
写真:開館セレモニーの様子/提供:ゼビオアリーナ仙台
2025年7月、ゼビオアリーナ仙台は、大規模改修を経て常設スケートリンクを設置し、そのうえで仙台市への「負担付き寄付」という珍しい形で、新たな運営体制となった。
第1回(全3回)では、開業から13年間、自社で建設・経営してきたにも関わらずこの画期的な公民連携に踏み切った背景と、そこから見出される新たな可能性について深掘りしていく。
“フィギュアスケート発祥の地”仙台ならではの、そのユニークな取り組みに迫る。
ずっと探っていた国際規格のスケートリンク常設化
──さっそくですが、2025年7月にゼビオアリーナを仙台市に寄付したうえで指定管理者として運営を続けるという、ユニークな意思決定をされた経緯を教えて下さい。
小池: まず、今回の大きなミッションの1つは、国際スケート連盟が推奨する30m × 60m国際規格サイズのスケートリンクを作ることでした。
ゼビオアリーナ仙台ができて今年で13年目になります。建設当初からスケートリンク構想はありましたが、東日本大震災などの影響もあり、すぐに常設化は実現しませんでした。ただ、いつでもリンクを張れるよう冷凍機を収められるアイスピットというスペースを作り、製氷車室のような部屋も用意していました。
私がこのゼビオアリーナ仙台の運営に携わって10年になりますが、常にスケートリンクの常設化は探っていて、7,8年前から実際に見積もりも取りながら構想を練っていました。
──そもそも、なぜスケートリンクを作ることがミッションだったんですか。
小池: 仙台は、日本のフィギュアスケートの発祥の地です。羽生結弦さん、荒川静香さんという仙台市ゆかりのオリンピック金メダリストをはじめ、世界の舞台で活躍する選手を数多く輩出してきた土壌があり、フィギュアスケートを大切にしてきた地域です。

羽生結弦/Yuzuru Hanyu,
MAY 24, 2024 - Figure Skatisng :
Fantasy on Ice 2024 at Makuhari event hall, Chiba, Japan.
(Photo by MATSUO.K/AFLO SPORT)
一方で、市内のスケートリンクは相次いで閉鎖、環境面では厳しい現実もありました。東北六県の中で公設のフィギュアスケート常設リンクを持たないのは宮城県だけでした。
そうした状況を踏まえ、羽生結弦さん最後のオリンピック前後の頃から、私たちは仙台市と話し合いながら、リンク整備に向けた具体的でスピード感のある実現プランを提案しました。その結果、今回の取り組みが形になったという流れです。
寄付の代わりに20年間指定管理者
──そこで採用したスキームが、ゼビオが国際規格の常設スケートリンクに修繕したアリーナを仙台市に寄付し、その代わりにゼビオが20年間指定管理を受ける、“負担付き寄付”と言われるものですね。
小池: はい。例は少ないですが、パナソニックスタジアム吹田も類似の方式を採用していたかと思います。
──そもそも、ゼビオが民間企業として自前で建設して経営してきた施設にも関わらず、得られるものが20年間の指定管理者というのは割に合わないような気もしますが。
小池: 通常の指定管理制度は、行政がもっている施設に委託をうけた民間が入る形なので、行政が今までやっていた料金で貸し出していくことが多いです。これは市民サービスの比重を置いたもので、安価な料金設定になりがちとなります。
一方で、今回の指定管理は「利用料金制」という仕組みを取らせていただいております。これにより利用者が施設側にお支払いいただく料金が指定管理者の収入ともなります。また、年間で一定の売上を超えると仙台市に還付するという取り決めともなっています。
自らの営業努力により施設の維持もできる公共施設運営方式だと考えています。
仙台市に寄付したことのメリット
──なるほど、面白いですね。指定管理の中身についても、民間の経営ノウハウを活かした方式にしたんですね。しつこくてすいませんが(笑)、それでも、常設スケートリンクへの大規模修繕費などを考えると、ゼビオ側の負担のほうが大きいと思うんですが。
小池: 13年間ゼビオアリーナの管理運営を行ってきた側の個人的な意見を申し上げると、これまでも単年では営業利益が出ていましたが、この先を考えると、必ず大規模修繕は必要になってきます。それがスケートリンク常設化の場合、費用は建設費同等程度の可能性があり、これは厳しいという前提がありました。
常設のスケートリンクを民間で経営する難しさは、光熱費を始めとするリンク維持のランニングコストの高さも要因の一つです。アリーナ修繕後に仙台市に寄付をすれば、これまでかかっていた地代はもちろん、その電気代も指定管理費用の中に見込める。固定資産税もなくなります。
これまでも単発の興行としては、羽生さんの凱旋公演やディズニー・オン・アイス、浅田真央さんの公演などにスケートリンクとしてお貸し出ししてきましたが、思い切ってリンク常設化にアクセルを踏むためには、仙台市との連携がなければ実現するものではありませんでした。

写真:開館セレモニーの様子/提供:ゼビオアリーナ仙台
自治体の施設である信用度
──なるほど。施設が自分たちの所有でなくなったことによって、失われたものはありますか。
小池: 失われたものは本当に無くて、私はメリットのほうを感じてますね。
例えば、スポーツの大きな大会を誘致する活動で、競技連盟の方や全国のスポーツコミッションとお話しする際も、これまでは民間施設の営業マンの立場でしたが、今は仙台市の施設として自治体の担当の方と共に伺うので、信用度も高くなります。主催者側からしても、補助や減免の交渉も直接できるので検討しやすいかと思います。
──ああ、それは確かにそうですね。規模が大きいほどその信用度も大切ですね。
小池: はい。これまでの13年間で民間施設の運営として確立してきた部分を踏襲しながら、自治体の信頼性と社会性を活かして、より多くの全国規模大会や国際大会を仙台市に呼び込み、施設による地域活性化に貢献したいと思っています。

写真:こけら落としを飾ったアイスショー“The First Skate”/提供:ゼビオアリーナ仙台
公と民の役割分担を明確に
──公民連携において、運営上の難しさや、それに対する工夫はありますか。市民は公共施設なら安く使いたい、運営側は民間の運営ノウハウを活かして営業利益を出さなければならない、と相反する部分もあると思いますが。
小池: おっしゃる通りで、当初、この取り組みを進める上で最も懸念したのは、行政施設となることで、どこまで市民サービスを提供すべきかという点でした。これまでの13年間は民間施設として、バレーボールなどの一般利用の要望は、料金設定(1日貸しで400万円など)の面からもお断りしてきました。
今回の座組みにおいては、仙台市との交渉の中で、基本的に大規模な興行案件を優先できるよう取り決めました。
一般の利用については、アイスリンクの時間貸しのみに限定し、市民の一般滑走は行わないという判断を市側からいただきました。市が所有する他の公共施設(例:Jリーグのベガルタ仙台が利用するアテックスタジアム)でも、芝生保護のため一般開放しない事例があるため、当アリーナでも一般開放を限定することには理解が得られた形です。
ただ、年間3~4回は市の予算で一般開放日を設け、貸し靴やヘルメットを私たちが用意して市民の皆さまに利用していただくという私たちの義務はあります。
こうした明確な取り決めを冒頭で決めておくことで、公と民の役割分担が明確になりました。
──なるほど。それはとても参考になりますね。
既存のスケートリンクとの共存もテーマ
小池: また、仙台市内には民間が運営している既存のスケートリンク・アイスリンク仙台があり、羽生さんが練習していた場所でもあります。
このプロジェクトのテーマの一つは、新しい施設ができたことで歴史的なスケート文化や環境が失われないよう、既存のスケートリンクとの共存を図ることでもありました。
一般の方が気軽に滑りたい場合は、既存の民間リンクを利用するという住み分けができたことは、仙台市のスケート文化にとっても意義のあることかなと思っています。
▶常設スケートリンクは何日でバスケットボールコートに変わるのか【第2回】
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