• HOME
  • 記事
  • 卓球
  • 【吠えろ、神巧也 前編】“主将退団”の裏側に隠された苦悩「弱いなあ、自分」

【吠えろ、神巧也 前編】“主将退団”の裏側に隠された苦悩「弱いなあ、自分」

卓球インタビュー 【吠えろ、神巧也 前編】“主将退団”の裏側に隠された苦悩「弱いなあ、自分」

2022.04.01
この記事を書いた人 槌谷昭人1979年生まれ。テレビ/映画業界を離れ2020年からRallys編集長。
軽い小咄から深堀りインタビューまで、劇場体験のようなコンテンツを。
戦型:右シェーク裏裏 @tsuchito 誰にだって、うまく行かない時期はある。
それが喜劇か悲劇かは、その後の歴史が判断することだ。

神巧也(じんたくや)、29歳。
卓球TリーグのT.T彩たまのキャプテンとして、そして咆哮するプレースタイルで「観る卓球」の面白さを体現してきた選手が、退団を発表した。

昨季の4thシーズン、神はキャプテンでありながら、ファイナルも含めて22試合、シングルスで一度も出場機会がなかった。

私が、神に話を聞きたいと思ったのは、ベンチ入りから外れた後もチームに帯同し、会場入口でお客さんにサンクスカードを手渡しし、試合前は客席で応援団に声をかけながら、ずっと会場に足を運んだファンとコミュニケーションをとり続けていたからだ。
神にしかできないコート外の仕事に、生き生きとしているようにさえ見えた。

神巧也
写真:神巧也/提供:シゲマツマコトでも、そんな簡単に割り切れるものじゃないはずだ。

だって彼は4年前、会社員の立場を捨て、ラケット1本でプロになることを決めたのだから。

退団の理由を聞いた。

このページの目次

  • [8 神巧也インタビュー(2020年4月公開)]()

悔しいシーズンだった

「悔しいシーズンでした。勝負の世界でプロとしてやっていてシングルスに1試合も出られなくて満足していたら、選手として終わりだと思います」
厳しい表情で昨季を振り返る神。

不調に陥ったタイミングは、わかりやすくコロナ後からだ。
コロナ禍がやってくる直前の2019年、自身のキャリアハイとなるTリーグ最多勝13勝を挙げ、リーグ後期のMVPも獲得していた。
オフシーズンには積極的に国際大会にも出場を続け、2019年12月時点の世界ランキングは自身最高の44位まで上がった。


写真:神巧也 2019-2020シーズン/提供:©T.LEAGUEそして、コロナ禍がやってきた。
約1ヶ月半ラケットを握れなかった。
もちろん、神に限ったことではない。
しかしトップ選手の中でも、練習と試合を重ねて感覚を補うタイプの神には、そのブランクは残酷に影響した。

「全てが言い訳になってしまうんですが」と断った上で、神は口を開いた。

「僕はボールタッチのセンスがある選手ではない。だからこそ、他の選手より練習したり工夫したり、たくさん試合に出たりしてきました。2週間以上休むと本当に感覚がなくなってしまうんです。」

神巧也
写真:神巧也/撮影:ラリーズ編集部
googletag.cmd.push(function() { googletag.display(‘div-gpt-ad-1579223839841-0’); });

焦ってしまった

練習を再開したときに焦ってしまった、と神は振り返る。
ヨーロッパを観ると、コロナ前まで同じくらいの位置だと思っていたアントン・ケルベリ(スウェーデン)や邱党(キュウダン・ドイツ)などが、一気に腕を上げたように見えた。

「俺も、ここからだ」
Tリーグ3rdシーズンに向け、練習メニューとトレーニングの量を増やした途端、身体が悲鳴を上げた。持病の腰痛が再発したのだ。

「腰椎椎間板症を持ってるんですけど、この数年はうまく付き合えていたんです。焦ってしまったんですね」

神巧也
写真:神巧也 2019-2020シーズン/撮影:保田敬介## 心に穴が空いたよう

日常生活でもベッドから起きられないほどの痛みが不定期にやってくる。
ひどいときは車椅子での移動になるほどだった。

練習に行くのが辛く、朝食が喉を通らない。練習を途中で切り上げる日もあった。
それまでの神には考えられなかったことだ。
一年前、観衆に向かって咆哮していたキャリアハイの自分が嘘のように、選んだプロ卓球選手の厳しさが身にしみた。

「身体がしんどくなると、メンタルもしんどくなって。心に穴が空いたようでした」

神巧也
写真:神巧也/撮影:ラリーズ編集部Rallys×パンダーニ コラボユニフォーム登場 オンライン限定販売ハイテンション裏ソフトラバー REDMONKEY ぼくらが欲しいラバーを作りました。Rallys編集部TAKUMANA もっと気持ちよく練習しよう。 NEW Original Tee ¥2,990## 出場試合数が激減

それはわかりやすく、Tリーグでの神の戦績にも表れている。
コロナ禍での3rdシーズン、神はシングルス12戦に出場し、3勝9敗。
9敗のうち、ゲームオールデュースで3連敗している。
前年、最多勝だった2ndシーズンは、最終ゲームの勝率が8割超えだった男が、である。

そして、4thシーズンの昨季は、ダブルスで1試合のみの出場に終わった。
少しずつ再開されてきた国際大会も、隔離期間を考えると、頻繁には出られない。
2019年と比較すると、2021年の神の年間試合数は1/10以下だった。

試合に出なければ、感覚は他選手より早く落ちる。
いったん波に乗ると手をつけられない男だが、しかし、目の前の海はずっと凪いでいた。
出ない選手は、吠えられない。

関連記事