アメリカでどんどん大きいステージに立っていくのも目標の1つではありますが、それを日本に持ってきたい。持ってくるだけではなくて、持ってきてみんなと作り上げられたら良いなって思っています。日本のアーティストをアメリカに、アメリカのアーティストを日本に持ってこれたらなとか。もっと日本とアメリカの架け橋になれたら良いなって言うのは、最近強く思ったりしています。

あとはやっぱり、もっと大きいステージに行って多くの人に影響を与えられる人になりたいですね。エンターテイナーとしてどんどん大きくなりたい。他にも繰り返しになってしまいますが、女性や次世代の方々に対して、私の経験を含めていろんな手助けをしていきたいって思っています。

__本当にバイタリティが凄いですね。

高井:今しかできないじゃないですか。やれる時にやり切りたい。タイミングって、本当に重要だと思うので。昔の私みたいに、チャレンジすることに躊躇している人の背中を押せる人になりたい。「目標にしてほしい」なんてエゴじゃなくて、一歩踏み出すことで見える景色が広がることを知ってもらうために、「まずは私がチャレンジしたい」って思っているんです。だからこれからも多くのことに挑戦していきたいですね。