「すべてを失うまでチャレンジしたい」実業団を辞めて単身アメリカへ 元JR北海道・中野優の飽くなき挑戦
先日アメリカの卓球場を取材した際に「2月からウチの卓球場でナカノユタカさんがコーチとして働いてくれるんだ」という話を聞いた。
「ナカノユタカ?」
一瞬わからなかったが、すぐに「あ、元JR北海道の中野選手か」と思い出した。と同時に、「今中野選手って、アメリカに行ってるのか」という驚きと「なぜアメリカに?」という疑問が頭に浮かんできた。
疑問は解消しなければ気が済まない性格の筆者はすぐに中野選手とコンタクトを取り、取材を決行。「なぜ安定したサラリーマン生活を捨てたのか」「なぜアメリカへ渡ったのか」その思いを聞いた。
【中野優(なかの ゆたか)】1998年8月13日生まれ。大阪桐蔭高校から法政大学、実業団のJR北海道を経て、現在はアメリカでフリーの選手兼コーチ。高校時代はインターハイにも出場し、大学進学後は関東学生リーグで活躍。在学中には2018年全日本選手権男子ダブルスベスト16、2019年関東学生卓球選手権シングルスベスト16の成績を残し、2019年のサフィール国際卓球大会出場も経験した(写真:ラリーズ編集部)
コーチ兼卓球選手という選択肢
なので、在学中は「海外でプレーできるところがないかな」と思ってました。
写真:中野は大学時代、関東1部の名門・法政大学で活躍した/撮影:ラリーズ編集部
そこで日本リーグにも出させていただいていたんですけど、「今の自分の実力って中途半端だな」と思って。
日本だと、Tリーグの選手じゃないと卓球だけでお金を稼ぐのは難しいと思うんですが、自分はそのレベルにはいないと思っていました。
実業団のJR北海道で日本リーグに出場するも満足のいく結果は残せなかった
あとは、挑戦するなら今このタイミングしかなかったんですよね。現役を完全に辞めちゃうと、選手に戻ることは絶対にないと思っていて。
今、24歳なんですけど、若いうちにできることをやりたいなと思って、濵川(明史)さん(現andro)に頼んで、アメリカに行かせていただきました。
※アメリカでは選手の強さを数値で表す「レイティングシステム」が全国レベルで整備されており、プロアマ関係なく、強さを公平に図ることができる
濵川明史は2020年の全日本選手権でシングルスランク入りを果たし、現在はアンドロジャパンの社員として勤務している
その中で将来のことを考えたときに、スウェーデンだと選手を辞めたら日本に帰ってくるしかないんですけど、アメリカなら選手をやりながらコーチもやれるとのことだったので。「じゃあ、アメリカかな?」って思って、アメリカを選びました。
その後は自分がアメリカの選手に対して相性が良かったのかどんどん勝っていって、今は2550ぐらいになりました。
ちなみに、オハイオ州では一番でした(笑)
あとは、カナダのワン・ユージンとかコルベルとか。
ピーター・コルベルは、今や当たり前の技術となった「チキータ」を生み出したことで知られている/提供:ETTU
あとは、試合以外の面で言えば、日本だと強い選手と普通の選手が会話する機会って、あんまりないと思うんですけど、こっちだとプロ選手とも自然とコミュニケーション取れるんで、それが海外のいいところだと思いますね。
アメリカ卓球は「アメリカンドリーム」
もちろん、試合そのものに賞金が出ることもモチベーションになりますけど、コーチなしで自分だけで練習しなければいけない中で「レイティングをキープしよう、下げないようにしよう」って気持ちがあると、気が付いたら練習しちゃうんですよね(笑)
こっちに来るときに濵川さんに「最初に行く道は作ってあげられるけど、その後は自分次第だ」って言われたんですよね。アメリカに来たときは、オハイオ州にある「Samson Dubina Table Tennis Accademy」にお世話になっていたんですが、3か月間っていう期間が決まっていました。
なので、まさに濵川さんの言葉通りで、その後コーチとしての契約が取れなかったら日本に帰るしかなかったんですよね。僕はたまたま上手くいって今はなんとかなってますが、常に「やるしかない」っていう気持ちは強いですね。
あとは、日本人っていうのは大きかったと思いますね。日本人は自然と挨拶ができるので、それがアメリカでは好かれてると思います。
写真:中野優/撮影:ラリーズ編集部
でも、夢がありますよね。まさに、「アメリカンドリーム」そのものだと思います。
Follow @ssn_supersports