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「年齢?ただの数字でしょ」吉田海偉は今も負けた日の夜は眠れない

バックハンドを使い始める契機は日本リーグ

――オールフォアが代名詞の吉田さんですが、でも今は、実はバックも多く使いますよね。何か具体的なきっかけがあったんですか。
吉田海偉:日本リーグに出てからですよ。ヨーロッパでやっていて、36歳で東京アートに所属して日本リーグに出ると、日本人選手はレシーブから攻めてくる。両サイドにチキータ来ると、なかなか自分も回り込むことができない。

ヨーロッパ人は打たせてくれるから、オールフォアで計算できたんだけど。

日本リーグに出た当初は5勝2敗とか、中途半端な成績でした。

これはバックも入れたほうがいい、バックで変化つけてチャンスボールを狙いに行ったほうがいいなと。結構練習メニューも変えたら、どんどん成績も良くなって。

――そこからスタイルを変えられるのがすごいですよね。
吉田海偉:勝ちたいから。

今のほうが自分の卓球早いですよ。日本リーグ時代の練習の成果ですね。後ろに下がらなくなった。早くないと日本では勝つの難しいから。

――勝つために、必然的にスタイルが変わってきたと。

小西海偉
写真:2022年全日本選手権での吉田海偉/撮影:ラリーズ編集部

吉田海偉:あとは、年齢的には全部オールフォアで行けるのか、体力面も考えないといけない。

1試合はいいよ、でも2試合、3試合続くとだんだん疲れてくる。今日も明日も明後日も試合。回復も遅い。どうする。

――確かに。
吉田海偉:いまは、誰とやっても簡単に勝てないですから。

でも逆に、相手も自分に簡単に勝てないです。一緒です。

勝っても疲れる。負けるとつらい。でも、どちらにせよゼロの気持ちはない。それは快感。

ただ、かなり体力使うんですよ、次の日必ずどこか筋肉痛です。

吉田海偉
写真:吉田海偉さんを表したような「漢は黙ってオールフォア」Tシャツ/撮影:ラリーズ編集部

誰よりも早く練習場に行く

――でも、怪我は少ない印象です。
吉田海偉:昔からずっと、ストレッチは長いですよ。練習前に40分とか。練習場には誰よりも早く行きます。

練習終わった後もアイシング。自分で氷探して作って。ヨーロッパのどんな試合会場でも監督にお願いして“氷作りたい”って。

別にやりたくないけど(笑)、でも卓球人生長くやりたいからね。

――若い頃から変わってないことが多いですね。
吉田海偉:そうですね、ラケットもラバーも変えないし。奥さんにはよく言われますけどね、周りはみんな変わってるよって。

ボールも台も変わってるし、確かに飛ばなくなってる。トップ選手も若い選手もみんな変えてるのにって言われるけど、でも、なんで、みんなと一緒じゃないといけないの。誰が決めた。

俺は自分が使いやすいものをずっと使いたい。勝てばいいじゃん。俺が64(テナジー64を使用)で勝てば、なんか文句あるかって思う。自分、頑固なんですよ。

吉田海偉
写真:吉田海偉/撮影:ラリーズ編集部

次の全日本に出ない理由

――ところで、1月の全日本に名前がありませんでしたね。
吉田海偉:去年の全日本はランク決定で負けたから、今年は埼玉県予選から出ないといけなかったんだけど、ちょうどその予選のあった10月頭はポーランドリーグに出ていて。

日本に帰りたいなと思ったけど、ウクライナの問題もあって飛行機がヨーロッパに飛ばないかもしれないから、クラブとしては帰ってほしくないと。

俺も向こうをメインに考えて年間契約しているし、全日本は何回も優勝している(2005年/2006年シングルス連覇)から、まあいいかと。なので、次の全日本は出ないです。

吉田海偉
写真:2022年全日本選手権での吉田海偉/撮影:ラリーズ編集部

年齢なんてただの数字でしょ

――来季はどう考えていますか。
吉田海偉:今のチームからオファーもらってます。“吉田選手が柱です。プロ意識が強く、チームに良い雰囲気を与えてくれる”と。それを聞いて、オッケー、それで十分ですと。

アジア人枠で、必ず出場してしかも勝つから、チームにとっても必要なんだと思う。

契約内容はこれからだけど、自分も早く契約して安心したいので、次回戻ったらサインしたいなと思ってます。

一年か二年かは、奥さんに相談しようと思うけど。

――年齢をまったく感じない話ですね。
吉田海偉:年齢なんて、ただの数字でしょ。

どうせ一年で引退しないし。

俺、辞めたら魅力なくなるもん。奥さんに“外に出ていけ”って言われるよ(笑)。

――吉田さんが応援される理由がわかる気がします。
吉田海偉:俺も、ファンから応援してもらえるのがめちゃめちゃ嬉しいんですよ。

今だって、国際大会出てないから日本代表でもないのに、まだ自分のこと忘れてない。

だから、自分にできることは引退せずに、もっともっと頑張るしかない。

吉田海偉
写真:吉田海偉/撮影:ラリーズ編集部

ヒーローは変わらない

「ポーランドでこんなに喋ることないから、話が止まらないよ」
駅まで送っていく道でも、吉田海偉との話は尽きなかった。

吉田が語り続けていたのか、私が尋ね続けていたのか。
お互い40代、若返っていく世界の現場で戦う共感のようなものを感じていたのかもしれない。

ふっと改札で、吉田が手を差し出した。

「でも、頑張るしかないから」

振り返らずにホームの階段を登っていった。
ヒーローはずっと変わらない。変わるのは、いつも俺たちのほうだ。

吉田海偉
写真:吉田海偉/撮影:ラリーズ編集部

取材・文:槌谷昭人(ラリーズ編集長)

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