【卓球】強いだけじゃない 取材者が注目した“ダイヤの原石”な3選手<全日本ホカバ>

平塚健友,本間あやめ,櫻庭鈴佳

先月(7月)28日~31日、卓球の「全農杯全日本卓球選手権大会 ホープス・カブ・バンビの部」(通称「ホカバ」)が神戸市で開催された。この大会は全国の都道府県予選を勝ち上がった小学生たちが日本一をかけてしのぎを削り、様々なドラマが生まれる場でもある。今回は、大会の結果だけでなく、現場で見た選手たちの活躍の背景、今後の活躍が期待できそうな選手を取材者目線で紹介したい。(取材・文/二株麻依)

「カットマンになって勝てるようになりました」平塚健友(フェニックス卓球クラブ)

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男子ホープスの部で、初優勝を飾った平塚健友(フェニックス卓球クラブ)。決勝戦は、立川凜(ピンポンカベ)と対戦。粘り強いカットと攻撃を組み合わせたプレーで、ゲームカウント3-1で勝ち、優勝を決めた。試合後のインタビューで平塚は、「今までの努力が形になった試合でした」と話してくれた。日本一を勝ち取った平塚だが、選手として順風満帆にここまで辿り着いたわけではなかったことも教えてくれた。「3歳で卓球を始め、最初は全然勝てなかった。県大会でも全く勝てなかった。でもカットマンになって、勝てるようになりました。カットマンで上位に入っている人は少ないので、自分が優勝できて良かったです。」

平塚健友

そんな平塚を支えてきたのは、コーチであり父でもある平塚陽一郎さんだった。
試合中、平塚が1点取るごとに、ベンチからガッツポーズでエールを送る陽一郎さん。
「息子はメンタルが決して強い方ではない。おっとりした性格でぼーっとしています。全く勝てなかったそんな息子を勝たせたくて、カットマンにしました。彼の性格に合っていたと思います。」

次々と攻撃球を打ち込まれるカットマン。親としては見ていて辛いというが、厳しい練習を共にしてきただけに、日本一になった喜びもひとしおだ。
優勝が決まった瞬間、陽一郎さんの涙ぐむ姿があった。

平塚健友

次の目標は「全中(中学生の全国大会)優勝です」と力強く語ってくれた。

あえて対戦表は見ない 本間あやめ(新発田ジュニア)

本間あやめ

女子バンビの部でベスト8入りを果たした、本間あやめ(新発田ジュニア)。初日の第1ステージリーグ戦で、表彰台圏内の呼び声高い強敵、第2シードの岡田結愛(OKATAKU)を2-1で下し、第2ステージトーナメント戦に駒を進めた。

本間は大会を前に、異質ラバーへの対策など技術練習を重ねてきたが、大会でどれだけ強い相手と戦うかなど、詳細は知らされていなかったという。

本間あやめ

ベンチに入ったのは、父・本間裕之さんだった。
対戦表を見て一喜一憂する選手も多いはずだが、裕之さんは「対戦表の中身をあえて娘に伝えないようにしています。第2シードだとか、娘は知りません。目の前の敵に集中してもらいたいから」と話す。余計な情報は入れず、本来の力が発揮できるようにしたいという父のはからいだった。

本間あやめ

去年は第2ステージトーナメント戦に進めなかった本間。岡田との激戦を制した後、祢屋梓(ねや卓球クラブ)、鈴木愛梨(岸田クラブ)との対戦で順調に勝ち星をあげ、その成長を見せつけることとなる。準々決勝ではバンビ優勝の木方菜々美(T.T彩たま)に敗れるも、今年のホカバは本間にとって、父と2人3脚で掴んだ大きな一歩だった。来年はカブの部で更なる成長を見届けたい。

青森の元気印 櫻庭鈴佳(TLクラブ)

櫻庭鈴佳

女子の初日第1ステージリーグ戦から異彩を放っていた選手が、櫻庭鈴佳(TLクラブ)だ。長身で手脚の長さを生かしたダイナミックなプレーを見せてくれる選手だが、その戦いぶりは圧巻で、誰よりも声を出し(許容範囲内で)、誰よりも勝ちたい気持ちを熱く体で表現していた選手だった。

櫻庭鈴佳

結果は第2ステージトーナメント戦の2回戦敗退。大会中、ラケットにまつわるトラブルに見舞われるも、櫻庭の精一杯のプレーをコーチの乳井秀樹さんは「100点の出来でした」と評価している。今後の目標について、櫻庭は「全国一になって、オリンピックに出たい」と、伊藤美誠を意識した”お団子ヘア”で語ってくれた。
櫻庭鈴佳
「勝ちたい」と強く思うことが勝負の原点である。きっと今後の彼女の飛躍を後押ししてくれるはず。

<ふたかぶメモ>

二株麻依
4日間の熱戦を見て感じたのは、試合の展開が全く読めないこと。小学生の試合は、大人の試合に比べ、予想できないことが起こる。第1シードが勝つとは限らず、無名の選手がいきなり上位に食い込むこともある。何が起こるか分からない展開にみんなが全力で挑むところが全日本ホカバの面白さなのだと思う。(女子カブの部優勝の松島美空など、安定して勝つことができる選手は別格。)
勝ち上がる選手には、周囲の手厚いサポートが得られているという特徴もあった。家族やコーチとの信頼関係を上手く築くことができ、思いの共有ができ、みんなで一緒に戦う。良い結果も悪い結果もみんなで受け止める。選手1人1人に色んなドラマを見た大会だった。今年の選手たちが来年以降どんな成長を見せてくれるのか、楽しみだ。

取材・執筆:二株麻依(ふたかぶまい)

フリーアナウンサー (シー・フォルダ所属)。元NHKキャスターで、主にスポーツ、報道、情報番組を担当。取材して書くこと・話すことが得意。小学3年生で卓球を始め、慶應義塾大学在学中は全日本大学総合選手権大会(団体の部)出場。夢はスポーツ実況をすること。

写真提供:Rallys