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【プロの観戦眼15】かなり打点が詰まって、フィニッシュも独特。メドベージェフの“不思議な”フォアハンド~佐藤哲哉<SMASH>

打点はかなり後ろで、それ故に相手に読まれにくいメドベージェフのフォアハンド。首に巻き付けるフィニッシュも彼ならではだ。右下は佐藤哲哉プロ。写真:真野博正、THE DIGEST写真部
このシリーズでは、多くのテニスの試合を見ているプロや解説者に、「この選手のこのショット」がすごいという着眼点を教えてもらう。第15回は、元デビスカップ日本代表で、ATPカップなどの中継で解説も務める佐藤哲哉プロ。注目するのは、メドベージェフの“不思議な”フォアハンドだ。

*  *  *

「メドベージェフのフォアは、最後に腕が首に巻きつくんですよね」と佐藤プロ。現代のトッププロは、スピンをかけるためにラケットをワイパー気味に回した後、左肩口や腰の横にフィニッシュすることが多い。メドベージェフのように首に巻きつくのは「かなり独特なフォーム」だという。

なぜ首に巻きつくのか? 佐藤プロも明確には説明できず、「彼の感覚としか言いようがない」と首をひねるが、一つ関係しそうなのが“打点”だ。

「メドベージェフはギリギリまでボールを引きつけることができます。わざと遅らせているのかと思うくらい、打点が詰まり気味なんです。それでちゃんと入るから不思議なんですが…」

2017年にメドベージェフが初めて楽天オープンに出場した時、佐藤プロは練習を見て驚いたという。「あまりにフォアの打点が後ろなので、選手ではなく素人かと勘違いしました。振り遅れる練習をしてるの? と思いましたよ」
つまりこういうことだ。一般的なフォアは大きく前に振った後、ヒジを畳んで左肩口まで戻してくるが、メドベージェフは打点が遅れるぶん、ヒジを近くで畳むことになり、首に巻きつくのではないか? ただし「普通はここまで詰まると、中途半端な終わり方になるのに、彼は詰まっても崩れず、ちゃんと首まで振り切れるのが普通じゃない」とまた佐藤プロは不思議がる。

「結局、それだけ肩甲骨や手首の関節などが柔らかく、スイングスピードを上げる能力が高いのでしょう」と分析。この詰まった打点は、実はメドベージェフにとって大きな武器でもあり「引きつけることでどこからでも、どんなショットでも打てて、選択が自由」なのだそうだ。「相手にしてみたら読みにくく、ギリギリまでわからない」のである。

皆さんも今度メドベージェフの試合を見る時は、フォアの打点に注目してみるといい。そしてどこに打つか当ててみよう。きっと予測困難なはずだ。

◆Daniil Medvedev/ダニール・メドベージェフ(ロシア)
1996年2月11日、モスコワ生まれ、モンテカルロ在住。198センチ、83キロ、右利き、両手BH。2019年にマスターズ2大会を含む4大会で優勝。20年にはATPファイナルズを、21年には全米を制した。現在ATPランク2位で、次期No.1候補の最右翼。

取材・文●渡辺隆康(スマッシュ編集部)

【PHOTO】ボールを引きつけて首まで振り切るメドベージェフのフォアハンド、30コマの『超分解写真』

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