圧勝劇の大坂なおみ、全豪初戦でこだわった「何をこの試合から学ぶか」が示す成長の度合い<SMASH>
ネットを挟む20歳の新鋭の姿に、彼女は、かつての自分を重ねたという。
初めて足を踏み入れる、グランドスラムのセンターコート。その舞台で立ち向かう相手は、経験豊富なトッププレーヤー。緊張はありながらも、「失うものは何もない」という興奮が、あらゆる感情を上回る。
初戦で対戦するカミラ・オソリオは、ロッド・レーバー・アリーナでビクトリア・アザレンカに挑んだ18歳の日を、大坂なおみに思い出させた。
その時から、6年の年月が経った。「私も、もうベテランだな」と笑う彼女は、相手の胸中が手に取るようにわかりもする。
「怖いもの知らずで、できることは何でもやろうと思っているはず」
そのような相手の開き直りが、「わたしにとって危険なこと」であることも、過去の経験から十分に分かっていた。だからこそ初戦にのぞむ大坂は、戦前にオソリオのプレー動画を多く見たが、モニターに映るイメージを、そのまま実戦のコートに持ち込むことはしなかったという。
「事前に得た情報を、鵜呑みにしないようにしている。なぜならわたしと対戦する時、多くの選手は、いつもと違うプレーをするから。大概の選手はリスクをとり、アップテンポで攻めてくる」
それが今の大坂が、上に立つ者として学んだ「新たな要素」だ。
未知なるファクターの介入を予期することは、精神面の余裕につながるだろう。この日の試合では第1セットの終盤に、それが生かされる場面が訪れた。
地に足のつかぬ20歳の立ち上がりを叩き、大坂が序盤で5ゲーム連取。だが、オソリオが1ゲームを取った時から、潮目が微妙に変わり始めた。リターンのポジションを上げ、特に大坂のセカンドサーブにプレッシャーを与えてくる挑戦者。その勇気が奏功し第7ゲームをブレークしたオソリオは、第9ゲームでも2連続のブレークポイントを手にした。
大坂にしてみれば、このゲームを落とせば、相手の勢いに飲みこまれかねない窮状。
だが大坂は、冷静だった。
「セカンドサーブの時、彼女が踏み込んできたことはわかっていた。ただ私のサーブも悪くない。色々と織り交ぜていこうと思っていた」
実際に大坂は、豊富なサーブのバリエーションで、相手のリターンを封じてみせた。まずは、深く打ち込むセカンドサーブでのウイナーを奪うと、ワイドに切れるスライスサーブ、そして最後はセンターに叩き込むセカンドサーブでキープに成功。相手に傾きかけた流れをせき止めると共に、第1セットを先取した。
第2セットでは、相手も持ち味のドロップショットやスライスを多用するが、大坂はスライスには、自らもスライスで対応していく。
「スライスは、以前から練習はしていたけれど、試合で使う余裕がなかった。今は試合を楽しみ、ミスを気にしない心持ちでいるから、上手く打てるようになったんだと思う」
ショットバリエーションを武器とするオソリオだが、大坂にことごとく対応されては、打つ手がない。終わってみれば、自力で勝る大坂が6−3、6−3のスコアで貫録の勝利を手にした。
選手間で「とても明るく礼儀正しい」と評判の20歳は、敗戦にも笑みを広げ、あいさつのためにネットへと駆け寄っていく。
「ありがとう。ありがとうございます」
握手とともに謝意を述べる若き挑戦者に、大坂も笑みをこぼし、何か長く言葉を返した。
大坂が、かつての自分を重ねた新鋭へと伝えた思い。それは、いかなる内容だったのか……?
「大会の何が凄いかというと、タオルを持ち返っていいことだと教えてくれた。彼女はスターなのに、すごく普通なの」
オソリオが、興奮気味に顛末を明かした。
多くの選手から挑戦を受ける今の大坂にとって、初戦は「結果ではなく、何をこの試合から学ぶかが大事」だと言う。
相手の心境を読み、いつもと違うプレーをしてくると予測した冷静さ。
試合中、追い上げられるも耐えてせき止めたメンタリティ。
そして、変わらぬ自然体な立ち居振る舞い
この試合で大坂が得たものは、単なる1勝以上に大きいかもしれない。
現地取材・文●内田暁
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