
丹藤貴(たんどうたかし)。青森県弘前市に「弘前卓球センター」を開いて今年で22年目になる。
実業団の名門・シチズン時計の選手・監督を経て42歳で退職、地元・弘前市に戻り、卓球場を開いた。梅村優香らを輩出し、“卓球王国”青森の一角を担ってきた、弘前の歴史あるクラブである。
しかし、歴史的に卓球熱量の高い青森県のクラブも、他県同様、少子化と部活動の地域移行の波にさらされている。
弘前市で、卓球台4台をぎりぎり並べて指導を続けてきた、弘前卓球センターを見つめた。
写真:弘前卓球センターの看板/撮影:ラリーズ編集部
写真:弘前卓球センター/撮影:ラリーズ編集部
「地元の子どもたちを強くしたい」
一番は、卓球を離れてみてその良さを改めて実感したことと、やっぱり子どもを教えてみたいと思いましたね。
写真:丹藤貴(弘前卓球センター代表)/撮影:ラリーズ編集部
卓球を教えるスキルは積んできていたので、“僕が教えて、地元の子どもたちが強くなったらいいな”と。小学校の練習にも行ってみて、いろんな子が楽しそうにやってるのを見て、この子たちを強くしたいなと思いました。
弘前卓球センターを立ち上げたときから、その高校の同級生2人が教えている子どもたちが来てくれたので、最初は順調に始められました。
写真:丹藤貴(弘前卓球センター代表)/撮影:ラリーズ編集部
卓球場は狭いんですが、弘前には8台以上卓球台を置ける公共施設が10ヶ所以上あって、土日はその広いところで練習しています。
写真:真剣な表情で練習する子どもたち/撮影:ラリーズ編集部
原点となった一年目の全日本ホカバの敗北
神戸の会場で金曜日朝10時から試合が始まり、2時間経たないうちに3人が負けちゃったんですよ。私も実業団で一応最終日ぐらいまでは残る選手だったんで、日程の9割以上残して終わるって、こんな惨めなことなのかと思いました。
ふと後ろを見たら、連れて行った選手の一人がゲームをしていて、自分の不甲斐なさに涙が出ました。
試合当日の練習会場で、3人なので“まず私が一人の選手と練習するから残り二人はここで練習して”と言って、しばらくして戻ってくると、まだその二人が練習せずに端っこにいるんです。
写真:丹藤貴(弘前卓球センター代表)/撮影:ラリーズ編集部
ああそうか、この子たちにとっては、大阪でも神戸でもブラジルでも心理的にハードルがあるんだと気づきました。地元の子で青森県から出た経験がほとんどなかったので。
場馴れもさせないのに、こういう場所でいきなり力を出せっていうのは無理だ。経験をうまく積ませて、なんとかここで力を出せるように持っていかなきゃと思って、それ以降は練習試合も含めて、どんどん子どもたちの経験を増やしていきましたね。
写真:練習中も楽しそうな子どもたち/撮影:ラリーズ編集部
負けず嫌いだった梅村優香
写真:2025年1月全日本卓球選手権大会での梅村優香(サンリツ)/撮影:ラリーズ編集部
多球練習でもボールを人一倍多く持ってきて、“いっぱい拾ったから私にたくさん球出してね”って言っていました。やる気があって、積極的で、明るい子でした。
いまも帰省すると卓球場に顔を出してくれて、子どもたちもすごく励みになってます。
写真:練習する弘前卓球センターの子どもたち/撮影:ラリーズ編集部
中学生男子がバンビ女子の相手をする
ただ、卓球場も狭いし、人数も減っているので男子女子で分けて練習できないので、そうすると男子と打つ女子は伸びますよね。
写真:バンビ女子と中学生男子が練習/撮影:ラリーズ編集部
ただ、男子自身の練習はどうするんですか。
写真:男子中学生がいいボールを打っていた/撮影:ラリーズ編集部
課題や練習メニューは手紙で
練習中の丹藤さんを拝見していて、厳しく上から言うよりも、選手に任せるという姿勢だなと思いました。
保護者の方の中には“練習やらない子に怒ってくれない”と言われたこともありますが、子ども自身が“これじゃダメだ”と気づいて方法を考えるようになってほしい。じゃないと、卓球の試合を組み立てていけないです。11点取るまで我々指導者は何も手出しできないんですから。
練習中にあれこれ言わない分、具体的な課題や練習メニューは、定期的に私が手紙を出すんですよ。
写真:練習を静かに見守る丹藤貴氏/撮影:ラリーズ編集部
写真:全農杯全日本ホカバ青森県予選会・カブ女子で優勝した内田こはる(弘前卓球センター)/撮影:ラリーズ編集部
ツッツキが上手な雪国の選手たち
あと、練習を見ながら、ツッツキが上手な子が多いなと思いましたが、それはカットマンだった丹藤さんの影響もあるんでしょうか。
ただ、最初は効いても途中でループドライブで攻略されるので、11点は取れても33点は取れないです。
いま、若い指導者が増えてきた青森県に
逆に近年、青森県から関東の大学に進む子が少ないので、そのパイプも強くなってほしいと願っています。
私も今年64なので、そうしたこの地の伝統が次の世代に引き継がれていくといいなと。
「もうひと花くらい咲かせたい」
今年のホカバ予選青森県予選で5人が入賞し、副賞として贈られた県産のお肉やお米を保護者の方が調理、練習後にチームみんなで食べる一コマもあった。
写真:1位副賞「青森県産倉石牛サーロインステーキ」に歓声を上げる子どもたち/撮影:ラリーズ編集部
前日の大会では厳しい表情でベンチに入っていた保護者の方々も、みな柔和な笑顔で子どもたちにおにぎりを握る。
写真:子どもたちの練習中に保護者の方々が握ってくれたおにぎり/撮影:ラリーズ編集部
写真:練習後チームみんなで頬張る/撮影:ラリーズ編集部
口下手だけど、温かい。不器用だけど、まっすぐで、この土地を象徴するようなクラブだ。
「もうひと花ぐらい咲かせたいなと思ってるんですよ。まずは今年、チームの子たちが良い成績を上げられるように」丹藤さんの情熱もまだ燃えている。
弘前で22年続く弘前卓球センターの時計は、今日も確かな時を刻む。
写真:壁掛け時計に「贈 シチズン時計卓球部」の文字/撮影:ラリーズ編集部
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取材・文:槌谷昭人
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