2024年ゴルフ界の「日の出」を願って【舩越園子コラム】
暦が2024年に変わった。ゴルフ界に身を置く人々も、それぞれの想いを胸に新年を迎えていることだろう。思えば、昨年のゴルフ界はリブゴルフの存在に翻弄され、文字通り、激動を経験した1年だった。
そして、「激動」は世界ランキングにも見られた。誰もが目を見張るほどの急上昇をやってのけたのは、スウェーデン出身の24歳、新人のルードヴィッヒ・アベルグだった。
アベルグは昨年の半ばまでは米テキサス工科大学のゴルフ部に籍を置くアマチュア学生ゴルファーだったが、カレッジゴルフの大会終了後の6月にプロ転向。その時点では、彼の世界ランキングは3064位だった。だが、プロデビューからわずか3カ月後の9月にDPワールドツアーのオメガ・ヨーロピアン・マスターズで初優勝を挙げると、11月には米ジョージア州で開催されたRSMクラシックでPGAツアー初勝利。2023年の最終世界ランキングは30位となった。
3064位から30位へ、99.02%の上昇率を記録し、「今でも夢を見ているみたいで、毎朝、頬をつねっている」と語ったアベルグには、初日の出と初夢が一足早く訪れたよう。燦然(さんぜん)と輝きながら昇りゆく太陽のように、彼自身もスターダムを駆けのぼった。
そんなアベルグとは対照的に、昨年、勝ちかけては惜敗ばかりとなったエリック・コールは、いまなおキャリア未勝利だが、それでも世界ランキングを急上昇させた。
コールは35歳の米国人選手。かつて女子ゴルフ界の伝説的ヒロインだったローラ・ボーの息子だが、親の七光りというわけにはいかず、彼は長年、ミニツアーや下部ツアーで腕を磨く下積み生活を経験。昨年はようやくPGAツアーに辿り着き、何度も優勝争いに絡んだ。そして、惜しくも勝利は逃したが、笑顔で勝者を讃えるグッドルーザーぶりは、とても爽やかだった。そして、世界ランキングを384位から41位へアップさせた彼の奮闘は、実に鮮やかだった。
たとえ勝てなくても、主役にはなれなくても、地道に努力を続け、真摯にゴルフに向き合い続けていれば、必ず陽は昇るということを、コールの歩みが教えてくれた。だからこそ彼は、未勝利ながらもゴルフ界全体から絶賛されたのだと思う。
ところで、世界ランキングの対象ツアーとしての認定を願い出ていたリブゴルフの申請は、昨年10月にOWGR(オフィシャル・ワールド・ゴルフ・ランキング)から正式に却下されたため、リブゴルフ選手たちの世界ランキングは軒並み下降している。
かつて世界ランキング3位だったキャメロン・スミスは24位へ後退し、ケビン・ナは49位から635位へ急降下。リブゴルフ選手の世界ランキングは「もはや下がる一方で、決して上がることはない」と言われていた
。だが、そんな中で、大幅なランクアップをやってのけたリブゴルフ選手がいたことは、大きな驚きだった。
昨年4月のマスターズで2位タイになり、5月の全米プロでは勝利を飾った33歳の米国人選手、ブルックス・ケプカは、世界ランキングを52位から17位へ上昇させ、名実ともに世界のトッププレーヤーとして輝き続けている。そんなケプカを見ていたら、モノゴトには不可能はないのかもしれないと思えてくる。そして、自分の未来を左右するのは環境ではなく、自身の忍耐と努力と工夫次第で、陽はまた昇るのだと思えてくる。
必ずしも、ビッグムーブではなくていい。2024年のゴルフ界に、穏やかな日の出、明るいサンライズが訪れることを、元旦の朝、秘かに願った。
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)
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