ゼビオアリーナ仙台に聞く これからの地域アリーナ運営に必要なもの【第3回】

写真:こけら落とし公演の様子/提供:ゼビオアリーナ仙台

SmartSportsNewsが地域アリーナ運営の未来を探る「ゼビオアリーナ仙台に聞く」。

第1回、第2回では、仙台市への「負担付き寄付」というユニークな公民連携スキームや、常設アイスリンクと多目的アリーナをわずか8時間で転換させる運用について深掘りしてきた。


▶ゼビオが仙台市にゼビオアリーナを寄付した理由とは【第1回】
▶常設スケートリンクは何日でバスケットボールコートに変わるのか【第2回】

最終回となる第3回では、アリーナの「ハード」面の進化に加え、これからのアリーナ運営を支える「ソフト」の重要性、そしてゼビオアリーナ仙台が目指す中長期的なビジョンに迫る。

観客・選手・運営にとっての具体的な改善点、多様な催事誘致への挑戦、そして公民連携における運営の工夫とは何か。

カウンター付きの立ち見席も増設

──今回の大規模改修により、観客や選手にとっては、具体的にどのような点が改善されたのでしょうか。

小池: まず、最も大きな点の一つは、地元B.LEAGUEチームである仙台89ERSのホームアリーナとして、2年後のB.LEAGUE PREMIERの新しいアリーナ基準を満たしたことです。

この基準を満たすために、観客席を約650席増やしました。最近のスタジアムや野球場と同様に、カウンター付きの立ち見席も増設し、ビールなどを肘を置いて楽しめるようなスペースも設けています。これにより、Bプレミアの参入基準のひとつである5,000席以上の観客席を十二分に満たせる見込みです。

また、13年前の建設当初はまだ不安定だった高い天井に即したLED照明を導入し、演出の幅が大きく広がりました。また、B.LEAGUEの細かなレギュレーションに対応するため、トイレの数なども基準を満たすように改善しました。

13年前からロイヤルボックスを備えていた先進性

──VIPルームはどうですか。アリーナビジネスの収益化では必須だと思いますが。

小池: ロイヤルボックスに関しては、13年前のオープン当初から13部屋を設置し、部屋とバルコニーから観戦できる環境が整っていたため、今回の改修におけるコスト面でも有利に働きました。

──その当時からアリーナでロイヤルボックスを備えているのは先進的ですね。

小池: はい、開設当初は、そのハード面に関して、ゼネコンや自治体から多くの視察を受けてきました。近年は、今回の仙台市への「負担付き寄付」というユニークな取り組みに関心が集まり、運営面での視察も増えています。

──常設スケートリンクと、B.LEAGUEプレミアのホームアリーナが1つのアリーナに共存するという点も、非常に参考になる事例ですよね。

アリーナ運営はソフト勝負の時代に

小池: アリーナやスタジアムが各地で建設される中、当初は民間運営というだけで新しさがありましたが、今ではそうした施設が増えています。この競争の中では、運営面でいかにパイオニア的な存在になれるかが重要だと考えています。

ハード面、例えば設備やビジョンの大きさなどは日進月歩で進化していて、全てを追いかけることは困難です。そのため、今後は「ソフト」と呼べる運営のノウハウ、具体的にはセールス力、多様な催事を誘致できるノウハウ、そして営業力がより重要になると考えています。

我々自身も、単に施設を貸し出すだけでなく、コンテンツ(興行)を自ら企画・実施することにも注力しています。

スポーツイベントはもちろんのこと、現在は音楽エンターテインメントの企画・運営などにも挑戦しています。

アリーナでクラシックコンサートを

──アリーナで、クラシックコンサートですか。

小池: 今年で3回目となるクラシックコンサートでは、可動席のレイアウトを工夫することで、2,500~3,000席規模のコンサートホールのような空間を演出しています。通常見上げる形のステージに対して、コロシアム風に観客席で囲み、見下ろすレイアウトにして、アーティストとの距離を近づけるような見せ方も可能です。

専用のクラシックホールに音響面では敵いませんが、よりライトなニーズ、演奏形式には価値があると思います。将来的には、お笑いなどホールで行われるような催事も誘致できるようになるかもしれません。

──なるほど。柔軟な空間転換を強みにしつつ、多彩な催事を誘致できるよう、運営ノウハウや営業力を高めていくことが、フィギュアスケートやバスケット以外のアリーナを稼働させる重要な鍵になるんですね。

先進的な挑戦を次々と仕掛けるゼビオアリーナ仙台ですが、今後のアリーナ運営における中長期的なテーマについて教えてください。

小池: まずは、アイスリンクと多目的アリーナの転換作業や両方の使い方を頻繁に行うという、まだ前例が少ない取り組みをしっかりと定着させることです。

足元を固めつつ、仙台市の指定管理者となったことで、経済効果や賑わい創出といった視点も強く持つ必要があります。大規模なイベントを誘致し、仙台市中心部のホテルや飲食店などに経済波及効果をもたらすことも、自治体への貢献だと考えています。

ゼビオグループ店舗との連携をさらに強化していくことも継続的な注力テーマです。グループ全体としてアリーナで人を集め、店舗へと送客する仕組みも構築していきます。

「前例がない」ということが、大変さである一方で、様々なことにチャレンジできる機会でもあり、その価値を見出せる可能性を秘めているアリーナであると信じています。

取材を終えて

ゼビオアリーナ仙台の挑戦は、単なる大規模施設改修ではない。

少子高齢化が一層進むこの国で、限られたリソースをフル活用しながら、民間の経営ノウハウと公の信頼感を組み合わせたアリーナ運営によって、地域活性化に挑むプロジェクトだ。

“日進月歩のハード面の進化を追うよりも、運営面でいかにパイオニアになれるかの競争です”、小池氏の言葉が印象に残った。

全国でアリーナとスタジアムのオープンラッシュが続くなかで、ひとときのバブルにしないため、地域で持て余す施設にしないためにも、とても大切な指針だと思った。


▶ゼビオが仙台市にゼビオアリーナを寄付した理由とは【第1回】
▶常設スケートリンクは何日でバスケットボールコートに変わるのか【第2回】

取材・文:槌谷昭人