2023年に大活躍の「ツアーギア」を振り返る。選手が使って結果が出たのはこのクラブ
スリクソン『Z-STAR』が女子ツアー38戦19勝!
日米男女ツアーで話題となったギアを一挙に振り返る、「ツアーギアトピックス2023」。まずは国内女子ツアーで2年連続の年間女王に輝いた山下美夢有のギアを見ると、スリクソンのクラブだけでなく、ボールが凄かった。
昨年の最多勝ボールは38戦16勝のブリヂストンだが、今年は一変し、昨年を遥かに上回る38戦19勝とスリクソンが“勝率5割”を達成。牽引したのは5勝した山下、5勝の岩井姉妹、2勝した菅沼菜々など計14勝した、シリーズで最もしっかりで飛距離の出せるボール、スリクソン『Z-STAR XV』だ。
残り5勝はスリクソン『Z-STAR◆(ダイヤモンド)』で、こちらは桜井心那が4勝、青木瀬令奈が1勝。今年からスリクソンに替えた蝉川泰果も『Z-STAR◆』で2勝するなど、『XV』よりややソフトでロングアイアンのスピン量が増える『◆』も男女ツアーで使用者を増やし、使用選手が軒並み活躍した。
【山下美夢有の最終戦の優勝ギア】
1W:スリクソンZX5 Mk II(8.5°スピーダーNXグリーン50SR 45㌅)
3,5W:スリクソンZX Mk II(15,18°スピーダーNXグリーン50SR)
4,5U:4,5U:スリクソンZX Mk II(22,25°ベンタスHB70S)
6I~PW:スリクソンZX5 Mk II(DG85 R300)
48,52,58°:クリーブランドRTX6 ZIPCORE(DG85 R300)
PT:リアライズ SQUAD プロトタイプ
BALL:スリクソンZ-STAR XV
また、最も勝ちに貢献したドライバーに目を向けると、山下5勝と桜井4勝、小祝さくらが使ったスリクソン『ZX Mk II』シリーズが計10勝し、菅沼2勝、青木2勝など『ゼクシオ エックス』も合わせるとダンロップがボールと同様に女子ツアー14勝の最多勝だった。
ちなみに、契約フリー選手の多くが選んだドライバーはどれかというと、2勝した申ジエ、原英莉花、西郷真央、穴井詩、川岸史果らが愛用したキャロウェイ『パラダイム◆◆◆』が計6勝だった。
契約フリー女子プロがミズノのアイアンで7勝!
契約フリーの強者が増える一方の女子ツアーで、アイアンはミズノの強さが印象的だった。春先から穴井詩が2勝し、シーズン終盤も西郷真央が復活勝利するなど、契約フリー選手がミズノのアイアンでなんと7勝! 秘密はその「打感」にあるとか……。
衝撃だったのは、稲見萌寧の移行だろう。キャリアでほぼアイアンが不変の稲見が、10月初旬に『Mizuno pro 243』に替えると11月の日米共催の「TOTO」で並み居る米ツアーの選手を抑えて勝利。そのパーオン率は4日間で「94.4%」と、僅か1か月でアジャストしたのは「小学生の頃ミズノのアイアンを使っていて安心できたから」と話していた。
契約しないのに選ばれる理由には「打感が大きい」とミズノの担当者は話す。「市販品と女子選手に渡すアイアンは同じで、一部でソールに僅かなグラインドを加えるくらい。元々ミズノと契約していた選手も含めて、選手からは総じて『ミズノのアイアンは打感がいい』と評価して頂けます」。
稲見の『243』は7番(ロフト32°)より上が軟鉄ではなくクロムモリブデン鋼だが、そこはミズノ。鍛流線を整える鍛造技術「グレインフローフォージド設計」で打感を磨き上げ、ショットの成否が明確に選手に伝わる。だから、調子のバロメータになり、打感が“性能”として機能するため、手放せない理由がよく分かる。
高MOI好きの契約フリーは日本シャフトで復活する
「何でも選べる」契約フリーなら全て活躍するとは言い切れず、そこにリスクも存在する。昨年の契約フリーの藤田さいきに続き、今年も契約フリーの森田遥が6年ぶりに復活勝利したが、2人には共通点があり高MOIのPING『G430 MAX』ドライバー使用者。そして、日本シャフトの使用者だ。
藤田も森田も同じ中元調子の『レジオフォーミュラMB+』だが、“復活”に導く理由は「ピーキー過ぎない設計」にあると同社担当者。「アイアンと流れの整うウッドシャフトで、素材のパリ感や変な硬さなどクセがなく、滑らかな振り感の設計なため、調子を落としていた選手にとってリハビリ的に機能するのかもしれません」。
契約フリー選手は、メーカーもモデルも横断して、シーズン中に様々なヘッドを“試せてしまう”が、その時のスイングや調子などで不調に陥ると「道具かスイングか、どちらに問題があるのか判別しづらい」ことも起こりがち。この判断を誤ると、迷路にハマり込む要因になることもあるという。
「2人は高MOIヘッドだから先端剛性の高い『MB+』ですが、他の選手が操作性のいいヘッドを選ぶなら『M+』など、アイアンの流れやヘッド特性を見て適切にご提案します。いずれもピーキー過ぎない設計で、打ち手がどんな調子・状態でも滑らかにアジャストでき、スイングを作るアイアンシャフトをベースに、ウッドも迷わないモノをご案内します」(同)
ベテラン勢の復活はL.A.B.の無開閉・長尺パター
“復活優勝”といえば、今年はPGAツアーもアツかった。8月に43歳のルーカス・グローバーがショートパットのイップスを克服して連勝し、11月にはなんと9年ぶりに41歳のカミロ・ビジェガスが復活勝利。奇しくもベテラン2人はアダム・スコットが信奉しているL.A.B. Golfパターの使用者だった。
グローバーとビジェガスを復活させた『メッツ1 MAX』は、元々アダムが「ファンタスティックで素晴らしいテクノロジー」と惚れ込んで1年半以上前から長尺で使用する逸品。アルミ製で軽量・大型化したツノ型マレットは、ストローク中にフェースがスクエアを保つ独自の「ライ角バランス」設計で、契約外ながらアダムが監修している。
L.A.B.の名の由来も、この「ライ角バランス」という特殊設計の略だ。ストローク中フェース向きが常に目標を向き続けるだけでなく、ソールにある16個のウェイトも超目立つが、それぞれの重さはトップシークレット。これを変更すると機能がすべて失われてしまうため、調整は一切推奨されていないとか。
日本のシニア選手たちも注目し、徳永雅洋が購入して即勝利。グローバーが勝った試合では、トップ10のうち4人がL.A.B.を使うなど“復活請負・無開閉・長尺パター”の人気が今年急速に上がった形。直近で競技復帰のウィル・ザラトリスも移行したが、24年はこの長尺で何人が復活を遂げるのだろうか。
復帰のタイガーが『TOUR AD VF』の45.625㌅でぶっ飛ばし!
“競技復帰”といえば、4月の「マスターズ」以来、約8か月ぶりに「ヒーローワールドチャレンジ」で復帰したタイガー・ウッズ。その手には、見慣れない新ドライバーが握られており、赤×黒の新シャフトで最長370ヤードを含め330ヤード超を8発も放った!
過去にもグラファイトデザイン製の『TOUR AD DI』を使用したタイガー。足の怪我で競技を休んでいたが、久々の復帰に選んだ1Wシャフトは元調子の最新作『TOUR AD VF』だった。テーラーメイドの未発表ヘッド『Qi10 LS』との相性も良さそうで、やや長めの45.625㌅で復帰戦とは思えない豪打を披露。
47歳が4日間で残した数字は最長順370 ➡ 364 ➡ 359 ➡ 357 ➡ 352 ➡ 347 ➡ 335 ➡ 334 ➡ 329 ➡ 328ヤードと凄まじい。タイガーカラーの赤い特色は「フォースレッド」と呼び、同社が初めて『トレカ®M40X』で手元部を強化した進化系元調子の特徴は、端的に言えば「強く叩けるうえ、軽やかに振り抜ける」。
従来では相反する要素を両立した元調子で、先端から中間にかけての広範囲を強靭な『トレカ®T1100G』で強化した『TOUR AD VF』。散らばりやスピン量を抑えられることも、復帰したばかりのタイガーがぶっ飛ばせた一因だろう。
『ベンタス』シリーズが常時PGAとJGTOで使用率No.1
23年シーズンだけじゃなく、ここ数年脅かす者がいない1Wシャフトがある。もちろん、日米男子ツアーの使用率No.1は言わずと知れたフジクラだ。『ベンタスTRブルー』に移行したマキロイの影響で使用モデルに増減はあるものの、この強すぎる状況がなぜ生まれるのか。
様々なシャフトの剛性や振動数ほか、あらゆる物性を調べるタイトリストのR&Dによれば、「日本人と米国人で体格も筋力も違うが、シャフトに関するフィーリングは共通する」との研究結果が出ているそう。であるならば、PGAもJGTOも、ずっと日米男子で『ベンタス』シリーズが人気No.1を継続する理由も納得がいく。
人気作は下記の2本。まずは「SG:オフ・ザ・ティ」で驚異の1.021を記録した世界一のS・シェフラーや、平均322.58㍎と国内男子ツアー記録を更新した河本力が好む、男子の一番人気作『ベンタスブラック』だ。また、今年マキロイが『ベンタスTRブルー』に移行して様々な選手が影響を受けてこれに移行。8年連続・日本一曲がらない男の稲森佑貴も途中まで同作を使用した。
使用モデルに変更があっても、フジクラの使用率1位は相変わらずで、先端剛性の高さでミスの分散を減らす『ベロコアテクノロジー』は新作『ベンタスTR』シリーズにも共通。『ベンタスTRレッド』に移行した選手も多く、全体の張り感・振り感のバリエーションが広がったら、この結果になるのは当然と言えるだろう。
『スピーダーNX』シリーズが今年も女子で一番人気!
日米男子ツアーと同じ構図で、もはや、驚きはないのかもしれない。そう、国内女子ツアーで使用率No.1だったのもフジクラだ。男子だけでなく、女子も『ベンタスTRレッド』に移行する選手も増えたが、ブラックが加わった『スピーダーNX』がやっぱり強かった。
剛性だけでなく、トルクを部分制御する「3次元設計」で、従来のシャフトから新次元になった『スピーダーNX』シリーズ。今年アップデートされたのは、“ 暴れない”先中調子の『ブラック』だが、シーズン終盤には中調子の初代『ブルー』を上回る人気作に成長していた。3モデルそれぞれに人気が三分されたものの、振り感の選択肢が増えた結果『スピーダーNX』シリーズ全体が成長するのは、男子ツアーの『ベンタス』と全く同じ構図だ。
もはや、世界のツアーのドライバー用シャフトを支配した形だが、驚くことに、アイアン用カーボンでも『TRAVIL』を投入して、瞬く間に使用者を増やした。こちらは、女子プロが課題にするアイアンの“ 落下角を増す”アップデートがあるため、こうなるのも自明。2024年もどこまで行ってしまうのか、今から末恐ろしい……。
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