
来年に控えたパリ五輪までおよそ1年を迎えたなか、日本の選考会は中盤から終盤にかけて佳境を迎えている。そんななか、来年の五輪に向けてメダル獲得が期待される卓球日本女子の前に立ちふさがるのが中国勢。世界ランキングでは上位を独占し、歴代の五輪の成績を見ても、シングルスは全大会で中国が金メダル獲得。ダブルスや団体戦でもほぼ中国が独占状態である。今回は圧倒的な強さを誇る中国勢の中で、パリ五輪出場とメダル獲得が予想される候補4人を紹介し、特徴や強さについて言及していきたい。(文・井本佳孝)
金メダル筆頭候補の“絶対女王”
写真:孫穎莎/提供:ITTF
現在世界ランキング1位に位置し、2位とはおよそ4000ポイント以上の差をつけての絶対女王に君臨するのが孫穎莎。伊藤美誠や早田ひなら日本の黄金世代と同じ2000年生まれの22歳。2019年ごろから世界卓球やワールドツアーで結果を残し台頭した孫穎莎は世界ランク上位に入り中国期待の若手としてブレイク。2021年に東京五輪に初出場を果たすと、シングルスでは銀メダル、団体戦メンバーとして金メダルを獲得し自身初の舞台で結果を残した。
2022年1月に初の世界ランク1位に立つなど、東京五輪後の孫穎莎の圧倒的な実績と存在感は他の追随を許さない。WTTカップファイナルの連覇に、2022年9月の世界卓球団体戦、今年5月の世界卓球個人戦のシングルスを制するなどまさに脂が乗り切った状態。7月の「WTTコンテンダーザグレブ」で平野美宇が孫穎莎を下したが、海外選手に敗れたのは4年前のスウェーデンオープン以来のこと。平野相手の敗戦は“対日本”への警戒を促す可能性は十分で、パリ五輪では間違いなく日本の前に立ちはだかる一番手になるはずだ。
東京五輪金、遅咲きの大器
写真:陳夢/提供:ITTF
現在は孫穎莎がリードする女子卓球界だが、彼女の台頭まで約3年世界ランク1位に君臨し続けたのが陳夢。29歳を迎えたが、7月18日発表の世界ランクでは2位につけるなどその実力は未だにトップクラス。リオ五輪では国内の高い競争力の前にメンバー落選したが、圧倒的な実績を重ね選出された前回の東京大会では女子シングルス、団体でともに金メダル獲得。20代後半での五輪デビューという中国選手では遅咲きの部類に入る陳夢だが、初の五輪の舞台でその実力を証明した。
陳夢はラリー戦における反応や予測力に長けており、その安定感は世界でも随一。また、両ハンドドライブの威力も持ち味であり、166センチと体格にも恵まれている。対日本人選手も相性のいい陳夢だが、なかでも伊藤美誠に対しては5月の世界卓球での準々決勝や「WTT リュブリャナ」の準決勝で下すなど得意としている。若手の台頭が激しい中国女子卓球だが、来年のパリ五輪開幕時には30歳を迎える陳夢の安定感と豊富な経験値は武器となるはずで、2大会連続金メダルをかけてパリに乗り込んでくることは十分考えられる。
中国国内での激しいライバル争いも


写真:王曼昱/提供:ITTF
世界ランク6位までを占拠する中国勢でマークすべきは孫穎莎と陳夢だけではない。東京五輪団体メンバーとして金メダルを獲得したのが王曼昱。元々はリザーブ選手だったがメンバーの故障で選出されると、孫穎莎、陳夢とともに五輪チャンピオンに輝いた。176センチというリーチの長さを活かしてのプレーが持ち味で、パワードライブや守備時のレシーブでその身体的メリットは活かされる。孫穎莎とともに中国若手のエースと呼べる存在で、同年代の早田、平野、伊藤という黄金世代とのぶつかり合いも十分予想される。
また、世界ランク上位に位置する王芸迪も注意しておきたい選手のひとり。王芸迪はパワフルな両ハンドによる攻撃が持ち味で、記憶に新しい5月の世界卓球では、早田との準々決勝で敗れたものの得意のラリー戦で死闘を演じた。トップ5に位置する王芸迪ですら五輪の当落戦上という中国ならではのレベルの高い争いは今後も続いていくが、世界ツアーで安定した結果を残し続ける王芸迪も日本にとってはマークすべき存在であるのは間違いない。
パリ五輪行きと並行してのテーマ


写真:王芸迪/提供:ITTF
日本国内での激しい争いが一つのトピックとなっている日本女子卓球界だが、パリ行きをかけた戦いと並行して中国勢への対策は金メダル獲得へ向けては常に課題として付きまとう。その中で、世界卓球で早田が見せた王芸迪相手の激闘や、WTTコンテンダーザグレブでの平野の孫穎莎を含む中国勢に3連勝しての優勝は、日本全体のレベルアップを促す意味でも起爆剤となっている面はある。この高いレベルでの争いでいかに戦えるか、という部分もこれからパリ五輪に向けてはより大きな意味を持ってくる。
パリ五輪まで残り1年とカウントダウンが始まっていく中で、これまでの歴史において上位を独占状態だった中国勢にいかに戦って勝ちを奪いとるか。その中でも孫穎莎、陳夢、王曼昱、王芸迪といった選手が本大会でも日本の前に壁となって立ちふさがるのは間違いない。早田、平野、伊藤といった黄金世代を中心にパリ五輪行きをかけた戦いが続く中、女子卓球界をリードする中国が誇る4人の刺客たちといかに戦っていくか。金メダル獲得へ向けては避けては通れないこの壁をいかに突破していくかは期待したい。
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