
写真:張本智和、早田ひな(提供:ITTF)
9月3日に開幕した「第26回ITTF-アジア卓球選手権大会」は、連日熱戦が繰り広げられ、男女ともに盛り上がりを見せている。9月後半に控える「アジア競技大会」とともに9月のアジアにおけるビッグイベントであり、来年のパリ五輪の選考ポイント対象大会でもあるため、各選手のモチベーションの高さも窺える。今回は団体戦を皮切りに、混合ダブルス、シングルス、ダブルスと行われている今大会の前半戦を振り返っていきたい。(文・井本佳孝)
エース張本筆頭に1ゲームも取れず


張本智和
最初の種目として始まったのが男女の団体戦。同種目はレギュレーションこそ異なるものの、シングルス、混合ダブルスと並び、来年のパリ五輪の試合形式に採用されている。日本勢の躍進に加え人選にも注目が集まった。そんな日本男子は4日の準々決勝でいきなり優勝候補の中国と戦うことに。東京五輪団体金メダリストで現在世界ランキング1位の樊振東、同ランク2位で23歳の新鋭王楚欽、そして34歳を迎えたベテランで、ロンドン五輪から3大会連続金メダルのレジェンド馬龍らが揃う中国を相手に今の日本の力が試される試金石となった。 日本は世界ランク4位の張本智和、パリ五輪選考ポイント2位の戸上隼輔、同3位の篠塚大登という現状考えられる最強メンバーを並べ中国に立ち向かった。しかし、王楚欽と対した1番手の張本が1ゲームも取れずに0ー3のストレート負け。エースで先手を取ることに失敗した日本は2番手の篠塚が現在の最強王者、樊振東の牙城を崩せず同じくストレートで完敗。最後の砦として戸上が馬龍に立ち向かったが、1ゲームも取ることができずに0ー3。いきなり中国相手という組み合わせに恵まれなかった部分はあるが、世界ランク日本勢では唯一トップ10以内の張本ですら1ゲームも取れずというショッキングな敗戦となってしまった。
黄金世代3人が集結


平野美宇,伊藤美誠,提供ITTF
金メダル獲得が期待された女子団体は、4日の準々決勝でインドと対戦。メンバー選考にも注目が集まったなか、指名されたのが伊藤美誠、早田ひな、平野美宇。幼いころからしのぎを削ってきた同学年は、来年のパリ五輪選考ポイントでも上位3位を独占しており、団体戦における戦いには注目が集まった。 そんななか1番手に指名された伊藤はA.ムカルジー相手に第2ゲームこそ競り合いとなったが15ー13でものにすると、第3ゲームもしっかり取りきり勝利。2番手の早田はバトラー相手に手を焼き、第3ゲームでは接戦の末に9ー11で落とすことに。それでも第4ゲームでは11ー3で圧倒し平野につないだ。S.ムカルジーと対峙した平野も第1ゲームを奪われるなど苦戦を強いられたが、最後は地力の差を見せつけ3ー1で、ゲームスコア3ー0の勝利に貢献した。 そんな女子に準決勝で立ちはだかったのが中国。世界ランキング1位を独走する現最強女王の孫穎莎、東京五輪金メダリストの陳夢らをはじめとしたオールスターチームが男子と同じく女子チームにもそびえ立つ。“中国の壁”を越えられるかどうかは、今大会だけでなく、来年のパリ五輪での金メダル獲得に向けても現在地を知るための戦いとして注目が集まった。
来年のパリへ残された宿題


写真:早田ひな(提供:ITTF)
そんな大一番で1番手に指名されたのが今や日本のエースと呼べる早田。孫穎莎を相手に力が試されたが、第1、2ゲームを失うと、第3ゲームでは白熱の勝負を展開。しかし、最後は12ー14でこのゲームも落とし、0ー3で敗れた。続く平野は陳夢相手に第1ゲームでは主導権を握り、11ー7で奪い切る好スタートを切った。今季は孫穎莎撃破にも成功している平野の戦いには期待が高まったが、第2ゲーム以降は陳夢に試合を支配される展開に。第2、3ゲームを連続で落として逆転を許すと、そのまま1ー3で敗れた。 3番手の伊藤は世界ランク4位の陳幸同。過去2大会で五輪のメダルを獲得し、黄金世代の中でも屈指のキャリアを築いてきた伊藤にとっては「打倒中国」は五輪などの国際大会と並び掲げ続けているテーマ。そんななかで団体戦の最後を任されたが、流れに乗ることはできずに0ー3で敗れた。男子と同じく中国の前に屈した女子チームがここからどのような成長曲線を描き中国チームに立ち向かっていくのか。選考1位を独走しパリ行きへ近づく早田、2位で続く平野、3位で平野を追う伊藤という3人によるチームが来年のパリでも結成されるのかも含めて期待が集まる。
“はりひな”は中国ペアに屈す


写真:早田ひな、張本智和(提供:ITTF)
また、団体戦と並び来年のパリ五輪ではメダル獲得が期待されるのが混合ダブルス。前回の東京大会では伊藤と水谷隼のペアが金メダルに輝くなど、日本の得意種目と呼べるなかで今回エントリーしたのが張本智和、早田ひなによる“はりひな”ペア。現在の男女のエースと呼べる2人は来年の五輪選考レースで独走し、パリ行きは現実味を帯びる。そのなかで国際大会でも実績を残すこの2人よるペアは打倒中国を成し遂げての金メダルが期待できるレベルにある。 そんななかで挑んだ今大会は、5日の2回戦でインドのペアに3ー0でのストレート勝ち、続くラウンド16の戦いでもモンゴルペアを寄せ付けずストレートで勝ち進んだ。準々決勝で立ちはだかったのが団体戦に続いての中国勢。林高遠と王芸迪によるペアと対峙した張本、早田ペアは互角の勝負を演じたものの、第1ゲームを10ー12、第2ゲームを11ー13で僅差で落とす。その粘りは第3ゲームまで続かず、7ー11で落としメダル獲得を逃した。
アジア競技大会でリベンジなるか
今大会の前半戦を振り返ってきたが、ここまでは日本の最大のモチベーションである“打倒中国”という言葉が重くのしかかる結果となってしまった。それでも、シングルス、ダブルスの戦いを残しており、9月後半にはアジア競技大会で再び中国勢との対戦は十分に考えられる。張本や早田、平野などは同大会でもリベンジの可能性があり、今大会での教訓を経てどのように修正を図っていくのかは期待したい。 パリ五輪へ向けても重要な位置付けを占める「アジア卓球選手権」。団体戦や混合ダブルスでは打倒中国を果たせなかった日本勢が今大会の後半戦、そしてアジア競技大会へと続くアジア決戦でどのように個人、チームとしての能力を高め、飛躍を果たしていくのか。中国に次ぐ存在として立ち位置を確立する日本勢のさらなる覚醒には注目だ。
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