八村塁、河村勇輝…… 日本人NBA選手の影響力 -ビジネスとして見るNBA vol.6 -

2025-26シーズン現在、NBAに在籍している日本人選手は2人。八村塁(ロサンゼルス・レイカーズ)と河村勇輝(シカゴ・ブルズ(2WAY契約))である。昨年、ブルックリン・ネッツから千葉ジェッツに移籍した渡邊雄太や、今年レバンガ北海道入りをした富永啓生など昨今NBAに挑戦する日本人選手は、日本だけではなく海外でも話題になっている。
今回は、日本人NBA選手が与えた経済効果について紹介する。とはいえNBAはユニフォームの売上などは公開していないため、話題になったことや彼らの存在から起きたビジネス側面の出来事について紹介していこうと思う。

前回記事:
赤字だけど決して欠かせない。NBAのサブコンテンツとは -ビジネスとして見るNBA vol.5 -

個人スポンサー

まず現時点で確認できる、彼らの個人スポンサーを一覧として紹介したい。過去の個人スポンサーや、例えばテレビCMなども含めると非常に膨大な量になるため、一覧の後に一部付け加える形で紹介したいと思う。

八村塁 カシオ(G-SHOCK)、ジョーダン・ブランド
河村勇輝 TISSOT、アシックス、JAL
富永啓生 カリーブランド

八村がジョーダンファミリーの一員になったのは、2019年のNBAドラフトで指名された直後である。その頃に発売された「ジョーダン34」では彼のコラボレーションシューズが販売された。以降もシグネチャーモデルは発売されていないが、八村コラボのシューズが時折販売されては日本で話題になる。
もう一つはG-SHOCK。2020年9月に発売された「DW-5600RH-1JR」から、八村のシグネチャーウォッチが現在も継続的に行われている。直近も2025年9月に第5弾となる「GM-5600RH-1JR」が発売された。

河村については、まず日本にいる2021年3月にアシックスジャパンとアドバイザリー契約を結び、商品のアドバイスや製品の宣伝や販売などを行っている。また、河村に関してはアシックスで自身がデザインコンセプトを企画したバッシュ「UNPRE ARS LOW 2 RT」を販売。スペシャルエディションとして非常に高い人気を誇っている。また、これはそもそも「UNPRE ARS LOW 2」を河村が長く愛用してきたことから実現した企画である。
彼の影響もあってか「UNPRE ARS LOW 2」を選ぶバスケ選手は非常に多い。

NBAのオフィシャルタイムキーパーとして、ゲームクロックやショットクロックの公式記録の計測を担当している、スイスの老舗時計ブランドの「ティソ(TISSOT)」と河村は、2024年からティソの日本市場のアンバサダー契約を結んでいる。
アンバサダー契約をしてからは、ティソの日本市場におけるプロモーションや広報活動、CM撮影、トークショーへの参加、交流会の実施など多方面に活躍を続けている。

また、河村はJALとサポート契約を結んでいる。彼のアメリカ挑戦を支援するための契約内容である。JALは、河村のような日本人アスリートが世界の舞台で活躍することを応援しており、その支援によって日本の文化の発展や国際交流を促そうと考えている。その目的の達成に向けて河村というアイコンを活用することが、両者のブランド価値を上げていこうという狙いだ。
ちなみに、具体的に「サポート契約」とは、JALと河村の場合は渡航費や滞在費などの活動費用の支援や、JALにおける広報・PR活動への協力、航空便サポートなどが内容としてはある。今年はシカゴ・ブルズで2WAY契約となった河村にとって、このサポート契約は非常に実用的でありがたいものとなるはずだ。

最後に、昨年までインディアナ・ペイサーズのGリーグチーム「インディアナ・マッドアンツ」に所属し、今年からBリーグ「レバンガ北海道」に移籍した富永啓生は、アジア人として初となる「カリーブランド」とパートナーシップ契約を結んでいる。
ゴールデンステイト・ウォリアーズのスーパースターであるステフェン・カリーのシグネチャーブランドであるが、世界で4人しかいない契約選手の中の一人として富永の存在がある。契約は2024年に発表されているが、シューズやアパレル、アクセサリーなどの提供を富永は受けており、日本のマーケットにおけるカリーブランドの普及に努めている。
また、八村や河村同様に、富永のスペシャルエディションとして「Curry 12 SAKURA」というモデルが販売されたことも話題になった。

 

ユニフォーム

次にわかりやすいところで、ユニフォームの売上について。
2024シーズンは特に、河村勇輝が試合でもグッズでもインパクトを残した結果になった。

上記は2025年2月にNBA JAPANが発表したNBAジャージー&チームアイテム日本の売上ランキング。選手部門で河村は1位を獲得した。日本の売上ランキングではあるものの、スーパースターたちを抑えて頂点にたったことは、河村のNBA入りのインパクトの大きさを象徴しているとも言えるだろう。
ただし、NBAをはじめとする各メディアにおいても、具体的な売上枚数や総売上などは公表されていない。とはいえ以下、想定できる数字で概算をまとめてみる。

前提:

レプリカジャージ 16,500円〜19,800円ほど
ナンバーTシャツなど 5,000円〜12,980円ほど

NBAストアで販売されているユニフォームやTシャツをOEMで製造しているのはFanatics。Fanaticsのロットは基本的に数百から数千の単位である。河村勇輝のグッズは、ジャージもTシャツも複数回再入荷していることが確認できるため、低く見積もっても数千枚の規模で販売されているだろう。
当然ながら、NBAストア以外でも河村グッズは購入することができる。Amazonや楽天などの国内大手ECサイトをはじめ、スポーツ小売店舗などなど。複数のショップで取り扱いが行われていることからも、NBAストア以外も含めると、数千枚規模に加えて、同じかそれ以上が上乗せされると考えて良いだろう。
松竹梅でシミュレーションすると、売上は以下の通り。(※平均単価は10,000円と仮で設定)

1,000枚の販売 1,000枚x10,000円=1,000万円
5,000枚の販売 5,000枚x10,000円=5,000万円
10,000枚の販売 10,000枚x10,000円=1億円
50,000枚の販売 50,000枚x10,000円=5億円

再入荷の回数の多さや、日本の売上ランキング1位を獲得していたことを鑑みると、少なくとも1,000万円単位ではなく億単位まで売上が伸びていると予想できる。そうなれば1万枚以上・億単位の売上を一人の日本人選手が作っていることになる。

また、八村の売上の波は2つあった。
2019年:ドラフト指名時:ワシントン・ウィザーズの8番
2023年:初の移籍時:ロサンゼルス・レイカーズの28番

ドラフトからNBA入りした日本人初の選手として注目され続けている八村は、ウィザーズに全体9位で指名された際、販売直後に「8」のユニフォームは即完した。それだけ国内外のファンが待ち侘びていた証拠である。その後も日本人初のドラフト指名を受けたNBA選手というレガシーを讃えるため、ワシントンの赤と青のユニフォームの「8」は売れ続けた。

ビッグウェーブの2回目は、レイカーズへの移籍が決定した2023年。この時は八村が何番を背負うのかに注目が集まっていた。八村は自身の苗字から「8」を背番号として選択し続けていたが、レイカーズにとって「8」は、亡くなったコービー・ブライアントが着用していた永久欠番。よって、八村はレイカーズで「8」をつけることができないことがわかっていたからだ。

最終的に八村は「28」を選択したが、これは自分のアイデンティティとコービーへのリスペクトも含めて「8」と、コービーの娘・ジジが着用していた「2」を合わせて「28」にしたという話もあり、彼の誕生日が「2月8日」だから、といった話もある。
さまざまな意味が込められた「28」という番号に対してバスケファンは非常に好印象を持った。またNBAにとってレイカーズは、非常に歴史があるチームで多くのスターを輩出し商業的価値も非常に高いフラッグシップのチームである。この伝統的なチームに八村が加わることを讃えてジャージをかった人も少なくない。そのようにして、八村アパレルが現在も売れ続けている。

伝説の「ワタンベ」ジャージ

NBAストアでは上記の通り、ほとんど全ての選手のレプリカジャージーが販売されており、もし日本で買えない場合でも海外から取り寄せることができる。ただ、日本のマーケットにおいては日本人選手は「必ず」買える状態である。
そんな中で話題になったのは、2023年シーズンに起きた「ワタンベ」ジャージ事件である。
現在千葉ジェッツに所属する渡邊雄太が、当時ブルックリン・ネッツに所属していた頃の話で、ストアから販売されていたジャージーの名前が「WATANBE」となっており「N」の後に「A」が入っていなかったのである。この誤字が3ヶ月ほど修正されずに痺れを切らした本人が以下の投稿をしていたが、結論すべてのジャージーの誤字を修正対応する形で方針が打ち出された。ただし、この「WATANBE」があまりに珍しい事故であるということで、記念にとっておいている方も少なくなんだとか。

その他、経済的インパクト

BLACK SAMURAI 2025 THE CAMP

2025年8月18日(月)〜20日(水)の3日間にわたって開催された、八村塁主催の、世界を目指す中高生向けのトレーニングキャンプ。事前選考によって選ばれた約150名が参加できる特別プログラムが組まれたショーケースが、名古屋のIGアリーナのこけら落としに合わせて開催された。参加する子どもたちは3日間で50,000円(税別)の参加費を払って参加するため、単純計算で750万円の収入になる。
また最終日の8月20日(水)のみ、一般の方の観覧もできる有料チケットが販売されていたが、VVVIPベンチ横の席が最も高額で15万円。コートエンド1列目の最低販売価格が14,100円だったことからも、今回のキャンプの価値が想像できる。
写真やSNSなどの情報を見る限り、チケットは8割近く売れていたと予想できる。今回のキャンプの目的は中高生向けのクリニックであったとはいえ、一般の方も多くが「一目で良いから八村を見たい!」とIGアリーナに集まった結果だろう。

ちなみに、IGアリーナの一般利用料は平日82.5万円/日。3日間で247.5万円のため、主催者サイドとしてはグッズ収入で多少売れ残りがあったとしても黒字だろう。ちなみにグッズはほぼ完売していた。