
今月はTリーグの開幕や世界卓球と、卓球界では大きなイベントが目白押しだ。これまで卓球に親しんできた人、そうでない人も、競技により触れられるチャンスとなる。そこで、卓球の試合での注目すべきルールやマナー、そして、選手たちの間での“暗黙のルール”を元全日本王者の藤井寛子さんに聞く。(取材・文/二株麻依)
サービスのポイントは「上げる」・「隠さない」
(Photo by fundamental rights)
ーー初心者が知っておくと良いルールやマナー、どんなことがありますか。
藤井寛子(以下、藤井):卓球はサービスから始まります。トスはだいたいネットぐらいの高さ(16センチ以上)以上、投げ上げてから打つのがルールになっています。身長が低い子どもたちは投げて打つことが難しくて、ギリギリのラインというか、ぶっつけサーブ(トスを上げずにボールとラケットをぶつけて出すサーブ)を出す選手もいますが、しっかりと指導者が教えていかないといけないと思います。
上級者やトップ選手であっても、トスの高さを変えたり、打球の瞬間を相手に見せにくくして変化をつけたりする時は、ルールの範囲内でできるようにすることが大切だと思います。
(※サービスの打球の瞬間は隠してはいけない。ネットの両端と打球ポイントを結んだ三角形の内側に障害物がないようにしなくてはならない。)
相手の選手も、もしそれで気になっているのであれば、試合中、我慢せずに言っていくべきですね。日本って結構そのまま流れていくパターンが多いと思うのですが、自分の主張はしっかりとしていくのが大事だと思います。
“威嚇”で失点しないように
(Photo by fundamental rights)
ーー試合中よく注意される選手やベンチ、応援席がありますが、どういうことが起きているんでしょうか。
藤井:まず相手を威嚇してはいけないというルールがあります。自分を鼓舞したり勇気づけたりするための声を出すことや、ガッツポーズをするのは良いと思うんですよね。しかし、例えばですが、相手の近くに行って、相手の目を見て大声を出すようなことをすると、相手にプレッシャーをかける“威嚇”と見なされて注意を受けることがあります。
注意を受けた場合、それが重なると、相手に1得点あげてしまうことになります。それがさらに続けば、退場になることもあります。
弱い選手は必ず1点もらえるって、本当?
ーーレベルの差がある選手同士が対戦した時、強い選手は弱い選手に1点あげるマナーがあると聞いたのですが、本当ですか。
藤井:ここ数年で変わりましたが、以前はありました。私も現役選手の間はそれがマナーというか暗黙のルールだと思っていました。対戦相手への敬意を表すという意味で。ラブゲーム(相手が1点も取れずに自分が11-0で勝つ状況にあるセット)になりそうだったら1点あげるんですよ。
でも5ゲームズマッチ(3セット先取すると勝てる試合)ですでに2セット取っていて、3セット目がラブゲームになりそうだったら、1点あげても良いのかなって思いますが、2セット目、3セット目がまだある状況でやると、次のセットで逆転負けすることもあります。まだ勝負は決まっていないのに点数をあげるのはどうなのだろうと個人的には思います。
ーーその習慣がなくなってきたのは何かキッカケがあったのですか。
藤井:リオ五輪で活躍し、2019年の世界選手権で優勝した中国の劉詩雯という女子選手がいるのですが、10-0のマッチポイントの状況で1点もあげずにゲームを進めたことがあったんですよね。彼女はそれまでの大会で、相手に1点あげて負けた経験があったんです。勝負がまだ終わっていないのにあえてミスをするという手の感覚が悪くなるようなことをする上に、ほんの少しの気の緩みが出てしまうと流れが大きく変わってしまうんですよね。そうした経験から劉詩文は考えが変わったと思います。最後の1本まで気を抜かないという意味でも、相手に敬意を払うという意味でも、最後まで全力で戦う姿勢を見せるようになったのは、私は良かったのではないかなと思います。劉詩雯の影響もあり、今の選手たちは認識が変わってきました。
(次のページ「お互いが気持ちよくプレーできる競技」へ続く)
お互いが気持ちよくプレーできる競技
ーー逆に、選手たちの中で今も大事にしている習慣はあるのでしょうか。
藤井:ありますよ。ネットイン(ボールがネットに引っかかって相手のコートに入ること)や、エッジ(ボールが台の端の角に当たること)をしてしまったら、自分が得点したとしてもガッツポーズなどはせず、「ごめんね」って言いますね。中国だと、あえてそこを狙っているという感覚もあるみたいですが、特に日本人は「ごめんね」という仕草をします。至近距離の競技だからか、お互い気持ち良くプレーするためなのかなと思いますね。結構、マナーに近い暗黙のルールなのかなと。
あと、卓球の試合で素晴らしいと思うことがあって、普通は審判の判定は絶対覆らないと思うのですが、選手はその判定が違うと思ったら、自分が1点失うとしても、正直に申告してジャッジしてもらうんです。「今のはサイド(ボールが卓球台の側面に当たって、打った自分のミス)だったよ」って。卓球選手はみんなだいだいやっている習慣かなとは思いますね。
(Photo by Sergey Pakulin)
>>特集連載:元卓球日本代表 藤井寛子「今、卓球が熱い理由」
■プロフィール
藤井寛子(ふじい・ひろこ)
1982年生まれ。奈良県出身。両親が主宰する卓球クラブで卓球を始める。四天王寺高等学校、淑徳大学を卒業後、日本生命保険相互会社に入社。全日本選手権女子ダブルスで5回の優勝、シングルスでは3回の準優勝の経験がある。現在はYOYO TAKKYU西日暮里店のコーチとして活躍。オリンピックなどのテレビ中継で、解説者を務める。
Follow @ssn_supersports