熱狂の観客1459人 金沢ポートホームマッチ運営の秘密

選手が球出しする的あてゲーム

来場者満足度の最大要因はもちろんチームの勝利だが、事業サイドがコントロールできるものを紹介する。

会場にスペースを作り、開場中の1時間限定で卓球の的あてゲームを行った。
景品に、地元が誇る“B級グルメ”チャンピオンカレーのレトルト商品やチームTシャツを用意し、今回出場機会のない鈴木柊平選手(地元・遊学館高校生でもある)が球出ししたこともあって、毎日行列となって歓声が上がった。


写真:的あてゲームの球出しをする鈴木柊平(金沢ポート)/撮影:ラリーズ編集部


写真:続々と参加者が訪れた/撮影:ラリーズ編集部

卓球経験者が少なくない来場者たちの“プレーヤー魂”も刺激するのだろう。地元の卓球連盟関係者も密かに並んで試す姿もあった。

Tリーグの試合は、世界のトップクラスのプレーを間近で見られる機会であると同時に、地元の楽しいお祭りであるべきだと考えている。

公式練習を見入る人がいて、的あてゲームに真剣になる子どもがいて、生ビールを飲みながら卓球談義に花を咲かせる人がいて、少なくとも試合開始まではいろんな楽しみ方ができる“緩さ”を用意したい。


写真:ホームマッチ限定・選手のおにぎりセット/撮影:ラリーズ編集部


写真:ホームマッチ限定商品もたくさん/撮影:ラリーズ編集部


写真:金沢ポートのホームマッチはアルコールも飲める/撮影:ラリーズ編集部


写真:選手入場前には地元の様々なパフォーマンスが披露される/撮影:ラリーズ編集部


写真:1,000人超の入場者を受付で捌くのは卓球愛好家のレディースのみなさん/撮影:ラリーズ編集部

試合中こそ運営は修正を

試合が始まると、応援がお客さんの気持ちに寄り添うものなのかどうか、細かくスタッフ間で微修正しながら運用している。

ちなみに今季から、タオルタイムに観客が手拍子しやすいリズムのBGMを流したところ、“応援に参加しやすい”と好評なので続けている。

熱い応援が金沢ポートの名物だが、初めて来場した人に疎外感を与えないことも大事な要素だ。


写真:昨季選手として出場した薜大斗(遊学館)もホームマッチを支える/撮影:ラリーズ編集部


写真:ボールキッズは地元の卓球クラブの子どもたち/撮影:ラリーズ編集部

課題もある。

17日の岡山リベッツ戦は、応援合戦の様相を呈し多いに盛り上がった。

どちらの応援団も選手がサービスに入るギリギリまで声がけするため、選手がサービスに入る間が少しずつ押し、第4マッチで終了したにも関わらず試合時間は約3時間となった。

途中からBGMや応援を巻いていったが、お客さんの満足度という観点から、運営中「間延びしてないか」「初めてのお客さんが退屈していないか」を、演出面から瞬時に修正していくことも、事業サイドの仕事だと思っている。


写真:綿密に打ち合わせする会場MCと応援団長“かわにゃん”/撮影:ラリーズ編集部


写真:表情が厳しすぎる筆者/撮影:ラリーズ編集部

勝っても負けても、3日間とも試合後のファンサービスは実施した。
勝利インタビュー中に、フロアに選手毎に並べる列を作り、スタッフがひとりずつサインや撮影のサポートに立つ。私自身もマイクを握り「明日も選手は試合なので、ごく短時間ですが」「サインか写真かどちらかひとつで」「ここで終了です、すいません」と、現場で丁寧にアナウンスすれば、お客様も「そうだよね、ありがとう」と、笑顔で時間短縮にも協力してくれる。

入場者が2,000、3,000人を超えてきたときに同じことができるとは限らないが、少なくとも、いまはまだできる。

史上最速の設営・撤去

負けて悔しい最終日も、すぐに撤収作業はある。
金沢ポートのホームマッチ運営は、チームスタッフはもちろん、多くのボランティアスタッフによって支えられている。

今回、リーグの設営関係者からも「史上最速じゃないか」と驚きの声が上がった。設営・撤収共に、およそ2時間30分から3時間ほどで作業が完了したからだ。


写真:ボランティアスタッフによる搬入の様子/撮影:ラリーズ編集部


写真:(左)設営前(右)設営後の体育館/撮影:ラリーズ編集部

逆に言えば、どのチームもTリーグの会場設営は、体育館の養生、赤マット敷設やTリーグ本番台設置、客席増設など、多くの工数を現場で必要とする。

チームの持続可能性のためにも簡略化できる部分はないか、常に見直しが求められている。

コネクトマット
写真:今季から導入されて時短に貢献する東リ製のコネクトマット/提供:金沢ポート


写真:競技エリア床の設営が早くなった/撮影:ラリーズ編集部

ファンと新規層は両輪

もちろん、選手が活躍してチームが勝ち続けることが、最大の観戦価値だ。

ただ、チームが勝てなかった日にも、お客さんが「残念だったね、でもまた来るよ」と言って帰路についてもらうために。
「次も手伝います」と、ボランティアスタッフも気持ちよく参加できるチームであるために。
そうして作られた空間が、初めて来場したお客様にとっても、満足度の高いものであるために。

卓球興行は、身内のように支えてくれる卓球ファンと、新たに卓球に関心を持ってくれる新規層のどちらも欠いては持続できない。

もちろん、私たち金沢ポートも途上に過ぎず、さっそく次節の集客に四苦八苦している。

まだ金沢ポートが参入するずっと前、2018年10月に両国国技館で迎えたTリーグ男子開幕戦は、入場者5,624人だったという。

だから何だ。

多くの困難に見舞われたこの石川の地で、それでも卓球観戦に足を運んでくれた1,459人のお客さんの表情が、私たちの挑戦の意味と、卓球のこれからの可能性を教えてくれる。


写真:金沢ポートの観客席の様子/撮影:ラリーズ編集部

取材・文:槌谷昭人(金沢ポート取締役 兼 ラリーズ メディア事業本部長)

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