常設スケートリンクは何日でバスケットボールコートに変わるのか【第2回】

写真:バスケットボールコートからスケートリンクへと転換/提供:ゼビオアリーナ仙台

第1回で、ゼビオアリーナ仙台が仙台市への「負担付き寄付」というユニークなスキームに移行した背景を探った。

続く第2回(全3回)では、常設スケートリンクから、B1リーグ所属「仙台89ERS」のホームアリーナ・客席数5,000席超のバスケットボールコートへと姿を変える、その驚くべき転換技術の秘密を深掘りする。

多機能性を極めるこのアリーナが、いかにしてスポーツとエンターテインメントの新たな可能性を切り拓くか、その「ハード」面の工夫と運用効率に迫る。


▶ゼビオが仙台市にゼビオアリーナを寄付した理由とは【第1回】

フェンスがあると展開に+1日かかる

──常設スケートリンクにフェンスがないのは国内でも稀だと伺いました。

小池:そうですね、海外のフィギュアスケート専用リンクなどではありますが、国内ではおそらく例がないのではと思います。

──なぜ、そうしたのでしょう。

小池:私たちは今回の改修を“常設スケートリンクを作った”というより“多目的アリーナとしての機能を拡充した”と捉えています。

Bリーグの試合やコンサートなどのエンタテインメントの催事、就活イベントや運動会、卒業式なども想定しています。

その場合に、フェンスがあると転換に1日余計に伸びてしまうんですよ。そこは機会損失になると判断しました。

──そんなにフェンスの設営・撤去って大変なんですね。

小池:そうですね。

入社間もない頃、海外に研修に行かせていただいたんですが、海外ではアリーナも広いので大型車両を入れて、フェンス専門のスタッフがガチャンガチャンと素早く作業できる施設もありました。

ただ、私たちの国内のアリーナではそのスペースもないので、いったんフェンスは無しにしようと。後から仮設でフェンスは設置できる話なので。

海外では、フィギュアスケート専用のリンクではフェンスがない場合も多いですね。

カーリングにも向いているゼビオアリーナ仙台

──フェンスがないほうが、フィギュアスケートの観戦体験としては高まりそうですよね。

小池:おっしゃるとおりです。仙台市と“フィギュアスケート発祥の地”であることを大切にすることは合致していたので、ノーフェンスのリンクも合意できました。

その意味では、カーリングの開催なども面白いのでは、という話も出ています。

──なるほど。都市部でカーリングの大会開催規格を満たしたリンクが少ないと聞きます。

小池:これまで、地方のカーリング専用リンクで観客100〜200人の開催だったところ、今年の2月、横浜BUNTAIでカーリングの日本選手権が行われると、連日2,000席のチケットがソールドアウトになったと話題になりました。

私たちゼビオアリーナ仙台では、大型ビジョンがあったり、多目的アリーナとして見やすい環境なので、アリーナの特徴を活かせる競技の大会やイベントはこれから積極的に誘致していきたいですね。

多目的アリーナの稼働日数イメージとは

──2025年7月にリニューアルオープンして、スケートリンクとそれ以外の使用は、それぞれどれくらの稼働を想定しているのでしょうか。

小池:あくまで目安ですが、150日を興行、これはバスケットやコンサート、プロレスや就職イベントなども含みます。

あとはアイスショーとスケートリンクの時間貸しで150日くらい、これを目指していきたいと思っています。

イメージしやすい例で言えば、月・火・水でスケートリンクとして貸し出して、木曜に興行への転換、金、土、日は興行使用という感じです。

──え、すごいですね。1日でスケートリンクからアリーナに転換できるものですか。

小池:そうですね。実はいま、そのトレーニングを一生懸命やっています(笑)。国内実績が少ないので試行錯誤の最中ですが、転換も20パターンくらいあるので、最も作業が多い工程でも、8、9時間で完了したいと考えています。いま、営業しながらスキルや知識を身につけて、効率性を追求しているところです。

北米ではNBA試合翌日にNHL試合も

──そんなに素早くスケートリンクからアリーナに展開できるんですね。海外にモデルがあったりするんですか。

小池:そうですね、特に北米では、NBAとNHLを同じアリーナで行うこともあるので、当日NBAの試合を開催して、翌日NHLの試合をやっている例もあります。

──想像つかないですね。ゼビオアリーナでは、簡単に説明すると、どういう仕組なんですか。

小池:今回の改修で、従来の土間コンクリートを壊して1.8mほど掘り、そこに地盤改良をしてアイスリンクを凍らせる機能を備えました。

常設リンクで一番気をつけなければならないのが、冷気が下の土壌に行き渡り、土中の水分が凍って霜柱が立ち、床を隆起させてしまうことです。

それを防ぐために、土壌に触れるところには温かい不凍液、上には冷たい不凍液を流し、その間に断熱材を入れる構造にしています。そのミルフィーユのような構造の上に4cmの氷を作り、そしてその上に海外でも使用されている“アイスメイト”という、断熱効果の高いパネルを敷き詰めます。

それによって、耐荷重もあり、冷気を上に上げることもなく、その上を車両も走れます。スケートリンク使用の際はこれを外す、バスケットの場合はアイスメイトの上に木製フロアを設置する、コンサートのときは、アイスメイトの上にステージを組む、という仕組みです。

写真:アイスメイトを敷き詰めたフロア/提供:ゼビオアリーナ仙台

重要なパーツ“アイスメイト”

──アイスメイトが重要な役割を果たしてるんですね。そのパネルはどうやって設置するんですか。

小池:1枚40kgくらいあるので、近くまでフォークリフトで運んで、最後は人力でパズルのようにはめていきます。今まさにその作業時間が課題なんですけど、目標は4時間以内で完了したい思っています。

この方式の良いのは、アイスメイトを敷くと、その下は冷凍庫のように冷気が逃げない状態になるので、一般的にスケートリンク維持費を圧迫する光熱費の節約にも繋がります。

──なるほど。そうした知恵やノウハウは、やはりアリーナ先進国であるアメリカに学んだものなんですか。

小池: ええ、北米への事例は参考にしています。また、国内では「FLAT HACHINOHE」が先行事例としてあるのでそこからも学んでいます。仙台はより多目的に使用する傾向にあることからフロアの転換についてはより頻度が多く、かつ短時間で終了させる必要があることが特徴的なところですね。


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