所属は関係ない、成長に本気な選手が集う 岡野俊介も通ったクラブチームU.N.G.の自由な運営スタイル

静岡県浜松市を拠点に活動するクラブチーム「U.N.G.」。

このクラブは、指導者の内山直英さんが、自身の卓球経験や地域とのつながりを活かして立ち上げた、全国でも少し変わったスタイルのクラブだ。

今回は、そんなU.N.G.の成り立ちから指導の哲学、印象に残る選手とのエピソードまで、内山さんにじっくり話を伺った。

自分がやってきた道を、次の世代へつなげたい

――まずは内山さんの卓球歴から教えてください。
内山直英さん:本格的に卓球を始めたのは中学からです。高校は浜松北高校、大学は法政大学へ進学し、大学2年まで卓球部に所属していました。

写真:内山直英さん/提供:U.N.G.
写真:現在は行政書士事務所を運営する傍ら、指導者として卓球に携わっている内山直英さん/提供:U.N.G.

――インターハイや全日本選手権にも出場経験がある内山さんですが、大学で2年で部活を引退されたのはなぜですか?
内山直英さん:私は指定校推薦で法政大学に入りました。

強豪だったのですが、体育会に2年間所属すれば体育の単位が取れるという制度があったこともあり、まずは2年間頑張ろうと在籍していました。

3年生になるタイミングで司法書士の予備校に通い始め、両立が難しくなったため部活を辞めました。

その後、神奈川の金融機関に就職しましたが、独立志向があったため、独立を機に浜松へ戻りました。

写真:指導する内山直英さん/提供:U.N.G.
写真:指導する内山直英さん/提供:U.N.G.

指導の現場から自然と生まれたU.N.G.

――現在内山さんが指導しているU.N.G.というチーム名にはどんな由来があるのですか?
内山直英さん:最初練習場所としてお借りしていたのが、かつてウナギの養殖場だった建物の2階だったんです。

だから名前をどうしようかという話になったとき、「うなぎ(UNAGI)」からU.N.G.に決まりました。

あとは私が行政書士をしているので、内山直英行政書士の略称もU.N.G.でちょうどいいかなと(笑)。

教え子に囲まれる内山さん
写真:教え子に囲まれる内山さん/提供:U.N.G.

――どのような経緯でU.N.G.を立ち上げたのでしょうか?
内山直英さん:当初はクラブを持つつもりはありませんでしたが、いろんな子に『練習を見てほしい』と声をかけられるようになり、自然と人が集まり始めました。

自分が選手としてやるより、子どもたちが強くなっていく姿を見る方が楽しくなってきて、クラブをつくることになりました。

――どういう特徴のクラブですか?
内山直英さん:1つ大きな特徴が、他のクラブに所属していながら、U.N.G.にも通う選手がほとんどということです。

ゼッケンの所属が別でも、練習に来る子が多いという少し珍しい形態ですね。良い言い方をすると、毎週強化練習をやっているみたいな感じです。

もちろん事前に所属クラブの指導者ともきちんと話をして、理解を得てから受け入れるようにしています。

写真:指導する内山直英さん/提供:U.N.G.
写真:指導する内山直英さん/提供:U.N.G.

――何がきっかけでそういう形態になったのでしょうか?
内山直英さん:運良くたまたまという感じではあります(笑)。

というのも、私が独立を機に浜松に戻ってきたとき、全国レベルの選手が練習する場所や相手がいない状態でした。

私は大学でも卓球をしていたので練習相手としても重宝されたということが1つ。あとは、私は親御さんにも方針をしっかりと話した上で指導するからか、親御さん受けも良くて預けてくれやすかったのが1つ。

最後に、U.N.G.だとクラブの垣根を越えて練習できるので、県内の強い選手同士誘い合ってきてくれたというのが大きいですかね。

――どういう選手が練習に来ていましたか?
内山直英さん:元デンソーの森田彩音さん、エリートアカデミーから早稲田大学に進んだ福田純大さんは、人数が多くなる前でマンツーマン指導が中心でしたが、練習に来ていました。

また、大学生チャンピオンに輝いた岡野俊介選手(愛工大名電高→朝日大)と今泉蓮選手(野田学園高→埼玉工業大)は一緒にここで練習していましたし、日本大学で活躍した手塚大輝さん、最近YouTubeなどで話題の楊奇真さんもそうですね。

特定の所属というわけではなく、レベルアップの場として通ってくれていた子が多いですね。

写真:楊奇真さんの結婚式での内山直英さん/提供:内山直英さん
写真:楊奇真さんの結婚式での内山直英さん/提供:内山直英さん

内山直英さん:そういう強い選手同士の練習の機会を与えられたっていうのは大きかったと思います。

最初は2週間に1回だけ来ていたという子が、だんだん週1回は来る、土日は必ず来る、平日の練習にも来るというように、頻度がどんどん増えていく感じにはなりましたね。

手塚
写真:関東学生リーグ敢闘賞のトロフィーを持って報告に来た教え子の手塚大輝さん/提供:U.N.G.

強くなることより大事なものを育てたい

――内山さんが指導で意識している方針を教えてください。
内山直英さん:大きく分けて3つあります。

1つがクラブの垣根を越えて練習しているからこそ、メインの指導者が誰なのかを明確にすることです。

僕がメインなら責任を持って関わりますし、他クラブの監督がメインであれば、あくまでプラスアルファとして関わるようにしています。

写真:球出しをする内山直英さん/提供:U.N.G.
写真:球出しをする内山直英さん/提供:U.N.G.

内山直英さん:2つ目はセンスには個人差が絶対あると思っています。

その中でもその子が目指せる一番上のレベルまで引き上げてあげたいというのはずっと一貫している基本方針です。

写真:教え子に囲まれる内山さん/提供:U.N.G.
写真:教え子に囲まれる内山さん/提供:U.N.G.

内山直英さん:3つ目が、勝つための努力や継続はもちろん、挨拶や話を聞く力、伝える力なども含めて、人間としての力を育てたいと思っています。

卓球がうまくなるだけでなく、社会に出たときに役立つ力もクラブで身につけてほしいと思っています。

――選手との接し方で意識していることはありますか?
内山直英さん:練習中は厳しく接しますが、休憩中は絶対に叱らないと決めています。

基本的に私は厳しく接する場面は必要だと思っています。褒めるのと厳しくするのだと少し厳しいことが多いぐらいです。ただそれは練習中のことです。

オンとオフをしっかり分けて、緊張とリラックスのメリハリをつけることを意識しています。

写真:指導する内山直英さん/提供:U.N.G.
写真:指導する内山直英さん/提供:U.N.G.

練習だけでなく、未来につながる関わりを

――これまでいろいろな選手を輩出されていますが、特に印象に残っているエピソードはありますか?
内山直英さん:たくさんあるのですが、特に嬉しいのは「行きたい」と言っていた進路に選手が行けたときですかね。

福田純大くんが小学5年生のときに「エリートアカデミーに行きたい」と言った時は、「じゃあそこを目標にしてやろう」と頑張りました。かなり強かった学年だったのですが、運もあり、その目標を実現してくれたのは心に残っていますね。

例えば岡野俊介なんかも「名電に入りたい」となって同世代には篠塚、谷垣らがいてどうかなというところだったんですが、本人もかなり頑張って最終的に名電に入れたのは嬉しかったです。

他にも勉強と卓球を頑張っている中学生が、目標としていた進学校に行けたとかそういうのも嬉しいです。

写真:平成29年全中での写真/提供:U.N.G.
写真:平成29年全中での写真/提供:U.N.G.

内山直英さん:試合では楊奇真の試合が印象的ですね。
――どういう試合だったんですか?
内山直英さん:彼が中学3年生のときの全中で、野田学園にいたカットマンの竹崎千明選手と当たるということで、カット打ちばかり練習して試合に臨み、勝つことができました。

この試合に勝つためにこの練習をしよう、というのがバッチリハマった気がして、練習が試合に繋がったと感じてものすごく嬉しかったですし、印象に残っています。

写真:当時の楊奇真と内山さん/提供:U.N.G.
写真:当時の楊奇真と内山さん/提供:U.N.G.

内山直英さん:ちなみにその翌日の試合で再びカットマンの選手と当たって、勝ち上がるチャンスだと思ったのですが、楊奇真は「昨日のカット打ちで腕が上がらないです」と…。「マジかよ…」と思っていたら負けてしまいました。楊奇真らしいエピソードではありますね(笑)。

写真:楊奇真さんの結婚式での内山さん/提供:U.N.G.
写真:楊奇真さんの結婚式での内山さん/提供:U.N.G.

――今後の展望について教えてください。
内山直英さん:今いる選手はそこまで全国レベルというわけではないですが、だからこそ一人ひとりの「本気」を大事にしたい。

将来的には指導者の育成や、障がいのある子も含めた誰もが参加できる環境づくりも目指しています。

また、強くなった子はもちろん、多くのOB・OGが顔を出してくれるのは、卓球を教えてて良かったなと思える瞬間ですし、そういう場所であり続けたいです。

OB・OGはもちろん、OB・OGの親御さんも練習に参加してくれて、いろんな方に支えていただいているクラブです。今は、OBの親御さんで理学療法士の資格を持つ方が毎回練習に参加して、指導にあたってくれています。

U.N.G.が「本気で向き合える場所」であり続けるために、これからも周囲の支えを借りながら、選手とともに成長していきたいと思います。

取材・文:山下大志(ラリーズ編集長)